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TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い  作者: SIS
小さなママの子育て奮闘記

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51/132

『そういやそれ、どうやって制御してるの? ……出来ない?』



 人の居ない廃墟の街。


 無人のアパートに生い茂った山葡萄の実を食む一匹の熊がいた。熊はしきりに周囲を警戒しつつ、もくもくと山葡萄を口に運んでいる。


 宇宙人の侵略により、人間の数が減った今、野生動物の天下かというと、実はそうではない。


 宇宙人は、獲物の区別をしたりしない。人だろうと動物だろうと、目に入った生き物は殺しつくす。もしかしたら彼らからすれば、人も熊も“現住生物”という意味では同じくくりなのかもしれなかった。


 だからこの熊は、特段臆病で慎重な性質を持ち、それ故に今日まで生き延びてきた個体だ。秋も深まり冬が近づいてきた中、冬眠に備えて少しでも栄養を蓄えるべく、危険を冒してこんな所まで出てきたのである。


「……!」


 その耳がぴくん、と何かに反応する。


 何もない空をしばし見上げた後、熊は大急ぎでその場を離れた。どすどすと走って、自分の住処に戻っていく。


 それから数十分後。


 街の上空を、何隻もの宇宙人のトランスポーターが音もなく通り過ぎて行った。




 最近、極東地域における宇宙人達の活動は大幅な制限を強いられていた。


 理由はいくつかある。


 一つ目は、次々と人類軍の拠点に仕込んでいた中枢が発見、破壊されている事による情報の不足。またそれにより内憂を排除できた人類の結束力が強まり、これまで以上に動きが掴みにくくなっている。


 二つ目は、軌道上ですら迂闊に勢力を投入できなくなった事だ。先日、非常に貴重なドロップシップを“クイーン”に撃墜された影響で、本来圧倒的なアドバンテージであった制宙権を押さえている事の利点は大幅に喪われた。そのせいで母艦との往来が大幅に減り、部隊展開などに大きな影響が出ている。


 そういった事情から一方的に人類軍を頭から押さえつける事が難しくなり、普通の軍事行動のように息をひそめて相手の監視を逃れるような行動が必要になっている。


 今日、センチネルのトランスポーターが比較的低空を飛行していたのもそれが理由だった。


 彼らの任務は岩国基地への空挺強襲である。


 事件以後、岩国基地がどうなっているかの情報は不足している。しかしあそこが極東における人類最大拠点であり、問題を排除した今、復興が行われているのは間違いないとみてよい。これ以上人類軍が極東での戦力を拡充する前に叩く、というのが彼らの目的だった。


 とはいえ、そう困難な任務であるとは彼らセンチネル・オーダーの兵士は認識していなかった。


 人類軍の技術力は極めて低い。近年はこちらから奪った技術を盗用して戦力強化に努めているようだが、こと局地における歩兵戦では未だこちらが圧倒的に有利だ。


 センチネル兵士の装備するプロテクトアーマーは人類軍の標準的な銃火器を跳ね返し、こちらのレーザーガンは兵士はおろか歩兵輸送車の装甲をも容易く貫く。ましてや今回任務に投入された空挺強襲兵は強化型の装備を施されている。高出力のハイレーザーガンは当たり所によっては人類軍の主力戦車の装甲をも貫通して内部の人員を殺傷できる。戦力差は歴然だった。


 だから。


 問題があるとすれば、それは人類軍以外の存在。


 その事を思う度に、感情を抑制されているはずのセンチネル兵達の背筋に、怖気のようなものが走る。


 クイーン。


 恐るべき怪物。恐怖の権化。


 たった一人で自分達を脅かす、まごう事なき真正の化け物。


 とはいえ、トランスポーターは飛行機械だ。低空とはいえ、そこらのビルよりはよほど高い場所を飛んでいる。よほどの規格外の飛翔能力をもつのでなければ、この高度、この速度で飛翔するトランスポーターを奇襲する事など不可能。事実として、クイーンとその怪物が飛行中のトランスポーターを襲撃した事例はない。


 その事実が、センチネル・オーダーの兵士達の僅かな拠り所であった。




 それが。


 今日破られるとも知らず。




『?!』


 不意に、編隊の一機からの通信が途絶える。


 パイロットが何事かと思って操縦席から振り返ると、右翼の機体が一機、傾きながら高度を落としているのが見えた。煙を吹いて失速する機は小刻みに揺れており、中で何かが暴れているのが見て取れる。コクピットのキャノピーが突然罅割れ、べちゃり、と青い血がぶちまけられるのが見えた。


