表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い  作者: SIS
カウンター・シューティング

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/131

『不味い! もう一杯!』



 地球を侵略する宇宙人達。


 その勢力は、大きく分けて三つに分かれている。


 一つは、機械技術を維持するクロノス・オーダー。


 一つは、己が神を信仰するアイドール・オーダー。


 そしてもう一つが、軍事を担当するセンチネル・オーダーだ。


 この通り、本来荒事はセンチネル・オーダーの仕事であり、他の二つは武力こそ有しているものの争いが主目的ではない。


 何せセンチネルは融通が利かない。純粋なる兵士である彼らは、指定された対象を破壊、抹殺するのみであり、信仰や技術的関心はその任務には一切含まれない。故に、それぞれの望みを叶えるために、クロノス及びアイドールは、それぞれ自前の部隊を抱えている。


 それはあくまで必要に応じてのものだ。


 クロノス・オーダーは未熟で不完全な技術をこの宇宙から消し去るために。アイドール・オーダーは神を信じぬ異端者を滅ぼすために、それぞれの軍を率いて、原住民の殺戮を行っている。


 だがそれは技術的優位にものを言わせたハンティングゲームのようなものだ。


 自らに匹敵しうる質を持った驚異的な特務兵との戦闘は想定していない。


 早い話が、彼らの中には、そろそろ“クィーン”の存在を危険視するものもあらわれはじめている。


 その一人が、ある技術要塞を支配するテクノビショップ、プリサーバーであった。






 プリサーバーは、最前線から一歩引いた場所に建造された、技術要塞の支配者である。


 今日も配下の技術者達への教導を終えた彼は、自室に辿り着くなり深いため息をついた。


『432400295……』


 部屋は内側から念入りにロックをかける。


 それが済むと人間には理解できない数字の羅列をつぶやきながら、彼は部屋の中央に佇む立派な時計のオブジェクトへと手を合わせて黙祷する。


 この時計のオブジェクトは、彼らの知りうるあらゆる時間流を刻んでいる。クロノス・オーダーは時間をコントロールする技術を管理すると同時に、時間の流れを崇拝する宗教集団でもあった。


 そんな彼らにとって、永遠ではないメカニズムは侮蔑の対象。


 永遠を目指さず、永遠には程遠い不完全な愚者のテクノロジーを異端とし、この宇宙から葬り去る事こそが、彼らクロノス・オーダーの悲願でもある。そういう意味では、地球人類という存在は彼らにとって侮蔑に値する存在であった。


 脆弱で不完全な肉の肉体に固執し、かといってそれを万全に保とうとするのではなく、ただ自然と時間の流れに身を任せるばかりで、自らを進んだ存在に押し上げようとしない。


 全くそこまで届かないというならともかく、地球人類のテクノロジーは肉体の置換、宇宙への進出に手をかけていた。それを、愚かな思想に足をひっぱられ、永遠に足踏みを繰り返す彼らは、まさにクロノス・オーダーにとって滅ぼすべき対象である。


 むしろ、地球人類が外道の行いと認識している、捕虜の人体改造は、彼らからの細やかな慈悲ですらあった。


『325……44329……』


 しかし。最近は聊か事情が異なる。


 人類軍、とやらが脅威にも値しない烏合の衆である事は変わらない。だとしても、対応しなければそれなりの損害は逃れられず……その隙をついて、真に致命的な損害を齎す存在への対応が遅れている。


 その存在は、人類軍のコードネームを流用して“クィーン”と呼ばれている。三賢人直々に施術を行ったというその実験体が逃亡した当初、それがここまでの脅威になるとは誰も考えていなかった。


 それが今やどうだ。


 クィーンは陰に潜み、隙あらば自分達に牙を剝いてくる。今では拠点の一つ、二つが一晩で消える事も珍しくはない。明らかにクィーンとその怪物は、想定を遥かに越えた進化を見せている。


 人類軍などという無知蒙昧の輩相手に、戦力を浪費している場合ではない。一刻も早く、根本的な対応が必要だ。


『753……5572……』


 そもそも、どうして三賢人、そして我らが神は地球の制圧にこだわっているのか。制宙権を取っている以上、小惑星なり反応弾なりの軌道爆撃で、人類など一蹴してしまえるだろうに。確かにこの惑星は宇宙において貴重な、天然のバイオマスに満たされた豊かな星だが、自分達がその気になればこの程度の環境、いくらでもテラフォーミングできる。どのみち現住の知的生命体は葬り去るのだから、結果としては変わらないはずだ。


