『知らないなら教えてやろう、デカいだけの木偶は伊達だとな!』
『っ、おおおお! 人類軍に、栄光あれーーー!!』
やかましく戦意を煽り立てていた大佐の言葉がぷつりと途切れる。
見れば基地の一角に、投げつけられた戦車がめり込んでいる。あそこにいたのか。
死んでないといいけど。
「んー。やっぱ、なんだかんだで精神干渉が尾を引いてるか?」
『ルククルゥ』
眼前では、炎を踏みしめて迫りくる巨獣相手に人類軍が決死の猛攻を仕掛けているように見える。が、客観的にみると趨勢は大分不利だ。
狂奔は彼らから恐れを拭い去ったが、冷静さを奪い去った。あの様子では、致命的な攻撃を繰り出されれば対処できまい。
確かに精神干渉そのものは無効化されているが、やはり、厄介な攻撃手段ではあるのだ。
「まあいい。どのみちあてにはしていないしな。ラウラ!」
『クルルゥルゥ』
私の声に応えて、我が子の脳髄が青白く光り輝く。私とはくらべものにならない出力。
ほとばしるオーラが、触手のような形をとると、周辺に転がっている瓦礫に巻き付いた。あまりの高出力の脳波動に、テレキネシスが視覚化されているのだ。
光の触手に持ち上げられた瓦礫たちが、その場でゆっくりと回転を始める。その回転速度は際限なく上昇し、ついには元の形状が把握できないような完全な球体に見えるほどの高速回転に達する。低く唸るような音が、あたり一面に轟いた。
さすがにこちらに気が付いたのか、巨獣がのっそりと巨体を巡らせて私たちを見る。
だが奴がこちらを捕捉したときには、こちらは攻撃の準備が完了していた。
「運動エネルギーの計算式を知っているか? ……撃て」
私の指示に従い、一斉に瓦礫が射出された。
たかが瓦礫、されど瓦礫。この場合大事なのは質量だ。物理的強度については、脳波動でコーティングされているから問題ない。
総質量にしておよそ数十トン、それだけの瓦礫の山が、音速を遥かに超越した速度で打ち出され、巨獣の全身に叩きつけられた。
鼓膜が破れるか、という凄まじい炸裂音とともに、巨獣が大きく数歩後ろによろめく。衝撃のあまり、その全身を覆っていた装甲版が、がらがらと音を立てて剥離する。
「どうしたどうした、投げるものならいくらでもあるぞ?」
『クルルゥ』
再び光の触手が基地の残骸を拾い上げ、空中で加速させる。
こちらが攻撃において消耗するのはカロリーだけだ、弾ならいくらでもある。反撃してこないなら、このまま消し飛ぶまで投石を続けるだけだ。
もちろん、そんなに簡単な相手ではない。
挑発するような私の声に応えるように、相手の目がぎらりと輝いた。
『VoVoVoVo!!』
唸り声とともに、いくつもの機械触手が伸びて束ねられる。分厚くなったそれを、まるで棍棒のように叩きつけてくる。
直撃すれば私はもちろん、外骨格に身を守られた我が子でも一たまりもないであろう質量差。
そして早い。
まさに驚異的な攻撃ではあるが、しかし。
「ふざけてる?」
『クルルルッ』
私の嘲笑に合わせて、我が子が小さく鳴いた。それは私をまねて嘲弄しているような響きであった。
振り下ろされた機械触手が、私たちに届く前、その数メートル頭上で停止する。
見れば、脳波動の蒼い輝きが、その機械触手に対し壁のように展開してそれをせき止めている。
さらににゅるりと絡みついた光の触手が、めきめきと音を立てて機械触手に食い込んでいく。数秒の後に、金属の触手は真ん中からブチブチと繊維のように引きちぎられた。
引きちぎった先をくるりと丸めて、高速回転させる。
あとは、勿論。
「第二射、撃て」
合図とともに、一斉に砲弾が射出される。瓦礫だけでなく、自らの一部であった金属塊を叩きつけられて、今度こそ決定的に巨獣が体勢を崩した。無数の金属が軋み、崩壊する雄たけびのような音を立てて、巨大な体が背後に向かって倒れこむ。振動とともに地響きが地を揺るがし、転がっていた小さな瓦礫ががたん、ごとんと跳ねた。
衝撃で土煙が巻き上がる。
それを突き破るようにして巨獣が身を起こす。半ば崩壊した体を急速再生させながら立ち上がってくる怪物の姿に、私はふん、と鼻を鳴らした。
「ふん。まあこの程度では死なないか」
『キクルルウ』
今のところ見た目ではこちらが圧倒しているようだが、あちらの本体はあくまで脳髄だけで、あの巨体のほとんどは念力と機械触手で束ねただけの見せかけだ。それをいくら破壊しても、本体にダメージがとおっていなければ意味がない。
長期戦になればこちらが不利だ。ラウラの脳波動は規格外の高出力だが、その分カロリー消費が激しい。ありったけの食糧を食らいつくして蓄えているが、限界はある。
何より私たちにとってこいつは前座だ。こんな所で無駄に消耗する事はできない。
「さあて、どう仕留めるか……うん?」
『キルルル?』
空に轟く轟音に顔を上げる。見上げた先、暗い夜空にきらめく赤と緑の航行灯が複数見える。
F-15E。宇宙人どもの巣を焼き払いに出ていた炎の大鷲が、巣での騒ぎを聞きつけて戻ってきたか。その証拠に、機体の下に本来撃ち切っているはずの爆弾の姿が見えた。
よしよし。やっと戻ってきたか。
本来ならば爆装したF-15Eが再出撃するタイミングに合わせて事を起こすつもりの予定だった。トラブルでタイミングがずれてしまったが、これで埋め合わせはできそう。
「ラウラ。連中に的を教えてやれ」
『クルルル!』
ちょっと焦ったような声を上げて、我が子が脳波動を輝かせる。青白く光る渦が、優しく解れながら吹き上がり、周囲一帯に降り注いでいく。
その光によって、近隣が真昼のように照らし出された。
白い雲と蒼い空が、ほんの束の間戻ってくる。
はてさて、連中はこちらの意図を察するのかな?
