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TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い  作者: SIS
アウター・チルドレン

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22/131

『地獄からやってきた女、エイリアンレディ!』

 私が人類の集落にきて三日が経過した。


 たった三日、されど三日。それだけあればここのやり方にもなれたし、顔なじみもできる。


 部屋で目を覚ました私がする事はまず、備蓄した携帯食料を皿に盛り、可愛い我が子の朝ごはんを済ませる事だ。


「ほら、たーんとお食べ」


『みみみぃ!』


 皿にふわさ、と被さった我が子は、その底なしの食欲で一瞬でそれらを消化してしまう。なお何回言っても皿ごと食べてしまうのは直らなかった。


 床にしいた新聞紙をくしゃっと丸めてゴミ袋に叩き込み、よしよし、と我が子の頭を撫でさする。


「今日もよろしくねぇ」


『みみみぃ!』


 戦闘もなく穏やかな日々を過ごせているせいか、子の毛並みはいつになく艶やかだ。物言わぬショールの真似をする我が子を体に巻き付けて、私は朝の労働に出かけた。


 働かざるもの食うべからず。


 配給をもらうためには、コミュニティに貢献するのが最低限の条件だ。


 本来ならば、がれきの除去とか住居の増築といった重労働が要求される労働。しかし、今の私は見た目子供。子供に無理を言うほど、この集落の人間たちは擦れていないらしい。


「これはどこにもっていけばいいですか?」


「あ、葛葉ちゃん。今日も頑張るね。これは……石切屋のおじさんのところにもっていってくれるかな?」


「わかりました!」


 今日も愛想を振りまきながら、案内所で道具の運搬の仕事をもらう。


 工具が満載された鉄の工具箱を、指定された場所までもっていくだけのちょろい仕事だ。これをこなすだけで配給チケットがもらえるなんて楽な仕事である。


「ふんふーん、ふふん」


「おっ、おちびちゃん、今日も朝からよく働くね。これをあげよう」


「わーい!」


 しかも道行く人からおひねりの代わりにお菓子をもらえる。通りすがりの髭のおじちゃんが手渡してくれたのは、琥珀色に輝くべっこう飴。


 野宿生活ではめったに手に入らない貴重物資も、ここに居る間は簡単に手に入る。


 文明万歳!


「貴重なお菓子をありがとうございます!」


「ははは、いいよ。砂糖を煮詰めただけの簡単なお菓子だしね。砂糖だって、そうそう貴重なものでもないし」


「そうなんですか?」


 割と意外である。野宿生活でも、スーパーなどでは砂糖や塩は最優先でもっていかれたのか、まったく見かけなかったのだが。あ、もしかしてだからか。


 砂糖も塩も、腐りはしないしな。宇宙人の虐殺によって、数億人を食べさせていく前提で備蓄されていた食料を、わずか数千万人で分け合っているような状態なら、まあそれなりに物資は潤沢といえるのか?