 そのまま頭から墜落していくトランスポーター。地上で大きな爆発が起きるのを見て、パイロットは一筋の脂汗を流した。


 何をされたのかわからない。


 だが何が起きたのかは分かる。


 クイーンの襲撃だ。


 とっさに残された左翼の機体に警告を飛ばす。だが返ってきたのは、激しいノイズと救援を求めるパイロットの叫び声だった。


 目視で確認すると、左翼の機体が激しく何かに揺さぶられてる。こちらからは見えない機の影で、大きな翼のようなものが激しくはばたいている。


 飛行型のチルドレン。


 新種だ。


 パイロットの判断は早かった。即座に機を反転させ、取り付かれた左翼の機に機首を向ける。躊躇わずにロックオンし、ミサイルを展開。


 左翼機のキャノピーを長い尾の先端が貫くよりも早く、ミサイルを射出。味方諸共チルドレンを撃ち落そうとする。


 が、着弾寸前で、まるでタイミングを計っていたかのようにチルドレンは機から離脱した。ひらり、と風に舞う木の葉のように飛翔するその後に遅れてミサイルが着弾。爆発の閃光に隠れてその姿を見失う。


『!!!』


 もはやここまで。パイロットは機に搭載された空挺兵達に降下を呼び掛けた。目的地まで運ぶのは断念する。ここで荷物は降ろす、トランスポーターごとやられては話にならない。


 またしても迅速な判断であり、それはパイロットの優秀さをうかがわせた。


 尤も、それは何の慰めにもならないのだが。


 パイロットが兵員室のハッチを開くスイッチに触れた直後、キャノピーを突き破ったチルドレンの尾が彼の胸を貫く。


 彼が最後に目にしたのは、キャノピーを突き破って侵入し、自分を齧ろうと大口を開くチルドレンの、びっしりと牙の並んだ奈落の底だった。


 一方。


 格納庫の強襲兵達は落ち着いた様子で、傾ぐ機からの脱出を試みる。彼らもすでに状況は把握していた。


 背中に背負った降下装備を起動し、墜落する機から飛び降りる。


 人類軍のようにパラシュートを広げるのではなく、重力制御で降下する彼らは地表寸前まで減速する必要が無い。自由落下にまかせて降下する彼らの頭上で、撃墜されたトランスポーターが空中で爆発四散した。


 それを無表情で見送った一人の空挺兵は、周囲に散らばる仲間の数を確認した。全部で5人。10人いた空挺兵の半分は、爆発に巻き込まれてしまったらしい。


 それが今、4人になった。


 視界の端を掠めて飛翔する大きな翼。それが、抱きかかえた何かをぼりぼり貪っている。頭と内臓、美味しい所だけ食べて残りの残骸をポイ捨てしたそれは、羽ばたきながら再びこちらに向かってくる。


 そこで初めて、センチネル兵達は自分を襲う怪物の姿をはっきりと目にした。


 翼長10mを越える、非常に大きな翼膜の腕。頭部はチルドレンに大きくみられる、兜のように発達した外骨格が確認できるが、目はない。口は突き出した吸盤状で、びっしりと牙が生えそろい内部はミキサーのようになっている。胸部は腕が翼になっている関係か、肋骨のようなものが蟲の足のように迫り出し、ワキワキと蠢いている。脚はほぼ完全に退化しているようで、代わりに長い尻尾が蛇のようにのたうっていた。


 見た目からでもはっきりと理解できる、空中戦に特化した姿のチルドレン。記録に、そういったタイプのチルドレンの情報はない。完全な新種だ。


 クイーンの底知れなさに驚嘆しつつも、強襲兵達は武器を構えた。


 見た所、相手の防御力は高いように見えない。むしろ、今が怪物を排除するチャンスと見て、一斉に引き金を引く。


 迸るレーザーの弾幕。直撃すれば戦車をも貫くその閃光を、しかしチルドレンはものともしなかった。


 まるでどこにレーザーが飛んでくるのか予め分かっているかのような機動で、兵士達の攻撃を悉く回避していく。その大きな翼は、センチネル兵からすればよい的であるはずなのに掠りもしない。