見上げる先、機首をわずかに落とした戦闘攻撃機の腹に抱えた爆弾が、きらりと鈍い輝きを放った。
投下。
さすがの精度で投下される無誘導爆弾。
それは、まだ完全に起き上がれないでいる巨獣の腹に大きな火柱を吹き上げた。その爆発の閃光と衝撃波が、夜闇を照らし出していた脳波動の粒子をふき散らす。
「おぉーーー!」
『クルルゥ』
たーまやー、と見上げる私たちの目の前を、翼を翻して通り過ぎていく荒鷲達。明らかなロックウィングの仕草、一瞬ですれ違ったパイロット達と私は確かに視線が合ったような気がした。
体勢を立て直し、再び上昇していくF-15Eの編隊。それらに手を振って見送り、私は巨獣へと向き直った。
無誘導というのも、馬鹿にできたものではない。確かに精度では大幅に劣るが、宇宙人にハッキングされて味方の頭上に降り注ぐ心配がないというのはよい事だ。使い勝手の問題で最後まで残していたのだろうが、それがこの場においては最適解。
無防備に直撃を食らった奴の腹部には、大穴が開いている。その奥に、ガラス壁の中でうごめく脳髄が確かに見えた。
「チャンス……!」
口の端をゆがめて追撃に移る。が、それよりも早く、視界の端を疾走する人影があった。
立花葵、だったか。
今は陸戦スーツに身を包んだ少女が、いつぞや見たように障害だらけの滑走路を凄まじい速度で疾走している。その肩で、ガコン、と大きなキャノン砲が砲身を降ろした。
「くたばれえええええーーーっ!!」
発砲。
高速移動中のキャノン砲の使用という危険行為に、反動でスーツがスリップする。それを葵ちゃんが超信地ドリフトターンという曲芸で相殺する傍ら、打ち出された砲弾は夜闇を流星のように飛翔し、航空隊がこじ開けた間隙に飛び込んだ。
再びの爆発。
『VoVoVoVo……』
苦しむように巨獣が唸る。どうせ痛覚も感情もないくせに、煩わしい。
それにどうせ、この場にそれに感じ入るような人間はいない。
「効いてるぞ!」
「撃て、撃て撃て!!」
「兄弟の仇だ!!」
巨獣の動きが鈍った隙をついて、兵士達が猛攻撃を加える。その攻撃で、ぼろぼろと巨獣を守る防御がはがれていく。中枢への一撃を受けたことで、防壁を維持する能力が低下しているのだ。
がらがらと装甲が崩れ落ち、ひび割れたガラス管が露わになる。断末魔のあがきのように巨獣の全身から無数の金属触手が伸びると、周辺の兵士を薙ぎ払いにかかる。
さらに、崩れ落ちた鉄くずを拾い上げて、再び急所を隠そうとする。まだまだ、あきらめるつもりはないらしい。
それは結構。だが……。
「いいや。もうお前は終わりだ」
青白い輝きが、私の横顔を照らす。
我が子、ラウラの脳細胞がいつになく活性化している。突き出した二本の角の間で、高まった脳波動が激しいスパークを起こす。
その照準を巨獣の中枢に向けて、我が子が足を踏ん張った。鋭い足先をコンクリートの屋根に突き刺して、姿勢を低くして衝撃に備える。
「失せろ」
『クルルルルルル……!!』
直後。
我が子の角からほとばしったサイコスパークが、ティターンの中枢を消し飛ばした。




