『子育て相談は……まあできそうにないか』
「まずは岩国基地に潜んでいた敵の陰謀を暴き、人類軍全体の脅威を拭い去ってくれたことに、深い感謝を」
「いえ、あれは私の都合でやった事なので……」
深々と頭を下げる少将相手にわたわたと両手を振る。だいたいこっちの事情で滅茶苦茶やらかしたのに、感謝されても。大体、少将はそのせいで大怪我した訳だし。
「いや、あれは必要な事だった。君の立場であれば、アレ以外の手段はない。……我々人類軍の不甲斐なさが招いた事だ。君からすれば、実に我々は頼りなく、愚かな存在であった事だろう。にも関わらず、葛葉さんはこちらへの被害が最小限になるよう立ち回ってくれた。最大限の配慮、本当に痛み入る」
「ああ、いえ、それは別に……」
「こちらの一部の人員が暴走し、銃を向けた事についても謝罪したい。できれば、当の本人達にも出頭させて謝らせたい所だが、そうすると君がいる事が大々的に知れ渡ってしまうのでね……そちらの方が迷惑かと判断した」
あ、やっぱあの萌えイラスト事件、少将も把握してるんだ。そりゃそうだよね……見渡す限りかたっぱしだもんね……。
「いや、ホントに撃たれた件は気にしていないので。そういう風に誘導したのはこっちですし……」
「だとしても許されない事には違いが無い。本当に申し訳ない」
「ま、まあ、あの頃の人類軍は宇宙人どもの嫌がらせで頭おかしくなってたし……今は違う意味で頭おかしくなってる気もしますけど……」
いや本当に何がどうなってんだ?
もしかして宇宙人の精神干渉打ち消すために私の脳波動ぶちまけたのが何か変に作用したとか? あの軍人さんも明らかに直後の挙動がおかしかったしな……。もしかせんでもその気になったらポジティブ洗脳みたいな事できんのかな……?
試す気には到底なれんけど。
人類軍の中に、葛葉派閥とかできたら手に負えない。
「ま、まあ、その話はこれでおしまいにしましょう! キリがありません」
「う、うむ、そうか……」
「それで、話はこれで終わりじゃないでしょう? 他に話があるのでは?」
いくらなんでも謝罪だけで私を呼び出す事はないだろう、密偵に伝えればいい話だし、幸奈ちゃんを追い出す事もない。
恐らく次の話が本命だ。
その認識は間違っていなかったらしく、少将どのは表情を厳めしく固めて、小さく頷いた。
「うむ。実はと言うと、二つ目の話が本命でな。……最近、日本各地での競合地域における宇宙人との小規模な交戦において、妙な報告が多数上がってきている」
「妙な報告?」
「新手の生物兵器……のようなものと、交戦したという報告だ。そしてこれがその写真」
そういって少将が差し出してきた端末には、どこかの山間部、竹やぶの一部を撮影したのであろう写真が表示されていた。ドローンか何かによる撮影なのだろう、かなりの高所からの見下ろし写真だ。ぱっと見、不審な点はないように見えるが……。
「ここだ、ここを拡大すると……」
「こいつは……」
指摘された部分を最大限まで拡大するとようやく、竹やぶに潜む奇怪なシルエットが表示される。すぐさまAIが画像を補正し、詳細とまではいかないものの、概略が掴める程度の映像を表示する。
そこに写っているのは、ゴリラのように前傾姿勢で歩行する、準二足歩行の奇妙な爬虫類型生物だった。黒い甲殻に白い肌、目は黄色く、肉と殻で出来た大砲のようなものを抱えている。
似ている、と素直に私は思った。
私の子供たちに、雰囲気が似ている。
「この怪物と、人類軍の部隊が複数回交戦している。中には全滅した部隊もある。特徴としては、この右肩に抱えている大砲のようなものだ。どうやら共生兵器とでも呼ぶべきものらしく、報告によれば奇妙な虫のようなものを弾丸として放出してくるらしい」
「……もしかして、これがうちの子達だと?」
「まさか」
ひょっとして疑われているのかと尋ねてみると、少将は苦笑いして首を振った。
「そうであれば君をここに招いたりはしないよ。密偵を通して、君の大体の所在は把握している、どう考えても君がこの怪物と行動を共にするのは不可能だ。そもそも、そんな事をして君に何の得があるんだい?」
「ええと……まあ、言ってみただけです。はい」
少将の穏やかな笑みに、私は照れ隠しで愛想笑いを浮かべた。正直、割とちょっと本気だったのだが、真っ向から否定されてしまった。どうやら、人類軍は思った以上に私の事を信頼してくれているらしい、なんか恥ずかしい。