 そして銃撃を掻い潜ったチルドレンが兵士達に襲い掛かる。一人、また一人と空中で貪り尽くされる兵士達。気が付いた時には、兵士は最後の一人になっていた。


 彼の横を、千切れた味方の手足が落ちていく。それに気を取られた瞬間、眼前に影が差した。


 いつの間にか接近していたチルドレンが、最後の一人を間近から覗き込んでいる。その口元と胸元は、犠牲者の青い血でべったりと汚れていた。


 咄嗟に兵士が突きつけた銃が、あっさりと尾で払いのけられる。


 無手になった兵士に、チルドレンが胸脚で組み付く。


 もはやこれまで……至近距離から怪物の口をみあげる兵士。だが、いつまでたっても蠕動する牙が彼に齧りついてこない。代わりに、兵士の背中に鋭い痛みが走った。


 尾を突き刺されている。それを理解した瞬間、刺されたのとはまた別の凄まじい苦痛が兵士を襲った。


 獣のような苦悶の悲鳴を上げる兵士を抱えたまま、チルドレンは翼を広げると、遥か大空へと舞い上がった。




 そのころ、空挺部隊をおくりだした基地はちょっとした騒ぎになっていた。


 何せ出撃した機が三機とも音信不通になったのだ。最悪の展開を想定し、慌ただしく基地が防衛態勢に移行する。


 そんな中、対空監視についていた一人の兵士が、空を舞う黒い影を見つけて声を上げた。


『!!』


 現住生物に、あのような姿形の生物はいない。クイーンのチルドレンと断定した基地司令は、すぐに迎撃指令を下した。


 雨霰と打ち上げられる対空弾幕。それをチルドレンは悠々と回避して基地の上空にさしかかり、しかし何をするでもなく、代わりに抱えた荷物を落としていった。


 どさり、と乱暴に投げ捨てられたのは、一人の兵士。


 確認しに行ったセンチネル兵は驚嘆した。それは、先ほど出ていったばかりの強襲兵の一人に間違いなかったからだ。


 チルドレンはそれ以上何もせず、再び大空の向こうに飛び去っていく。とりあえず脅威が去った事を確認した基地司令は、兵士の治療を命じた。


 それは兵士の命を救う人道的判断……では勿論なく、チルドレンに襲撃されながらも生き延びた兵士の口から、一つでも多くの情報を得る為だった。


 そうして、何事か喚く兵士は基地の奥へと連れていかれ。


 数刻後。


 基地は、溢れかえる奇怪な蟲に覆い尽くされた。守りの内側、兵舎から噴き出した無数の蟲は一匹一匹は弱かったが、数がいかんせん多すぎた。3匹、4匹と撃ち殺した兵士が5匹目で喉に喰いつかれ、脈動する白い津波に引きずり込まれる。そしてその肉を源に、蟲達はその数を際限なく増やしていく。重装甲の兵器の内部に逃れたものがいたとしても、硬く閉ざされた隔壁の向こうに隠れた者がいたとしても、それらは排気管やエアコンダクト、あらゆる場所に潜り込み、薄い所を食い破り、やがて中に隠れた宇宙人を食らいつくす。


 やがて半日も経った頃、全ての蟲は寿命を迎えて息絶え。何一つ動く者のいない基地が残された。




◆◆




 そしてそれと同じことが、いくつもの基地で同時に起きた。


 壊滅した基地を調査した結果、宇宙人は今度のチルドレンが、岩国基地で確認された個体と同じく自己増殖可能な体外器官をもっていると断定。


 それを拉致した兵士に埋め込んで基地に敢えて返し、基地の人員を餌に際限なく増殖する体外器官によって殲滅するという手段を取っている、と推測した。


 すぐに、不審な兵士は即処分せよ、という指示が出回るが、それもまた甘い考え。


 全ての基地にその命令が行き届いたところで……側溝の中、倉庫の影、輸送機の翼の下、ありとあらゆる所に仕込まれたワームポッドが一斉に孵化した。それはたまたま居合わせた不幸な宇宙人に襲い掛かるとその肉を資源に自己増殖し、基地の中にあふれ出した。


 こうして、一月も経たず。


 大阪近隣の宇宙人の防衛基地はその多くが、飢えたワームによって食らいつくされ、壊滅した。




 まさに恐るべきクイーンの暴威。感情を持たぬ、持たされていないはずの宇宙人の下部構成員は、その脅威に震え上がったのだった。




◆◆


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