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TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い  作者: SIS
カウンター・シューティング

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『セラフィムの飛翔』



 そしてついに、大反抗作戦が開始された。


 山影に隠れるようにして低空を飛行する輸送機の中、葵は時刻を確認して凍結されているフォルダを解凍した。


 パスワードを打ちこみ解除すると、網膜投射によって視界に重なる形で作戦要項が表示される。


「え……攻撃目標、敵最大拠点そのものじゃないの?」


「防空設備破壊が目標?」


 部下達から戸惑ったような声があがるが、葵は逆に納得した。


 大阪拠点といっても、宇宙人によって侵略され高度な要塞陣地と化した拠点を人類軍の僅かな戦力で壊滅させるのは難しい。


 だが放置する事も出来ない。あの要塞を放置する限り、東西の人類勢力圏の行き来には大きな制限が掛かっている。


 その最大の理由が、敵の対空砲にある。高度でいえばほぼ無制限、成層圏を飛ぶ超航空偵察機さえ撃墜する敵の対空砲のせいで、空の渡航はほぼ不可能。だが逆に言えば、その対空砲さえ完全破壊してしまえば、一時的に人類が航空優勢を取り戻すことは可能だ。


 一度押し込んでしまえば、あとは再建や増設の動きを見せた途端に航空爆撃で敵の頭を押さえる事だってできなくはないだろう。


 現状の限られた戦力を省みて、十二分に現実的な案といえる。


 問題はその現実的な案でさえも、大分厳しい展開が予想されるという事だが。


「ほら。みんな、しゃんとする。どの道私達のやる事は変わらないわ。誰よりも先に飛び込んで、誰よりも多く敵を倒す。それだけよ。いいわね」


「はっ、隊長」


「よろしい」


 部下の統制を取り戻し、葵は小さく頷く。そんな彼女に、操縦席から通信が入った。


『セラフィムリーダー、もうそろそろ飛行限界です。これ以上は、この高度では敵の対空砲に狙われます』


「了解しました。さ、皆。出撃の時間よ」


 合図と共に、輸送機の後部ハッチが音を立てて開いていく。途端に吹き付けてくる風に、葵は纏めた髪が乱れないか、もう一度チェックをした。


 ヘルメットをかぶり、最後にもう一度ステータスを確認する。


 オールグリーン。全て万全だ。


 後は、戦って勝つだけである。


「GO,GOGO、GO!!」


 掛け声をかけて、一斉にハッチから飛び出す。パラシュート無しのスカイダイビング。視界に広がるのは、人の住まぬ廃墟の街並みと、黒々とした森ばかり。そこに、かつての繁栄は影も形もない。


 それを取り戻すのが、葵達の使命だ。例え生きている内に敵わないとしても、必ずその礎を築いて見せる。


「セラフィムチーム、GO!」


「ラジャー!」


 瞬く間に地上が迫る。このままでは、ひび割れた廃墟のアスファルトに叩きつけられて絶命……その寸前で、葵はウィングを展開しスラスターを吹かした。


 地面から3mもない低空で機体を制御し、大通りを飛翔する。安定など望みようもない、常に失速と隣り合わせの曲芸飛行。しかし、ついてくる部下も含めその飛翔には危なげが無い。


 彼女達は、今や鋼の翼をもつ猛禽だ。


 廃墟のビル街を、すいすいとすり抜けるように飛んでいく。


 その向かう先、廃墟の向こうに黒い霞のようなシルエットがある。


 街並みに突如出現する巨大な影。まるで蜃気楼と見まがうそれは、宇宙人の要塞だ。廃墟を砕き再利用して築き上げられた、異形の神殿。その中央には、冗談のように巨大なドームと、そこから突き出した山のような砲身がある。


 敵の対空プラズマ砲だ。比較的射界が狭いらしいという欠点はあるものの、衛星軌道上の監視衛星すら撃墜可能な射程と、山に穴を開ける程の破壊力を持ったその対空砲に、人類は長年苦しまされてきた。


