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TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い  作者: SIS
岩国基地大決戦

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『お待ちかね、主役のご登場だ!』



 その時、葵達は少将に異常を知らせるべく、基地の廊下を走っているところだった。


 内線は通じなかった。おそらく線という線がすべて切られている。何の仕業かは言うまでもない。


「早く少将にこのことを……きゃっ」


「地震!?」


「もう、こんなタイミングで……?!」


 不意に足元が激しく揺れ、葵達は廊下の壁にしがみついた。だがその中で、葵だけはすぐに違和感に気が付いた。


「地震の揺れじゃない……震源が近すぎる! 何?!」


 壁にしがみつくようにして顔を上げた彼女は、窓の外に広がる滑走路に目を向けた。


 激しく揺れる滑走路上では、退避しようとしていた燃料補給車が横転し、運転席からドライバーが逃げ出しているのが見えた。倒れた車両からは航空機用の燃料がさあっと広がり、地面の傾きに沿うようにして流れていく。


 その流れが、急に変わった。


 それに呼応するように、滑走路の地形が盛り上がっていく。何度も激しく振動し、アスファルトを砕きながら、その下に埋まっていた地面が掘り起こされていく。


 砕けた地面の中に、見覚えのある白いシルエットを見出して、葵は声を上げた。


「あれは……!」


 間違いない。基地で食料を食らったと思われる謎の怪生物。


 それが何匹も、何匹も。一体、何百匹いるのか。


 怪生物達はまるで地面を耕すようにうごめき、滑走路の中心に大穴をあけていく。その中央から、何か、岩でも土でもない、金属質の輝きをもったものが地上に押し上げられてくる。


 何本ものケーブルを引きちぎりながら、電気と得体のしれない薬液をまき散らしながら地上に姿を現す、それ。


 すでに日が沈みかけているなか、誰かがつけたサーチライトが、その威容なシルエットを照らし出した。


「あれ、は……!」


 円筒形の金属容器。濁ったガラスの奥にうごめく巨大な脳髄。サイズや形状こそ違うが、それはまさしく……。


「対空砲基地にあったでっかい脳みそ!?」


「なんで、岩国基地の地下にあんなものが……!?」


 同じように顔を出した部下達が驚愕にどよめく。


 その中で、葵だけはその真実に思い当たり、顔を右手で強く抑えて瞠目していた。


「そう……そういう、事……?!」


 極東人類軍が宇宙人の大規模拠点を攻略したのは今回が二度目。アメリカ方面でもヨーロッパ方面でも、反撃はしたがそれで取り返した領地を守るための前線維持が精いっぱい。少なくとも今は、再度攻勢にでる余力はない。X-0によって敵の戦略拠点が次々と崩壊している極東だからこそ、打つ事が出来た大博打だった。


 そこで、初めて目撃した敵の中枢システム。


 一度目は、実際のところX-0が制圧済みだった拠点を確保しただけなので、そこで目撃していないのはおかしな話ではない。


 だが。


 それら二度の成功の前に、あと一つ。人類軍が攻め落とした重要拠点が、この極東に存在する。




 岩国基地。




 岩国航空基地は、日本の海上自衛隊の基地であると同時に米海兵隊の基地でもある、日米共同使用の基地だった。その重要性ゆえ、宇宙人の侵略が始まった当初、中国地方で真っ先に攻撃を受けた。無数のドロップポッドが大気圏から降下し、着地と同時に基地を破壊。降りてきた宇宙人達に基地の人員は皆殺しにされ、その後岩国基地は敵の拠点要塞へと姿を変えた。


 それを、極東に人類軍が展開するにあたって、残存自衛隊と協力して攻略した。その後、制圧した岩国基地を整備し、再び人類の砦としたのが今現在の岩国基地である。


 だが。それなりに大きな拠点であったにも関らず、中枢システムの存在は確認されていなかった。


 思えば不審な点はほかにもいくつもある。半ば賭けに近い攻撃だったのに対し、敵戦力は異様なほど脆弱で、大きな被害を出す事もなく制圧ができた点。場所がはっきりしている敵拠点に、最初のように大気圏からの攻撃を行わなかった点。


 単体ではなんとも思わなかったいくつかの違和感。それがここにきて線を結ぶ。


「そうか……こちらの作戦が全部筒抜けだったのも! 岩国基地は……奴らが私たちに差し出した皿の上だったという事なの……!?」


 愕然とする葵。そしてX-0はそれを知っていた。だから、わざと虜囚の身になって岩国基地に潜入し、中枢を破壊しようと……?


