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TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い  作者: SIS
岩国基地大決戦

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『追ってるつもりで追われているなんて、よくある話』



 ハンガーで装備を除装し、葵は少将の元に急いだ。かつかつ靴を鳴らして廊下を急ぐ彼女に、すれ違った事務員達がおののくように道を譲る。


 そしてたどり着いた少将の執務室には、すでに先客がいた。


「少将、失礼します。……あら」


「…………」


「…………」


 柏木少将と部屋の中でにらみ合う、金髪の青年将校。


 ロバート・グラウスマン大佐。X-0をめぐって正反対の態度を示すこの二人が、この状況でにらみ合っているのは想定のうちだった。


 グラウスマン大佐と机を挟んでにらみ合っている少将が、部屋から入ってきた葵にちらり、と視線を向ける。彼は一旦にらみ合いを中断すると、口の端を穏やかに緩ませた。


「任務ご苦労だった、葵中尉。作戦成功おめでとう。君の活躍は私の耳にも届いている」


「はっ! 立花葵中尉、任務を完遂し帰投しました。つきましては、一つご報告したい事が!」


「ああ。私も君から話を聞きたいところだった。……大佐も聞いていきたまえ」


 立ち上がったままの不毛な無言の応酬を切り上げ、ぎっ、と少将がソファに腰を落ち着ける。それに対し、大佐は沈黙したまま、むっつりとした顔でソファに腰掛ける。


 と思いきや、彼もまた、一言口を開いた。


「立花中尉。任務、ご苦労。正直、想定以上の活躍だった」


「はっ。……どうも」


 不機嫌そうな顔だったが、間違いなく賛辞だった。思わずぽかんとしてしまった葵だったが、すぐにはっとして気合を入れなおした。


 それはそれ、これはこれ。今は別の問題がある。


「作戦結果について、お聞きなさっているとは思いますが、再度報告します。作戦は無事成功、攻撃目標である敵大型高射砲は破壊しました。また、その過程で敵中枢攻略時の際、情報にない敵大型戦力と交戦しました。詳細については後程報告書を提出しますが、自衛能力を持ったバイオコンピューターのようなものだと考えられます。その破壊作業中、最重要探索対象X-0が出現、我々に協力してくれました。対象は敵中枢破壊後、光学迷彩らしきもので姿を消して逃亡。中枢の爆発から我々も退避し、その後は段取り通り、対空砲が停止した基地を対地砲撃で攻撃。敵戦力が大きく減退したところで、歩兵部隊での制圧に入りました。敵要塞の制圧作戦は今も続行中ですが、敵が対空能力を完全に喪失した事を顧みて、段取り通り我々は一足早く基地に帰投いたしました」


「よろしい。多少のトラブルはあったようだが、おおむね作戦通りに推移したようだね。だが、それだけではないだろう?」


「はっ」


 ちらり、と葵は大佐に目を向ける。金髪の白人男性は、むっつりした顔で座り込んだまま、葵の話に黙って耳を傾けている。


「……帰投時のことです。作戦要綱にない不審なステルス機を確認し、調査を試みたところ、黒づくめの警備部隊らしきものたちに妨害されました。また、そのステルス機から護送カプセルらしきものが運び出されており……その中に……X-0らしき人物の姿が……。確認を試みましたが、警備部隊が発砲も辞さない、という態度であった為、一度引き下がりました。ご報告は以上になります。このことについて説明を求めたいところです、グラウスマン大佐」


「だ、そうだが? 何か意見はあるかね、大佐」


「……人類軍総司令部の意思だ。私の独断ではない」


 むっつりと眉をひそめたまま、大佐は短く告げた。


「君達の言いたい事はわかる。人類軍の行方を左右する重要な作戦において、味方にも通達せず、ましてやステルス機を用いての極秘任務。理解を得られるとは思っていない。その点については、私としても謝罪する」


「問題はそれではない。X-0への対応について、確かに私たちは意見の相違があった。だがそれは、お互いに現状は様子見、ということで話はついていたはずだが? まさか、先に動いたもの勝ちなどという、幼稚な理屈を持ち出す訳ではなかろう?」


「あくまでこれは総司令部の判断だ。私のような、一介の大佐如きが是非を問える問題ではない」


 不本意そうに弁解する大佐。


 正直、葵は彼の対応が意外だった。総司令部の後ろ盾を得て、鼻高々、意気揚々と己の成果を振りかざすとおもったのだが。そのあたりは、さすがに最前線である極東地域に派遣されてくるだけのことはあるということか。