 今こそ、これまでの借りを纏めて返す時がきた。


「始まったわね」


 葵がふと空を見上げると、幾筋もの煙の尾を引いて、無数の対地ロケット砲弾が飛翔、敵拠点目掛けて降り注いでいくのが見えた。


 後方の高機動ロケット砲システムによる援護射撃だ。通りさえすればこれだけで敵の要塞を粉砕できる大火力。爆弾の投射、というジャンルにおいては、人類も宇宙人には負けていない。しかし……。


 ごん、と巨大な対空砲が動き出す。大きく明後日を睨むように振り仰いだその砲身に、青白い光が宿る。


 直後、高出力のプラズマビームが連続照射。それはそのまま刃のように降りぬかれ、飛来するロケット砲弾を一太刀で薙ぎ払った。空に爆発の花が咲き、爆煙が火の日差しを遮る。


「そう上手くはいかないか」


 撃墜率ほぼ100%という報告に肩を竦める。


 まあ分かっていた事である。


 それにこの砲撃はあくまで抑止だ。敵の対空砲や砲座が、攻撃部隊への攻撃に集中できないようにするための。


 流石にあの超大型対空砲は地上を狙うようにはできていないが、他にも無数に存在する通常サイズの対空砲は、いつぞや人類の戦争でもあったように地上戦力に向ける対戦車砲としても使用可能だ。その弾幕の中に突っ込んでいくのは自殺行為も同然である。


 宙を見上げれば、発射地点を変えたのであろうロケット砲撃が、数は少ないが継続的に行われている。敵基地からは主砲の他にも無数の火線が上がり、それらを迎撃している。と、その中に明らかにロケット砲弾を狙ったものではないミサイルの発射が混じっている。


 人類側の後方支援に対するカウンター砲撃。人類同士であれば数分の猶予があるとされるそれも、宇宙人相手だと数秒で反撃が返ってくる。いくら発射地点からの高速離脱が可能な高機動ロケット砲システム群といえど、この反撃をいつまで凌げるか。


 そして、これらの抑止砲撃が無くなれば、豪雨を逆再生しているかのような基地からの砲火が地上部隊に向けられる事になる。そうなれば人類軍はひとたまりもない。


 この空の爆発が続いている間が、葵達の生存リミットだ。


「上等!」


 しかしそれにもひるまず、葵はさらに速度を上げた。かつてのように、たった二人で支援もなく敵勢力圏内で破壊活動に従事させられるよりははるかにましだ。温い、とすらいえる。


 気勢を上げて、彼女は敵要塞の敷地へと飛び込んだ。


 途端、それまで続いていた廃墟の街並みが、アスファルトの道路がぴたりと途絶える。そこに広がるのは、中世の街並みじみた宇宙人の要塞陣地だ。一体何の意味があるのか、無人の礼拝堂、祈るものの居ない記念碑じみたものが並ぶ中に、宇宙人の手勢が潜んでいる。


「アタック! 私に続け!」


「ラジャー!」


 ちらりと見えた影を、葵は見逃さなかった。まるで落下するように直角に軌道を変え、上空から防塁の後ろに隠れる宇宙人の兵士に襲い掛かる。恐らくアイドール・オーダーの、趣味の悪いパワードスーツに落下しながらハンドキャノンで攻撃をしかけつつ、着地と同時にソリッドブレードを振りぬいた。


 頭部に座する本体を粉砕され二機の兵士が倒れ込む。他の兵士がそれに反応して葵に銃を向けるよりも早く、その背後に四羽の隼が舞い降りる。0.5秒のうちに奇襲は終わり、すでに葵は地を蹴って再び空へと舞い上がっていた。