 違う。


 そんな事、X-0の能力をもってすれば簡単なことだ。そんな危険を冒さずとも、極秘裏に岩国基地の地下に潜入し、誰にも知られる事なく中枢を破壊すればいい。彼女には、地下穿孔能力をもった怪物もいたはずだ。


 にも関わらず、危険を冒して基地に侵入してきた。そこには何か大きなほかの意味があるはずだ。


「いや、そんな事を考えている場合じゃない……! 皆! ハンガーに戻れ! 敵中枢を破壊する! 武装だ!」


「え、でも……」


「そんな事しなくても、ほかの連中が破壊してくれそうですけど」


 部下達が指さす先、滑走路には数台防衛のために残されていた装甲車両が進出し、その主砲を中枢システムに向けている。見た所、小さな蟲達にたかられて、念力のバリアも張れていない。戦車の主砲が直撃すれば、あの程度の装甲、一たまりもないだろうというのは、間違いない。


 だが……。


「その程度で破壊できるなら、とっくにX-0の眷属が破壊している! いいから急げ!」


 葵の叫びを肯定するように、再び大きく事態が動いた。


 突然、地上に押し出されていた中枢システムが、唸るような音を立てながら回転を始める。まとわりついていた無数の蟲達が、それによって振り払われていく。同時に電撃をバリバリと放出しはじめたそれに、残った蟲達も泡を食ったように退避。


 うっとおしい蟲を排除した中枢。次の瞬間、中枢からいくつものケーブルが、槍のように四方に突き出された。それらはアスファルトの滑走路、そこに転がる作業用車両、そういったものを貫くと手繰り寄せて、中枢の周囲を鎧のように覆い始める。


 慌てたように戦車部隊がそこで発砲を開始する。放たれる無数の砲弾……しかしそれは、中枢に幾重にも覆いかぶせられる鎧によって防がれた。爆発の花を咲かせながら、さらに身を起こした中枢から触手が伸びる。数台の戦車がそれにつかまり、中枢の元へ引き寄せられるのを見て、残った戦車隊が距離を取ろうと後退を始めた。


 見る見る間にとらえられた装甲車両が解体され、めちゃくちゃに分解しながら中枢に取り込まれていく。乗員だった者の名残の赤い染みをそこかしこに残しながら、有り合わせの鋼鉄の鎧が編み込まれていった。


 ずしん、と巨体が一歩踏み出す。天上に輝く月の光を隠すように、巨大な姿が基地に影を落とした。


 それはもはや、巨大な脳髄ではなかった。ミノムシのように幾重にも装甲をまとった、不格好な巨体の怪物。まるで豚のような兜を上部に抱き、無数の破壊兵器の腕を持つ、地上の蹂躙者。


「t、Titan……!」


 戦車から身を乗り出して対象を確認していた白人の車長が譫言のようにつぶやき、その発言が基地の部隊員に共有される。


 サーチライトがその怪物……ティターンの巨体を見上げるように照らし出す中、ぎらり、とその眼光が不気味に煌めいた。


 直後、その全身の鎧の隙間から、取り込んだ無数の重火器が展開。四方八方へと、猛攻撃を開始した。


 マシンガン、ロケット、ミサイル……人類がこれまで宇宙人に叩き込んできたあらゆる兵器が、意趣返しのように基地へと撒き散らされる。


 戦車数台がその直撃を受けて爆発、炎上。取り残されていた作業車両も次々と吹き飛んでいく。基地の壁にはいくつもの穴が開き、音を立てて屋根が崩れ落ちる。


 巻き散らかされていた航空燃料に引火して、滑走路が燃え上がる。炎の海の中、地獄の怪物のようにティターンの姿が浮かび上がった。


『VoVoVoVo』


 笑い声のような振動音をまき散らして、ゆっくりとティターンが動き出す。このまま基地を踏み潰すつもりだ。


 抵抗する者はもういない。装甲車両の多くは今の攻撃で破壊された。歩兵の多くは、攻撃に巻き込まれて倒れているか、がれきの下だ。


 万事休す……。


 そう思われた瞬間。


 基地から立ち上る黒煙を突き破って、五つの影が躍り出た。


「あ、あっぶねえーーーー!!」


「隊長の言う通りにしてなきゃ死んでたわ!!」


 と壁替わりにした防御シールドをがらんごろんと投げ捨てて、疾走するのはセラフィムチームの面々だ。


 彼女たちが装備しているのはフライトスーツではなく、旧式の陸戦スーツ。旧式といっても、その機動力と火力は戦車を凌駕する。選ばれた者にしか扱えない、補助輪なしの機動装甲服を巧みに操る彼女たちの戦闘に立つのは、もちろんその隊長、立花葵だ。


