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TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い  作者: SIS
アウター・チルドレン

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『ただ一目……見守る事が出来れば、それでよかったのに』



『つまりは、探索対象X-0についての続報はないという事か』


「ああ。ここひと月ほど、怪物を連れた少女についての報告はぱたりと途絶えている」


 人類集落の最奥。複数の兵士が見張りをする扉の奥で、集落のリーダーがディスプレイで何者かと会話をしていた。


 今となっては非常に貴重な情報端末。宇宙人相手にどれだけ有効かはわからないものの、複雑な暗号化処置を行われた通信ラインでつながった先の相手は人類軍の重鎮だ。


 とはいえ、暗号化処置の影響か映像は鮮明とは程遠い、かろうじて中年の男性である事がわかる程度だ。聞こえてくる音声も、ひび割れていて機械じみている。


「……もしかしなくても、死んだんじゃないか? あれだけ暴れていたんだ、宇宙人からも最優先で狙われているだろう」


『ふふ。もし彼女がその程度で命を落とす存在なら、我々にとっても容易い話なのだがね』


 会話の内容は、ここ数年の間人類軍の間で話題になっている謎の存在、探索対象X-0。以前までは人類軍の正規作戦よりも頻繁に宇宙人を襲撃していたと思われるそれが、ここ一月ほど音沙汰もなく静かにしている件についてだ。


「なんでそんなに得体の知れない化け物に固執してるんだ?」


 正直、リーダーはその存在の事を今でも疑っている。まず怪物を連れた少女というのがまず何なんだ。怪物って何、宇宙人とは違うのか? 人類軍の作り出した生物兵器か? 


 さらに、そんなものが宇宙人を繰り返し襲撃し、人類軍の正規部隊以上の戦果を挙げているのがさらによくわからない。人類を越える超テクノロジーで武装した宇宙人の兵士を、たかが一匹の怪物で蹂躙しているとでもいうのか? どんな怪獣王だ、それは。正直、リーダーは追い詰められすぎて人類軍は夢を見ているのではないかと思っている。


 だがそれはそれとして、その動向について報告すれば人類軍から支援を受けられるので、無視するわけにもいかなかった。


『だが、戦闘の痕跡はあるのだろう?』


「戦闘というか……気が付いたらいたはずの宇宙人の部隊が居なくなってる、というぐらいだ。単に撤収しただけかもしれない」


『武器や資材を基地に残したまま、最低限の人間も残さずに? 基地の人員が丸ごと蒸発してそれっきりというのは、どう考えても尋常の出来事ではないよ』


 それは、そうかもしれないが。しかし相手は宇宙人だ、そういう事もあるかもしれない。


 なんでもかんでもX-0に結び付けるのはいかがなものか、とリーダーは思った。


「それは……そうかもだが。しかし、銃の一発も撃った跡もなく、数百人を超える宇宙人の部隊が殺されてしまうほうが理不尽じゃないか? 死体だって残ってないんだぞ」


『そういった理不尽を成し遂げるのがX-0だ。何も不思議な事はない』


「はいはい……」


 打つ手なしとはこの事だ。リーダーはあきれ返ってかぶりを振った。


『彼女については一年ぐらいは余裕で様子を見れる。この後も、何か異常があったら教えてくれ』


「はいはい……わかりました。物資の補充もよろしくお願いしますよ」


『勿論だ』


 それで今回の話は終わった。通信を切り、情報端末の電源を切る。リーダーはそのまま外に出ると護衛と共に仕事に戻った。勿論、ドアには鍵をかけておく。


 無人になった通信室。


 その天井のダクトが、ごとり、と小さな音を立てた。


 蓋が内側から押し広げられ、その内部から何かが這い出して来る。


 ピンク色の、布のような。


『みゅふふ』


 小さく一声鳴いたそれは、母親から言いつけられた通り、室内に監視装置がないかどうかを確認した。それらが無い事を確認するとひらりとダクトから外に出て、ふわり、と床に着地する。そのまま繊毛で滑るようにドアに近づくと、内側からロックを解除する。


 かちり。


 ロックが解除された瞬間、するりと部屋の中に入り込んでくる人影。


 葛葉零士。


 彼女はドアのロックを再び戻すと、悠々と情報端末に近づいた。


 その足元にキティが這いよると、するするとその体を這い上って肩に巻き付く。


「ご苦労、キティ。本当にお前は賢い子だな。飴ちゃんあげよう」


『みゅふぅーー!!』


 ご褒美にベッコウ飴を与えられ、喜んで毛をふわふわさせるキティ。我が子の無邪気に喜ぶ様を微笑ましく見守りつつ、零士は端末のキーボードに視線を下した。


「ふぅん。起動にはパスワードが必要、と。まあ、人間基準ではそれなりに厳重なセキュリティなのだろうが……キティ」


『みゅふ!』


 ふわり、とキーボードに桃色の生命体が覆いかぶさる。しばらくもごもごしたかと思うと、小さなエイリアンはかちかちとキーボードをたたき始めた。


 パスワードクリア。


 システムが立ち上がる。


「よろしい。くくく、重要な端末だからこそ、文章作業等には使用してないと見たがドンピシャだったな。うちのキティにかかれば、キーボードの指紋の濃さを見分ける事などお茶の子さいさい、という訳だ」


