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TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い  作者: SIS
カウンター・シューティング

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『X-0危険論』



「立花葵中尉、ご用命に基づき出頭いたしました!」


「よろしい。座り給え」


 柏木少将の部屋に顔を出すと、彼はちょうど窓から空港を見ている所だった。流石に少将の部屋というだけあって見通しがよく、窓からは行き来する輸送機がよく見える。


 今も、一機のでっぷりとしたシルエットの輸送機が飛び立っていく所だ。今から彼らは敵勢力圏を避けて、遠く東南アジア方面の中継点に向かうのだろう。


 地球全体でみれば、人類の勢力圏はほんの僅かだ。


 ユーラシア大陸はほぼ占拠……というか自律式の殺人ドローンの徘徊する死の大地となっている。アフリカ大陸は得体の知れない工場設備が立ち並び、その排水による土壌の汚染が深刻化している。南アメリカ大陸は宇宙人のモスクが立ち並び、住人の白骨が掲げられる邪教の地と化している。そして人類が今も大きな勢力を保っているヨーロッパ方面や北アメリカ大陸、オーストラリア大陸は連日熾烈な防衛戦が繰り広げられている。


 今やこの地上で争いが無い場所など、人のほとんどいない南極大陸ぐらいだろう。こちらには宇宙人も興味が無いらしく、今も南極基地に残る僅かな人員からの連絡が届いている。ただ、彼らもいつまでいられるか。


 その中にあって、極東もまた激戦区とされている。だが、当の極東人類軍としてはその実感は薄い。


 何故なら、敵勢力の大半を駆逐しているのは、人類軍ではない第三者だからだ。そしてその人物こそが、少将と一介の二等兵を繋いだ奇妙な縁でもある。


「今日は何色のジュースにするかね? おすすめはオレンジだが」


「いえ、まだ任務中ですので遠慮しておきます」


「そうか……」


 ちょっと残念そうにしながら、少将が手ずから水を用意してくれる。それを受け取り、葵は言われた通りソファに腰かけた。


「ふぅ……」


「どうせ誰も見ていないんだ、我が家のように寛いでくれて構わんぞ?」


「い、いえ……」


 流石にそれはいくらなんでも脱力しすぎである。それに我が家と言われても、最近はもう、かつての家の記憶より兵舎の部屋やこの応接室の方が馴染み深い。


「それでその、少将。お話というと、やはり……」


「うむ。X-0について報告があった」


 最重要探索対象X-0。


 人類軍が探し求める重要参考人。その正体は、怪物を連れた小さな女の子であると、葵は知っている。


 そして同時に、葵にとっての恩人でもある。


 かつて腐敗した上官の手によって絶死の戦場へと送り込まれた彼女は、たまたま居合わせた彼女に友人ともども命を救われた。だが当時の彼女はX-0について知らず、連れていた怪物に怯えるあまり不義理な態度を取ってしまった。全てを把握した今、その事をただ悔やむばかりである。


 彼女ともう一度再会する。そしてその時の事を謝罪する。


 それが、今の葵を動かすモチベーションでもあった。


 そしてそのX-0だが、最近大きな動きがあった。人類軍の内偵が全くの偶然から、件の少女との接触に成功したのだ。以降、加速度的に少女についての情報は増え、最近はある程度動向を把握できるまでになっている。


「相変わらずの神出鬼没だが、最近再び活動を再開したようだ。ここ数日、人類軍、および民間の集落から、近頃食料の紛失が多い、という報告が出ている」


「……彼女の怪物の育成が始まった、と?」


「我々はそう見ている。そしてその報告が、少しずつ西へ……大阪へ、近づいているらしい」


 大阪。


 恐らく偶然ではないだろう。X-0は何らかの伝手で人類軍の一大反抗作戦の情報を入手し、何らかの目的をもって向かってきている。


「一体、どこから情報を。件の密偵が提示した回線では触れていないはずですよね」


「うむ。大阪への攻撃は極秘事項だからな。しかし間違いない、作戦を感知している。育成段階の怪物を連れているのがその証拠だ」


 彼女はいくつもの怪物を連れ歩き、それらは宇宙人を主食として捕食している事が判明している。が、それまで彼女が滞在していた地域から大阪に向かうには人類の勢力圏内を通過する必要があるため、逆にいうと宇宙人がいない。だからこその食料盗難だろう。