「フォーメーション、タイダルウェイブトルネード! これ以上、奴の好きなようにさせるな!」


「「「「了解」」」」


 その頭上に振り下ろされる、ティターンの巨大な足。その直撃を回避して、四方に散開した少女達が怪物を取り囲む。


「調子に乗るのは、ここまでよ、化け物!」


 葵の宣言とともに、一点集中で放たれた砲撃が、怪物の腕の一つを根本から破壊し、脱落させる。


 地に落ちるそれには目もくれず、五人の戦乙女が、スズメバチのように巨獣へと襲い掛かった。


「すっころぶんじゃないわよ!」


「ひぃん、陸戦型なんて訓練でしか着た事ないですよぅ!」


「私は100時間以上こいつで走ってきたわよ」


 四方に向けてまき散らされる砲火を潜り抜けて、小さな少女の手にする銃が巨獣を追い詰めていく。人間サイズの標的が、時速200キロ以上でかつ、不規則に動きながら周囲を取り囲み、火力を一点に集中させてくる。いちいち狙いなどつけていられない、と巨獣は機械触手を振り回し、叩きつけ、ミサイルの爆発で薙ぎ払おうとする。


 それらの攻撃のことごとくを、少女達はくぐりぬけ、飛び越え、巧みに回避していく。


 およそ、人類の頂点、選ばれた五人。その才覚に霞なし。理論値を超えた動きが、戦力差を超越して巨獣を追い詰めていく。


『VoVoVo……!』


「いける、やれる……! このまま……!」


 葵が手ごたえを感じ、拳を握りしめる。このまま巨獣を……中枢を破壊してしまえば、こちらの勝利だ。


 そう意気込む彼女はしかし、不意に巨獣が新たな動きを見せた事に気が付いて眉を潜めた。


「何……? 何をするつもり?」


 激しく砲火を放ち、機械触手を振り回していた巨獣が動きを止める。


 その代わりと言わんばかりに、夜の闇の中でもはっきりと見える、紫色の波紋のようなものが、その巨体から放たれた。


 空気を伝わって広がるその非物質の揺らぎを、葵は確かに一度目にしている。


 彼女は、そう、確かこういっていた。


「脳波動……?!」


「なんですか、これ? センサーには何の反応も……」


「計器にも異常はないですね。何がしたいんでしょう?」


 周囲を取り囲む部下達の攻め手も困惑に緩む。巨獣は全身から紫の波動を放ちつつも、それ以上何かをしようという動きが見えない。


 これは、チャンスか?


 ためらいつつも、葵は背部ラックに懸架したキャノン砲を立ち上げ、その照準に巨獣の顔を捉える。


 スコープの中、拡大される巨獣の頭部。その眼窩で、怪しい光がぎらりと煌めいた。


 ぞくり、と葵の背に怖気が走る。それを無視して、引き金を引こうとして……。


『無理だ。勝てるはずがない』


「……っ!?」


 ぐらり、と照準が乱れる。スコープの中から標的を見失い、急な頭痛に襲われたように葵は頭を抱えた。


『相手は宇宙人だ。半年と経たず地球を制圧した怪物達。いくら抵抗したって勝てるハズがない』


「何……これ……っ。私の中から、私じゃない声がする……!?」


 まるで強制的に、自分の思考をいじくりまわされているような感覚。


 もはや戦闘どころではなく、減速して膝をつく葵。見れば、部下達も同じように動きを止めて頭を抱えているようだ。


「違う……私、こんな事、考えてない……!」


「嘘だ……でてけ、違う、こんなの私じゃない……っ」


「みんな……!」


 頭に響く声に歯を食いしばり、葵は巨獣へ敵意の視線を向ける。それを咎めるように、葵の声で、知らない誰かが頭の中で囁く。


『どうして受け入れないの? もう、この星は終わりだってことが。銃を捨てて、降伏すべきよ。そうすれば、少しでも長く生きられる』


「だまりなさい……!!」


 一体誰に叫んでいるのかも分からず声を荒らげる。懊悩する少女達を、巨獣は月の光を遮り頂から見下ろしている。


 その眼光が、嘲笑のように揺らめいた。




◆◆




 一方、そのころ。


 アメリカ方面軍の研究棟。


 例によってここもティターンの攻撃によって倒壊し、無数の瓦礫に埋もれていた。


 その中でもひときわ大きな瓦礫が、部屋の中央を押しつぶしていた。


 が。それが急にぐらり、と傾く。


 やがて瓦礫はひとりでにひっくり返ると、土埃を上げて床に転がった。その下から出てくるのは、無数の白い怪物達。


「た、たすかった……」


「これは……」


 さらにそれらに守られる、数人の白人の科学者と軍人。そして……。


「やれやれ。思ったより派手な事になったな」


 薬液で濡れたままの髪を指ですき、小さな瞳が暗闇を睥睨する。その背後には、寄り添うように身を寄せる芋虫のような巨大な怪物。


『くぷくぷー』


「なあに、問題はない。許容範囲だ、よくやった」


 愛し子の頭を優しく撫でて、一転して少女は鋭い視線を外に向ける。


「さてさて、派手な事になっているようだが。どうしたもんだか、なあ?」


『くぷくぷ』


 小首をかしげて少女が微笑む。その横顔を、明るい月の光が照らし出す。




 さあ。


 真打の登場だ。




◆◆



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