『高度機械化空挺兵団』
極東地区において、人類軍は遅々とした歩みながらも、その勢力圏を宇宙人から奪還しつつあった。
侵略最初期に落とされた岩国基地を奪還し、そこを拠点に勢力を拡大。今では、中国・四国地方はほぼ完全に人類の手に取り戻されているといっていい。
だがそれは同時に、宇宙人達の関心が薄かった地域だったから、という事実もある。軍事拠点こそ徹底的に破壊したものの、侵略者の関心はより人口の多い関東地方を中心に向けられていた。
その関東地方にも橋頭堡を築き、少しずつ拠点を奪還。今や本州の三分の二ほどが、人類の手に取り戻されつつある。
しかしその中で、どうしても無視できない、大きな敵拠点がある。
大阪拠点。
東西の人類拠点を引き裂くように存在する、宇宙人の大規模要塞。これまでも人類は何度もこの要塞を攻略しようと攻撃をしかけ、その度に撃退されてきた。
その難攻不落の城塞を今度こそ撃滅せんと、人類軍は日々を準備に明け暮れている。
そしてその攻略作戦の中核となるのが、新設された高度機械化空挺兵団……通称メタバルキリー達であった。
極東における人類の最大拠点、岩国基地。
その上空、というには極めて低い低空を、高速で飛翔する機影があった。従来の航空機であれば間違いなく失速しているような低空・低速、しかし攻撃ヘリと比べればはるかに速い速度で、切り裂くような機動で飛翔する5つの機体。
見事な編隊飛行である。航空機であれば接触事故を避けられないようなギリギリの距離で、渡り鳥のようにVの字を維持して飛翔する。5つの機影のうち四つは地味なモスグリーンで、先頭の一機だけが鮮やかなコバルトブルー。
それらはぐるりと基地周辺を一周するとさらに高度を下げ、滑走路へと降下を開始した。
滑走路に降り立つその姿は小さい。ほぼ人間大サイズであり、同じように滑走路に降りてくるF-15E戦闘爆撃機と比べればその小ささは一目瞭然だ。
そして着陸状態に入ったF-15Eよりもはやい速度で降りてきたそれらは、およそ三分の一の距離で減速、完全に停止した。隣の滑走路を滑っていく銀色の荒鷲を見送った彼女らは、その場でヘルメットを脱ぎ去った。
「ぷはぁ……」
滑走路上に立つのは、武装アーマーを纏った五人の少女達。最新鋭のフライトアーマーを身に纏った彼女らは、イオンブースターが完全に停止したのを確認すると翼を折りたたむ。
その五人組の先頭に、立花葵の姿はあった。
「これで本日の訓練は終了ね。ハンガーで武装解除した後、ミーティング。それが終了し次第、1時間の休息とする」
「了解しました、立花中尉!」
「お疲れ様です!」
葵の指示に、びしっと敬礼を返す少女達。自分より年下の、まだあどけなさの残る少女達のまっすぐな視線に、葵は居心地が悪そうに顔をしかめた。
「や、め、て。あくまで、新設された特殊部隊の部隊長が少尉じゃ示しがつかないってんで無理やり中尉に昇格させられたのよ、柄じゃないわ。隊長でお願い。何度も言ってるじゃない」
「で、でも、中尉は中尉ですし……」
「んだべだべ。立花中尉さ、おらたちの中ではいっとう強いし。尊敬してるんだべ」
方言なまりが強い少女の言葉に、他の三人もこくこく頷く。
「たかが1年かそこらのキャリアの差よ。大体貴方達は育成を終えたばかりなんだから、実戦経験のある私に劣ってるのは当たり前じゃない。そんなもの、数戦もすれば覆るわ」
葵はあくまでそっけない。彼女はあくまで自分は促成組の即戦力であり、きちんとした訓練と教育を受けた者達が台頭するまでの時間稼ぎだと考えている。だからこそ、身の丈に合わない中尉への昇格や特殊部隊隊長という立場を受け入れたのだ。いろいろと手を尽くしてくれた少将への恩義もある。
が、知らぬは当人ばかりなり。すくなくとも配下のエリート少女達から見ても、葵の実力は頭二つ三つ抜けていた。それを正直に伝えても、葵は素直に受け取ろうとしないのだが。