 敵はまだ何人か残っているが、追撃の必要はない。空へ舞い上がるメタバルキリーを追う銃口は、火を噴く前に飛来した砲撃によって消し飛んだ。


「次!」


 今度は燕のように防塁、防壁の間を縫うように飛び、目に付いた防衛隊に一撃離脱の奇襲を仕掛ける。そして彼女らによって攻撃を受けた敵はマーキングされ、展開中の機甲部隊に所属する対戦車砲部隊によって最優先で排除される。


 彼女達は、斥候であり切り込み隊長であり生きた目なのだ。


「……!」


 だが、此度投入された新兵器であり新部隊、新戦術であるにも関わらず、敵の対応は早かった。


 すぐに、分厚い迎撃網がしかれるのを見て取り、葵は顔をしかめた。


 自分ひとりならまだ何とかなる。だが、背後の四人からこのままでは脱落者が出る。かといって、敵の反撃を避けて端から切り落としていくような事をしていては自分達が先行した意味がない。


 さて、どうする?


 敵の防塁の裏側にセミのように張り付いて弾幕をやり過ごしながら、葵が機を伺っていた、その時だ。


「? なんだ」


 不意に、敵の銃座が沈黙する。一つ、二つ、三つ。


 急に薄くなった弾幕に疑問を挟むよりも、葵はすぐさまその機に便乗した。遅れて飛び立つ仲間達を庇うように一際目立つように舞い上がる彼女は、さらに不可解なものを目の当たりにした。


 沈黙したかと思われた対空機銃が再び動き出す。だがそれは、どういう訳か飛翔する葵達ではなく、地に潜む味方防衛部隊の後背目掛けて火を噴いた。


 一瞬にして金属と脳みその合い挽き肉が生産され、防衛線の一角が崩壊する。驚愕しながらも、葵はその隙を逃さず、進軍を阻んでいた分厚い防壁を飛び越えた。


 ビルのように高い外壁を、梁を通過する。その際に、同士討ちを始めた砲座の射手を確認する。


「……?!」


 座席に座っていたのは、頭の部分を叩き潰されたと思わしき遺体が一つ。


 他には誰も居ない。にも関わらず、操縦桿が勝手に動き、今も味方に対して砲撃を繰り返している。


 その不可思議な光景に驚愕しつつ、葵はしかしその事を些事と切って捨てた。


 理由は分からないが、今は好機だ。


「た、隊長……銃座が、なんか無人で……」


「ここで死んでいった英霊の御業だろう。戦場で怪奇現象はよくある事だ。それより越えるべき防壁の門を探せ、裏から開ける!」


「りょ、了解」


 ばしゅうう、とイオンスラスターの音を立てて飛び去っていく葵達。鋭く鋭角を描いて飛翔する彼女らを見送って、ぼんやりと機銃の座席に姿を表す影があった。


 空間から滲みだすように姿を表すのは、透明化を解除したシルル。そしてその腕に抱かれた葛葉である。


「おもしれーもん見たな……あれが話にあったメタバルキリーか。はは、なんだ、想定より数段動きがいいじゃん。宇宙人どもざまーみろだ」


『ふしゅしゅ』


 略取した情報と比較して明らかに別格だった人類軍の動きに、葛葉は小さく笑う。そして彼女は、傍らの我が子の頬をそっと撫でた。


 シルルは見るからに老化が進んでいた。目は白く濁り、肌にはところどころ黒い斑点が浮いている。それでも透明化能力と身体能力、何より親への慕情が霞んでいないのを見て取り、葛葉の横顔に深い寂寞が過ぎった。


「……大丈夫だ。きっと上手くいく。お前の望み通りに」


『しゅるぅ……』


「さ、私達も行こう。流石に今回ばかりは、人類軍ばかりにまかせてられない」


 孤高の母娘は頷き合い、再び透明化で姿を消す。


 そこにはもう、誰かがいた痕跡はなく……直後、葵達が切り開いた戦線に突入してきた人類軍の砲撃が、無人の対空砲座を粉微塵に粉砕した。


 対空砲攻略作戦は始まったばかりである。





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