『みゅっふふふ』


 上機嫌で悪役のように笑う零士に、理由はわからないが嬉しそうに追随するキティ。ひとしきり楽しそうに哄笑のデュエットを楽しんでから、思い出したように零士は作業に戻った。


「さて、と。あとはこのUSBに情報を吸い出して、と……」


 コンビニの廃墟から失敬してきた5GB容量のUSBを端末に突き刺し、それっぽい情報を吸い上げていく。その過程で、重要そうな情報には一応目を通す。


「探索対象X-0……? なんだこれ? 人類軍の秘密兵器か? あとこれは……現在の人類軍の拠点か。見事なまでに関東は壊滅状態だな。今現在の主要基地は……岩国の自衛隊基地跡? あそこ真っ先に壊滅したんじゃなかったか? わざわざ奪還して復興したのか……」


『みゅふふふ?』


「ああ、もうちょっとまってね」


 我が子をモフモフしながらデータを読み込む。中身が膨大だから多少時間がかかっているようだ。


 まあ、ここで持ち出しさえできればあとはどうとでもなる。中身のない情報端末なら、探せばいくらでも見つかる。必要なのは生きた情報だ。


「もうちょっとかかるな……うん?」


 ほかに何かめぼしい情報はないかと漁っていた零士は、ふと画面の右下の時刻表に目を止めた。


 そこには、現在の時刻の他、日付についても表示されている。情報を取るならば、日付のすり合わせもいるよな、と目を向けた彼女はしかし、表示されている年数に目を見開いた。


「…………2036年?! 2026年じゃなくて!?」






「あ、おーい。どうだった、スパイ作戦は成功したのか?」


 ふらふらと戻ってきた零士に、少年達のリーダーが声をかける。ふらつきながら歩いていた彼女は、その呼び声にぴたりと足を止めた。


 傾いたまま停止する彼女の様子に、少年は首をかしげるが、残念ながら人生経験のない彼には、本当に絶望している相手がどんな状態か、知識がなかった。


 無邪気に話を続ける。


「……………………………ああ」


「? どうした、目当ての情報がなかったのか? えらい落ち込んでるけど」


「問題はない……ちょっと寝る……」


 うつむいたまま、地の底から響くような声で答える少女がすれ違っていく。


 流石に少年も様子がおかしい事に気が付いた。だが、その理由がわからない。


 結局、デリカシーの無い対応に終始せざるを得なかった。


「??? あ、ああ……食事はどうする?」


「要らない……ほっといてくれ……」


 それっきり、零士は何も言わず、アパートに用意されている自分の部屋に戻っていった。


「なんだあいつ……?」




◆◆




 部屋に戻ってきた零士は、そのままぐしゃり、とベッドの上に倒れこんだ。


 そのままぴくりとも動かない母親に、偽装を解除したキティがまとわりついて、悲し気に鳴く。


『みゅぃ……みぃい……? みゅー?』


「……一年ぐらい、だと。思っていたんだ」


 宇宙人に囚われ、捕虜……実験体となっていた期間。外も見えず、昼夜の概念もないそこでの生活を、零士はだいたい一年ぐらいだと想定していた。


 そこから脱走して3年ほど。こちらは間違いない。なんせ日本には曖昧になりつつあるが四季がある。冬の寒さに凍えた記憶を数えれば間違いはない。


 だから、4年。


 4年ぐらいなら、まだ、生きているかもしれないと思っていた。それが彼女の希望だった。


 両親。


 地元を離れて遠く都会に就職した自分とは違い、田舎に残ったままの両親なら無事な可能性はある。まだ侵略から5年程度なら、戦火に巻き込まれてさえいなければ可能性はある。


 子の復讐が最優先だ。だがそれと同時に、そのために宇宙人を殲滅する事は、間接的に両親の助けにもなると信じていた。


 この体で、息子であると名乗り出るつもりはない。ただそれでも、元気なところを一目見られれば、それでいいと思っていた。


 だが。


 10年。……脱出してからの事を考えれば、13年。


 あまりにも長い時間が、知らぬ内に経過していた。


 再会は……絶望的だった。


 この絶望の時代。侵略者の脅威にさらされていない人間などいない。衰えた者、年老いた者、未熟な者から死んでいく。その侵略者の平等さだけは、唯一信じられるものだ。


 両親が生きている、なんて都合の良い幻想を信じる事は、できなかった。


「はははは……父さん、母さん……」


 ベッドに横たわる瞳から、一滴の涙が零れる。


 すっかり弱り切った母の傍に寄り添い、キティは小さく鳴くとぺろり、とその流れる涙の雫を舌ですくった。


『みぃ……』


「キティ……」


 傍らによりそってくれる我が子を抱き寄せて、零士はそのふわふわの毛皮に顔を埋めた。


「私にはもう……お前たちしかいないんだ……私を……一人にしないで……」


『みみぃ……』





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