部隊内の人間関係に微笑ましい瑕疵を抱えたままの特殊部隊。彼女らがハンガーに戻ると、そこには整備班の他に、真っ白な軍服に袖を通した佐官が待ち構えていた。
少将と比べてもかなり若い、30代の金髪の白人男性。誰もかれもが草臥れた皺だらけの軍服を着ている最前線にあって、ぱりっとアイロンをきかせた服に袖を通すその男は悪い意味で浮いていた。
品定めするような青い瞳が、じろり、とメタバルキリー達を見下ろした。
うげ、と葵の顔が引き攣る。面倒くさいのがいる。
ちょっと待ってなさい、と部下達をその場で待たせて、葵はつかつかと佐官の前に出るとびしりと敬礼をした。
「グラウスマン大佐に敬礼! ……それで、一体何のご用事でしょうか、大佐」
「囀るなイエローモンキー。中尉如きが大佐に嘗めた口を聞くんじゃない。貴様らが口にしていいのは、挨拶とYESのみだ」
明らかに軽蔑、というか一周まわって人種差別的な態度を隠そうともしない大佐の態度に、葵は特段機嫌を損ねるでもなく無表情を保った。
今更の事なので、特に腹も立たない。葵自身、軍の礼節とかよくわかっていないのは事実である。
そもそもこの男は誰に対してもこんな感じだ。
大陸からやってきた、前線を知らない頭でっかちのエリート様。ここに来て数か月になるというのに、未だその態度を改めないのは一周まわって大物であるとすらいえる。
とはいえそれはあくまで葵の所感。背後で待たされた四人の部下は、敵対的な感情を隠しきれていない。だから後ろで待機させたのよ、と葵は内心で溜息をついた。
ちなみに整備員達は、おろおろと大佐と小娘が向かい合う様を遠巻きに見守っている。腕はいいがこういう時にはてんで役に立たない連中だ、と葵はげんなりした。
「まあいい。ここに来たのは視察の一環だ、今度の作戦では不愉快だが貴様ら高度機械化空挺兵団が攻撃の要となる。その仕上がりを自分の目で確認しに来た」
「はっ、お疲れ様です」
「それなりに悪くない仕上がりだ。ただし状況の想定が甘い。あとで部下に意見書を届けさせる、それを参考に訓練をやり直せ。いいな」
それだけ言うと、大佐はそのままハンガーを出ていった。扉が閉まり、その軍靴の響きが十分遠くにいったのを確認してから、部下達が噴火した。
「何ですかあれ!! 人種差別なんて今更流行りませんよ!」
「アメリカ方面軍だかなんだか知らないが偉そうに!」
口々に罵りの声を上げる部下達を、まあまあと葵は宥めた。
「そう怒らない怒らない。なんだかんだでアメリカ方面軍の支援があるから、こうやって極東で宇宙人相手に戦えてる事を忘れないの。人類軍、とひとまとめにされても、元の経済基盤は別々。払ってもらってる額を考えれば、ちょっとアレな人を受け入れるのは必要経費よ」
「それは、そうかもですが……隊長は何とも思わないんですか?! あんな風に馬鹿にされて! 私は悔しいです!」
「まあまあまあ」
憤激する部下を宥める。本当に葵は気にしてないというかどうでもいいのだが、若い部下には刺激が強すぎたようだ。
「いいのよ別に、あんなお飾り大佐の意見なんて。私達は少将閣下の肝いりよ? 相手にするだけ無駄よ無駄。ほら、いつまでもうだうだしてないで、仕事仕事。今のやり取りで失った数分、取り返すわよ。整備班! ぼさっとしてないで仕事しなさい」
「りょ、了解しました」
傾けてある整備ベッドに身を預けると、整備班のスタッフが集まってきて除装を開始する。アーマーのロックが解除されるのを待っていると、不意にスタッフの一人が葵に耳打ちした。
「すいません、中尉。少将から今連絡がありまして。終わったらすぐ来て欲しいと」
「ええ……この後も忙しいんだけど?」
「申し訳ない」
まあいいけど、と葵は肩を竦めた。




