『だから人間食べちゃだめだって!』
無防備な頭殻に炸裂する渾身のローリングソバット。
鋼鉄にも匹敵する強度の頭を蹴っ飛ばした事で足にじーんと痛みが返ってくるが、それはぐっと堪える。
「まったく! 何回教えたらわかるの! 生きてる人間は食べちゃダメ!!」
地面にすたっと降り立ち、ぷりぷりとプルートゥを叱りつける。
まったく、本当に堪え性がないんだから。おかげで人間の近くで生活できやしない! 朝起きた時にお前の姿が無かった時、すわ人間を食べにいったんじゃないかといつもドキドキするんだからね!!
そのプルートゥは、両手で抱えていた少女を抱きしめたまま、傾いた首で目を見開いて硬直してる。
私のキック程度がそんなに痛いはずもない。親に怒られてびっくりしてる感じだ。
「聞こえてる? 聞こえてるならその人を降ろしなさい。は・や・く!!」
『グ、グルルゥ……』
口元を二度ほどぱくぱくさせて、プルートゥはしぶしぶ、といったていで二人を地面におろした。直前で乱暴に爪から落とされて、少女の装甲が重い音を立てた。
「きゃっ」
「ごめん、大丈夫? びっくりさせてごめんね、ケガはない?」
「え、ええ……」
慌てて駆け寄ると、少女は相棒を抱きしめたまま、感情の整理がつかない、といった感じの錯乱寸前の視線で私を見た。これは対応間違えるとやばい奴だ。
そ、そんな目で見ないで。ね?
「ごめんね、一応ちゃんと躾したつもりなんだけど、腹ペコになると見境がなくて……めっ、でしょ! めっ!!」
『グルルゥ……』
「……な、なんなの貴方達……」
私の怒号に、爪を胸の前で合わせて身を小さくするプルートゥ。そんな反省したポーズとっていても、今度という今度は許しません! 何度目だよこのやりとり!
「た、助けてもらった事には礼を言うけど……そ、そんな人食いの化け物となんで一緒にいるの!? そんな、まるで子供みたいに……貴方は何?! そもそもこの怪物は何なの?!」
「あ、あー……」
こりゃあ駄目だ、冷静に話が出来そうにない。
最初こそ窮地を助けられて好意的にこっちを見ていたのに、プルートゥがやらかしたので好感度がリセットされちゃった感じ。
で、最初の印象が覆された状態で私達みたら、そりゃあ怪しいよな……。
これは、うーん。早いところ別れた方がよさそうだ。
困っていると、何やら身を小さくしたプルートゥが、くいくい、と爪先で私の肩を引いた。
何事かと見上げると、今度は爪先でちょいちょい、と指さす仕草。
指さす先は、少女が抱きかかえたままの相棒の躯。
……あのねえ……。
そりゃあ生きてる人間は食べるな、と教えたけど、イコール死んだ人間なら食べていいって訳じゃないのよ?
どうやら子供の情操教育は失敗したらしい、と私は頭を抱えて、小さく懲りない食いしん坊を叱りつけた。
「ダメに決まってるでしょ。というか、今回のご褒美はなし。当分添い寝もなしね」
『グルゥ!?』
どてっぱらに穴をあけられた時よりもダメージを受けたような反応を見せる我が子。
口を半開きにしてこの世の終わり、みたいな顔をしているプルートゥに深くため息をついて、私は女の子に向き直った。
「ごめんなさい、混乱させるつもりはなかったの。……私自身に、人類と敵対するつもりはないわ。貴方を助けたのはたまたま、よ。私もあの侵略者どもには恨みがあるの。いろいろとね」
「貴方は……人間なの? それとも、人間によく似た何かなの?」
「人間よ。身も心もね。それだけは保証するわ」
というか、私としては一度何でもいいから人間の研究所でもなんでも、とにかくそれを一度証明してほしいまである。
もう本当、めっちゃくちゃのぐっちゃぐちゃに体をいじられたからなぁ……。
とはいえ、本当にそれを実行する訳にもいかない。うちの子はどう考えても、人類陣営でやっていけないし。
可愛い我が子を置いて、人類側に戻る訳にもいかない。
いやはや。
「これ以上はお互い、不本意な結果を招きそうね。今日はこれで失礼するわ。貴方達、帰りはどうするの?」
「……この作戦は特殊作戦だから、迎えはないわ。自力で帰還する事になっていた」
「あ、そう。人材を使い捨てる悪癖まだ直ってないの、司令部? 死ねばいいのに。まあいいわ、ここから5キロ東にいった所に、人類軍の偵察が来てるはず。そちらに拾ってもらえばいい」
何を隠そう、その地点は私達の前の寝床だ。そこを探り出されたから、こうして新しい家を探して移動していたのだが、妙な事になったものだ。
この調子だともっと遠くに拠点を探した方がよさそうである。
「なんで、そんな事を……」
「さあ、なんでかしらね? それじゃあ、失礼するわ。……ほら、いつまでも落ち込んでない!」
『キュググゥ』
おとなしく身をかがめるプルートゥの肩に飛び乗る。腰を下ろした私を支えるように、そっと左腕が足を押さえた。
「じゃあね、人類軍の兵士さん。あ、それと相棒さん、心停止してるけどまだ助かる可能性はあるわ。ここから50mくらい西にある赤い看板の建物の3Fに私が寝床にしてた部屋があるんだけど、そこに緊急用の救命装備おいてきたから、よかったら使って」
「え……」
「どうせ脳チップ埋め込んでるんでしょ? それだったらまあ脳死は免れられるんじゃない? じゃあ、ばいばーい」
最後に、後をつけられないように爆弾情報を残しておいて、その場を去る。
私の意図を汲んで、ビルを飛び越えるような跳躍でこの場を離れるプルートゥ。
暴風に髪をなびかせて、私はそっと傍らの分厚い頭殻に寄り添った。
「良い子、良い子。よーし、前言撤回、後でご褒美上げちゃおう。何が欲しい?」
『キュッ!? ピピィ、キュキュピ!!』
優しく頭殻を撫でてやりながら囁くと、歓声を上げてプルートゥがひときわ強く跳躍した。
あ、ちょ、それは流石に高すぎ……にょわああん!?