 それとも何かあるのだろうか。


 地球環境を破壊できない、あるいは人類軍に手心をかける理由が……。


『8739……7764……21133……』


 そこまで考えて、プリサーバーは頭を振った。


 これ以上は、三賢人と神への猜疑となる。それは望むところではない。


 彼は己の揺らいだ忠誠心を硬く結びなおすように、さらに一心不乱にオブジェクトに祈りを捧げた。


 その時。


 ふと、彼の機械化された脊髄に、かすかな悪寒のようなものが走った。


 ぞわりと広がる怖気に、プリサーバーは祈りを中断し、自室を見渡した。


 部屋に、変わりはない。壁も床も不可解な機構で埋め尽くされ、規則正しく時を刻む、いつも通りの彼の自室だ。


 しかし、何か妙だ。絶対安全であるはずの自室が、今や獣の檻のように不安をかきたててしょうがない。


 そんなはずはない、とプリサーバーは理論でもって己の不安を否定した。


 確かに、クィーンの手管として、巧みに基地に潜伏し、そこに住む者を片っ端から抹殺していくというものがあった。しかしそれについてはすでに対処済みだ。


 センチネルからの報告により、それを成したクィーンのチルドレンについては解析が行われている。極めて扁平な形状の肉体を有した軟体生物。どんな隙間にも入り込み、不意をついて溶解液で対象を分解する……その対策も完全だ。


 今やあらゆる基地の隙間にはセンサーが張り巡らされ、いかなる特殊な形状の生物の侵入も許さない。ましてやプリサーバーの自室ともなれば、一切の侵入可能な隙間はない。仮に対象がガス状生命体だったとしても、彼の自室に侵入する事は不可能だ。


 念仏のように理屈を繰り返し諳んじる。


 にも関わらず、プリサーバーの感じる不安は膨らむばかりだ。


『434……56332……711?!』


 ついには不安が頂点に達し、護衛を呼び寄せようとオブジェクトに背を向けたプリサーバー、その彼の足が、ねちょり、と何か粘液質のものを踏みつけた。


 慌てて飛び退るようにして、足の裏を確認する。


 完全に機械に置換された彼の足。その足が、べっとりと粘着性の高い半透明の粘液で塗れていた。


 こんなもの、覚えがない。


 凍り付くプリサーバー。


 その背後で、ぴちょん、と何かが床に滴る音がした。


『?!』


 弾かれたように振り返る。だが、そこには何もないし、何も居ない。


 ただ、オブジェクトがこちこちと、規則正しく時間を刻んでいるだけである。


 ほんの僅か、プリサーバーの心に安堵が過ぎり……。


 次の瞬間。彼は何者かに床に引き倒された。


『543……782!?』


 機械化されたプリサーバーの体躯を、有無を言わさず捻じ伏せる何者か。その姿を確認するよりも早く、彼は救援を呼ぼうとした。異常を知らせようとした。


 だがそれは叶わない。


 突如放たれた高出力の脳波動が、彼の精緻なシステムに乱れを齎した。寸分たがわず同調するシステムが出鱈目に継ぎなおされ、規則正しくリズムを刻む機構がすれ違って不協和音を奏で始める。リミッターや安全装置の許容量を遥かに越えた脳波動を流し込まれて、彼のシステム系はダウンした。


「こんばんは。良い夜ね」


 鈴の鳴るような、柔らかな声が響く。幼げで舌足らずで、それでいて血の滴るような妖艶さを秘めた。


 ぶすぶすと煙をあげながら、思うように動かない顔を上げてプリサーバーは声の主を視界に収めた。


『……7、74529……』


「何言ってるかわかんないけど、まあ、私の事はご存知かしら?」


 そこには、まさに先ほど思考に上げていた怪物の姿があった。


 クィーン。


 恐るべき怪物の母。否、この女こそが、怪物。


 馬鹿な。どうやって。


 疑問符がプリサーバーの思考を埋め尽くす。


 奴の生み出した怪物だけなら、まだよい。理不尽だが納得する。


 だが何故、クィーン本人までここに。一体、何をどうやって。


「今日はちょっと、偉い人に聞きたい事があって来たの。ねえ、私の質問に、答えて下さらないかしら。次の人類軍の動き、貴方達は把握しているのかしら。それで、何をするつもりなの?」


『5488,9374!』


 笑顔の恫喝に、プリサーバーは即座に否定で返した。


 自分の命と、三賢人と神への忠誠、どちらを取るかなど秤にかけるまでもない。この恐るべき怪物に話す事など何もない。


 覚悟を込めたプリサーバーの拒絶に、しかし、クィーンはにんまりと笑みを深くした。


「強い拒絶。抗う意思。つまり、知ってるのね?」


 その手には、鋭い先端を持った鉄の吻が握りしめられている。


 プリサーバーは、己の失敗を理解した。この怪物がどこまで進化しているのか、その進化の幅を測り間違えた。


 拘束を暴れて振りほどこうとすると、それ以上の力で抑え込まれた。視界の端、節くれだち鉤爪を持った指が、プリサーバーをめり込む程床に押さえつけているのが見える。


『!?!??!』


「あー、もう、暴れないで。シルル、そのまましっかり押さえておいてね。せーの」


 頭上でクィーンが鉄のストローを振り上げる気配。


 考えてはいけない、と考えるほどに考えてしまう。思考のジレンマに陥る中、恐怖に囚われた思考の片隅で、プリサーバーは機械仕掛けの記憶領域に絶叫を刻んだ。




 クィーンを排除せよ。一刻も早く。奴がこれ以上進化を重ねる前に。


 この怪物は……。


 我々を、いつか滅ぼす!




 どすり、と鋭い切っ先がプリサーバーの頭に食い込み、残された彼の脳細胞を啜り上げる。痛みのない喪失の中で、テクノビショップの意識は時間の狭間へと還っていった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