こういう時、創作物だとあらぬ疑いをかけられて、そのせいで事態が泥沼に……となるのがお約束なのだが、人類軍はその泥沼になったらどれだけの被害が出るのかを正しく理解した上で理智的に判断をしてくれたようだ。
一安心である。
「それに、葛葉さんではないという別の保証もある。……正体不明の少女、君より少し年上のそうだな、中学生2年生ぐらいの女の子と、この怪物が行動を共にしていたという報告がある。恐らくはこの少女と怪物は何らかの共生関係にあるとみている。……君と、その怪物達も同じような関係だと、私達は考えているのでね」
「……えっと。私達の事は、どこまで?」
「宇宙人の捕虜収容施設に収容されていた事。そこで何かしらの実験を行われた結果、あの怪物と意思疎通が出来るようになった事。その後、怪物を連れて脱走し、独自に活動している事。私達が知っているのは、それぐらいの事かな」
つまり、私が改造で男から女にされた事、寄生獣の卵を産みつけられて生まれてきたのがあの子達だという事、自分の体であの子達の命を繋いでいる、という事は把握していない、という事か。
「本来なら君のような小さな子供、こちらで保護したいのだが……申し訳ないな、助けられた分際でそのような申し出は厚かましい。君に信頼して頼ってもらえるように今後も努力するよ。ところであの怪物達は卵生なのかな、胎生なのかな?」
「あはは……それは秘密という事で……」
割と核心をついている疑問に、曖昧に笑って誤魔化す。
自分の腹で寄生獣の卵をあっためて、腹を食い破ってきて生まれてきたのを我が子として育てる、ってのは大分キマってるという自覚はあるので言わない方がいいだろう。
多分普通にドン引かれるだろうし、最悪正気を失っていると判断されて“保護”されかねない。それは困る。
この少将さんが善意の人であるのは疑っていないが、だからこそ、そうするべきと判断したら手段は選ばないだろう。
ただ問題は、その少女と行動を共にする怪物が、人類軍を襲ったという事だ。
……考えなかった訳ではない。
連中は、私の制御に失敗した。それによって日夜問わず絶大な被害を出している訳だが、それは逆に言えば、寄生獣と母胎の連携運用が非常に強力な兵器だという証明でもある。
寄生獣の卵は、もともと宇宙人がもっていたものだ。あの時見ただけでも、かなりの数があった。
もし連中が、私という兵器を評価したならば、再現実験を行おうとするのは自明の理。その際、連中も同じ轍は踏むまい。恐らく何らかの形で、強制的に宇宙人に従うように仕組まれているだろう。
危険だ。
恐らく、あの少女も私と同じように、卵を植え付けられる母胎にされているのだろう。私と同じように性転換改造をされたのか、もともと女の子だったのかはわからないが……誰もが、私のようにそれを受け入れるはずもない。というかどう考えても私はレアケースだ。
望んでいないのに卵を植え付けられ、さらには宇宙人達に支配されて人間を殺す事に加担させられる。
それはどんな地獄だ。
正気であったら耐えられるはずもない。
一刻も早く助けなければ。しかし、今の私はまだ卵を抱えている無力な身だ。すぐに動く事はできそうにない……。
それに、共生兵器……シンビオートウェポンとでも呼ぶべきか。あの個体を見る限り、新世代の怪物は明らかに改良されているとみるべきだ。うちの子達も、食餌器官を切り離して地獄絵図を作り出していたのは記憶に新しいが、あれはあくまで蜥蜴の尻尾切りのような原理だ。完全に別の生物を体内に共生させて、武器として扱うような事は出来はしない。
もしかすると、この新しい母子達は、私達より兵器として優れているのかもしれない……。
「……私にこの子達の事を教えたのは、私に対処してもらおうと、そういう事ですか?」
「ん? ああいや、そう思われても仕方ないか。こちらとしてはそんなつもりはない、あくまで警告だ。……彼女達は、君を今後狙ってくる可能性が高い。同じコンセプトの宇宙人の実験体、そして先行例であり宇宙人に害を成す君は評価試験対象として申し分がないだろう。気を付けてくれたまえ」
「……わかりました」
いかんな、流石に今のはちょっと勘繰りが過ぎたか。敵の敵は味方、化け物同士潰し合ってもらおう、そういう魂胆かなと疑ってしまったが、流石に考えすぎか。
いや、どちらかというと……この少将お人よし過ぎない? なんか妙に私に好意的じゃない?
じっと見つめる私の視線に、柏木少将は「?」と首を傾げた。