 そこまで考えて、葵はちょっとだけ不安になった。


 X-0の人間性? については疑う必要はない。が、その連れる怪物は、ちょっと、その、大分不安だった。


 なんせ彼らは人間と宇宙人の区別をつけないのだ。


「……行方不明者、とかは……」


「なんともいえん。こんな世の中だから、ふっといなくなる人間なんて山ほどいるからな。とはいえ、騒ぎになるレベルでの大量失踪は確認されていない。彼女の管理を信用するしかないだろう」


「ですよねぇ」


 初遭遇の時、あわや彼女の怪物にオヤツにされかけた事を思い返し、葵は冷や汗をかいた。ちょっとトラウマである。


 そしてその怪物の特性が、人類軍の間でも彼女について意見が分かれる理由でもあった。


「頭の硬い連中の中には、作戦開始に先立って彼女を捜索、排除するべき、という意見も出ているようでな。全く困ったものだ」


「ええ……? 一体どうやって? 単体で宇宙人の要塞を落とすような怪物を連れているんですよ、彼女。そもそもどこに居るのかもわからないのに」


「結論が先行して手段まで頭が回らないのさ。その結論も間違っているが」


 ふかーく溜息をついて、少将。見れば目の下に隈がみえる。お疲れの様だ、と葵はひそかに同情した。


「X-0を敵に回すのは愚かな行為だ。彼女の怪物は確かに極めて強力で好戦的、また人類を捕食する事に何の抵抗もない化け物だ。だが、現状彼女の完全な管理下にあるし、その彼女に積極的に人類に敵対する理由がない、というのははっきりしている。本人の言もそうだが、これまでの行動でな」


「宇宙人に敵対する理由が分からない以上、いつ敵に回るかわからない、とか言い出す人は居ますけどね……」


 件の幸運な内偵の話では、彼女は何か宇宙人に恨みがあるらしい。であるならば、それはそれでいいだろう、と言うのが葵の意見だ。


 そもそも人類軍に所属する人間で、宇宙人に恨みが無い人間なんて居るのか、という話である。であるならば、彼女は目的を同じくする同胞なのだが、人類軍に帰属しない、というただ一点で、過激派からすれば敵になるらしい。


 大体、相手は宇宙人から一人で逃げ回り、いくつもの拠点を壊滅させているワンマンアーミーである。本命の作戦の前にそんなの相手にしてどうするのだ。


「……変な質問をするが。仮に立花中尉、君が彼女の捕縛を命じられたらどうする?」


「その場で人類軍を除隊しますけど、命が惜しいんで。まあそういう話ではないですよね。んーと……いややっぱり無理ですって。連れてる怪物の詳細が分かってるならともかく、何もかも不明な状態では不可能です」


「だろうなあ」


 怪物の由来や正体は不明だが、定期的に彼女の連れる怪物は変更されている。幼体らしきものを連れている所を目撃された事もあるので、恐らく卵から育成しているのだろう。そのバリエーションは非常に豊富で、かつ能力も多彩かつ強力だ。


 人類軍で一番有名なのはアイドール・オーダーの拠点を粉砕した超巨大怪生物だが、他にも一瞬で人を溶かしてしまう薄布状の怪生物、鎧をまとった爬虫類のような怪生物などが目撃されている。


 いずれも全く違う方向性の能力をもった強力な個体であり、情報も無しに捕縛しようとすれば絶大な被害をもたらす事は間違いないだろう。


 それがまた、過激派の意見を加熱させているのだが。


「あの連中ときたら、幼体を育成している今がチャンスだと……。それで成長した怪物もろとも彼女が敵に回ったら誰がどう責任を取れるというんだ? はあ……どうやったらあのアホどもを納得させられるんだろうなあ……」


「その……お疲れ様です、少将……」


「ほんとだよ……」


 小娘相手に愚痴を漏らすぐらい、少将はどうやらお疲れのようだった。彼の頭を悩ませる筆頭であろう、アメリカからやってきた金髪の若造の顔を思い出して葵もちょっとげんなりする。


 その後は気を取り直した少将と今後について少し話し合い、葵は応接室を後にしたのだった。


「あ、中尉、お帰りなさい」


「急に抜けて悪かったわね。あ、これ、少将からの差し入れ。カラフルジュース、皆で飲んで。お勧めはオレンジだって」


「うっそ、やった! 少将太っ腹……って。え? ナニコレ? なんでジュースが虹色に発光したりしてんの……? まともに飲めそうなのオレンジしかないような……」

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