「彼女には強力な護衛がついていたはずだ。それについては? 彼女を捕縛した事でそれらからの報復を受ける可能性は考慮しているのか?」


「……彼女の連れる怪物……我々はチルドレンと呼称しているが、それについては捕獲部隊が絶命を確認している」


 がっ! と足を鳴らす音がした。


 大佐が視線を向けると、葵が視線で刺殺しようかという視線を大佐に向けて、とびかかる寸前で踏みとどまったような姿勢をしていた。


 ぎり、と歯をかみならして、血を吐くような言葉が零れ出す。


「あなた……!!」


「勘違いするな、こちらで射殺した訳ではない。……自然死だ、老衰といってもいい。何をするまでもなく、目の前で枯死したそうだ。どうやら、彼女の連れる怪物は寿命がひどく短いらしい。我々はチルドレンを複数、彼女が従えていると思っていたが、あの様子だと数体いれば多い方だな」


「その数体で、この基地を陥落させるには十分だと思うのだがな。総司令部は彼女をどうするつもりかな?」


 葵と違い、語気を荒らげることなく淡々と質問を重ねる少将。一見落ち着いているようだが、彼が機嫌を損ねていない、などと思うような人間は、この場にはいなかった。


「……それについて私は語る権限を持ち合わせていない。質問なら総司令部に問い合わせてくれ」


「君もまた、歯車の一つに過ぎないということか」


「Need not to know。知らされていない、という事は、知るべきではないという事だ。……そこの小娘も、軍人であるならば心得ておくことだな」


 話はここまで。グラウスマン大佐はそれを示すように、無言のままソファを立った。


 出口に向かう彼に、葵も歯噛みしながら道を変える。たかだか中尉が、大佐に反抗する訳にはいかない。


 その背中に、柏木少将は小さく声をかけた。


「お互い大変なものだな。……だが、少しは人道というものに配慮するべきではないかな? 道理を失っては、人は獣と変わらぬぞ」


「……それぐらいは、弁えているつもりだ」


 がちゃん。


 大佐がドアを閉じてこの場を後にする。その足音が十分に遠ざかったのを確認して、葵は少将にすがるような目を向けた。


「少将……!」


「わかっている。このままでは済まさん。……とにかく、私からすぐに総司令部に掛け合ってみる。葵君は部下たちを落ち着かせて、休息を。おそらく、すぐに動くことになる」


「動く……?」


 まさか物理的に身柄を奪取するのか。だが、総司令部の判断に逆らうのはクーデターも同然だ、いくら少将でも越権行為にすぎる。


 驚いたように見返してくる彼女に、しかし彼は首を横に振った。


「いくらなんでも、都合がよすぎる。一体どこの誰が筋書きを書いたのかはわからぬが、宇宙人か彼女のチルドレンか、どちらかがすぐに動く可能性が高い。君はその時に備えておいてくれ」


「りょ、了解しました!」


 敬礼をして、慌てて部屋をさっていく葵。彼女が通った扉が閉まり切っていないのに苦笑しつつ、少将はドアノブを引きながら頭の中で疑惑を重ねた。


「……特殊部隊を動かして捕縛した、ねぇ」


 葵が来る前に、大佐から一通りの流れは聞いていた。


 総司令部は、X-0が今回の作戦に介入してくることを予想していた。だから狙撃部隊を配備し、彼女が油断した所を狙って捕縛した。


 一見道理が通っているように見えるが……。


「……内偵の話では、彼女は3km先の狙撃部隊を感知したという。今回部隊が展開していたのは僅か1km。いくら作戦行動中の騒音にまぎれたとしても、彼女がそれを見落とすか?」


 それにタイミングも妙だ。彼女は、チルドレンを我が子のようにかわいがっている。それが、老衰直前の個体を戦場に連れてきた? 筋が通っていない。


 少将が把握している彼女のメンタリティを考えると、普段なら絶対に行わない行動だ。


 であるならば、そこに理由がある。だが、その理由がわからない。


「彼女は、一体。何を考えて……いや。とにかく今は総司令部に問い合わせるのが先か」


 しかし。


 そもそも、彼女が連れている怪物は、成長段階なのではなかったか?






「隊長? どうしてこちらに?」


「ん。……気にしないで。それより、こんなところで何をしているの? 休むのも任務のうちだと伝えたはずだけど」


 少将の執務室を後にした葵は、コーヒーの一杯でも飲んで気分を落ち着かせようと向かった先で、なぜか食堂の前でたむろしている部下たちを目撃して首を傾げた。


「それが、その……」


「食料の在庫がなくなっちゃったって……」


「……なんですって?」


 異変は。


 少しずつ、少しずつ侵攻していた。

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