 人類軍とやらが結成されたという事は、国際的な流通網も管理されているだろうしな。


「子供がそういうのを気にするんじゃないの。気にせず食べなさい」


「わーい!」


 何はともあれ嬉しいのは事実なので素直に受け取る。子供らしい態度で喜びを示すと、おじちゃんは笑って歩き去っていた。あちらも忙しいらしい。


 しかし、飴をもらっちゃった。


 しかも二粒。


 一粒は取っておくとして、私は一つをさっそくフィルムを剥がすと、ショールに偽装しているキティの口元に運んだ。


『(みゅ?)』


「お食べ、お食べ。美味しいよ」


『(ふみゅ!!)』


 毛皮の下で、もそもそとベッコウ飴を舐める子供。


 瞬間、はっきりとわかるほど毛が逆立ってふわふわになる。


 慌てて周囲に目を向けるが、気が付いた人間はいないようだ。安堵した私は、小声で我が子を叱りつけた。


「こ、こら。迂闊だぞ、まったく。……そんなに美味しかったのか?」


『(ふみゅみゅ……)』


 開かれた目は涙でウルウルしている。感動して言葉もない、といった感じか。


 ココアもそうだったが、もしかして甘いものが好きなのだろうか。


 だとしたら、集落に来てよかった。野宿生活では、甘いものなど早々手に入らない。自分が何が好きかもしれないまま一生を終えるなんて、あんまりだ。


 でもそれはそれ、これはこれ。


「私も迂闊だったけど、気を付けてね」


『(みゅ、みゅふ!!)』


 自分が何をやらかしかけたのか自覚はあるらしく、返事は緊張に満ちていた。それならよし、と私は話を切り上げて、親方の所に道具を運ぶ仕事に戻った。




 仕事が終わればお昼ご飯の時間だ。


 あの後もいくつかの仕事場を行脚して午前中を過ごした私は、鐘の音を頼りに広場へと向かった。


 そこには同じように配給をまつたくさんの人が集まっている。その列の最後尾におとなしく並ぶと、振り返った前の人……中年のおばさんと目があった。


「おや、お嬢ちゃん。まじめだねえ。ほら、私の前においで」


「い、いや、いいです。悪いですから……ルールですので」


「ほんとによい子だねえ」


 丁重に断ると、前の人もあまりしつこく言わずに顔を戻した。その際、小さくため息をつく彼女。


「あいつらも、お嬢ちゃんみたいに真面目に働いてくれればねえ……」


「…………」


 あいつら、か。その話はあちこちで聞いた。


 一見、善人ばかりで円満に運営されているこの集落にも、悩みらしきものはあるようだ。


「おっと、列が進みましたよ」


「あらやだ、ごめんなさいね」




 本日の配給は芋のスープとビスケットだった。芋のスープは牛乳を使ってこそいないがほぼシチューのような感じである。


 湯気を立てるそれを早速食べてしまいたいが、配給は部屋に戻って食べるのがルールだ。皆が食事を済ますには広場はちょっと狭すぎる。


 それに食事が絡むともめごとも多い。


 私のような弱弱しい幼女は、おとなしく住処でご飯を食べるべきだろう。キティにも分けてあげられるし。


 しかし今回、私はまっすぐ部屋に戻るのではなく、広場から離れた集落の片隅にやってきている。


 このあたりは、行儀のよろしい人ばかりではないらしく、道にもゴミが転がり、瓦礫が放置されたまま、その周辺で座り込んだ汚らしい大人達が私にぶしつけな視線を向けてきている。


 かといって絡んでくるほどではない。


 なんていうか、毎日あくせく働いて配給を受けるのではなく、時折働いて飢え死にしない程度に配給がもらえればいい、そんな感じの不良住人が集まっているらしい。


 ある種のスラム、という事だ。


 本当のスラムになっていないのは、集落の人の頑張りというか、外敵の存在か。


 外敵が居れば人類は団結できる、というのは幻想にすぎないが、しかし実際に外敵の攻撃があって間引きが行われれば、協力できない人間から死んでいく。


 というか侵略者達がそういうやつらを好んで狩りだすからな。互いをかばう親子を見捨てて逃げる避難民がいたらそいつを真っ先に追い回して殺し、そして引き返してから親子を殺す。宇宙人の殺戮順序はそんな感じなのである。


 なんか、拘りというか好みがあるらしい。どうでもいい事だが。


「ふんふんふーん」


 鼻歌を歌いながら、崩れた建物の横に回り込む。意図的に袋小路に入っていく私の背後で、かさり、と動く影があった。


 かかった。


 私はなおも先に進みながら、次の角を曲がる。その瞬間、跳躍して壁に張り付いた。


 身体能力にものを言わせて、壁に直立する。このままでは重力に引っ張られて落ちるだけだが……。


『みゅふ!』


 すぐさまキティがふわりと面積を広げて壁にはりつく。これで私は落下する事はない。


 そのまま4mぐらいの高さから地上を見下ろしていると、ドタドタと走ってやってくる者達の様子がよく見えた。


 袋小路に入り込んだ私を追ってやってくるいくつかの人影。


 いずれも子供だ。中学生ぐらいのみすぼらしい恰好の子供たちが、棒きれを手に走ってくる。


「あ、あれ?」


「居ない? シンジ、ほんとにこっちに来たんだろうな?」


「嘘じゃない、みたよ! 最近集落に来た変な子供が入っていくのを見た!」


 わあわあと子供たちが言い争いをするのを眼下に、私は壁をゆうゆうと歩いて彼らの背後に回る。


 音もなく地に降り立ち、湯気を立てる食器類をお盆にのせたまま、私は彼らに声をかけた。


「君たちが探しているのは、もしかして私の事かな?」


「?!」


「いつの間に?」


 にっこり微笑みかけるが、少年たちは恐怖の表情を浮かべて棒を握りしめるばかりだ。


 じりじりと距離を測るように動く彼らに、私は肩をすくめて見せる。


「おいおい、なんだ、物騒だな。話をしようじゃないか。同じ人間だろう?」


「な、なあ、こいつ変なしゃべり方じゃないか。やっぱ変だって」


「う、うるせえ! お、おい、チビ! 怪我したくなかったら、その配給をよこせ!」


 リーダーらしき頬に傷のある少年が、私の持っているお盆を指さす。


 ふんむ。狙いは食料か。しかし……。


「こんなもの、あっちでちょっと働けばいくらでも食べさせて貰えるだろう。私から奪う必要はないと思うが」


「うるせえ!」


 おや、思ったよりも喧嘩っぱやいな。


 棒を振り上げて迫ってくる少年に、私は困ったな、と眉をひそめた。同時に、広がって展開しようとしていた我が子の体を内側から引っ張って制止する。


 やめなさい。そんな、生き死にの迫った話ではないよ。


「やれやれ。ちょっと、お仕置きが必要なようだな」


「うるせえ、チビ……おわああ!?」


 数分後。


 食器の中身をこぼす事なくお盆を抱えた私の足元に、悪戯小僧どもは全員のされて転がっていた。


 ふふん。


 この程度のガキに遅れをとるような事がある訳なかろう。


 あとそれから我が子よ、もうちょっと我慢してね。やっつけたね、じゃあ僕が証拠隠滅するよ、と言わんばかりに蠢かないで。殺す気はないから。


「い、つつ……」


「つ、つええ……」


「ふふん、相手を見た目で侮るからだ。さあて……ん?」


 現実を思い知らしめてやった子供たちをどうしようか、と考えていると、とたとたとた、と酷く軽い足音がこちらに向かってくるのが聞こえた。


 子供……それも、目の前の連中よりさらに小さな子供たちだ。小学校低学年の子供が四人、五人……六人?


「おにいちゃん!」


「や、やめて、おにいちゃん達に酷い事しないで!」


「あ、いや、それは……」


 倒れている少年たちに駆け寄り、彼らをかばうように私の前に立ちはだかる小さな子供たち。


 予想はしていたが、こんなにいたのか。ちょっと見積もりが甘かったか。


 しかし……純粋無垢な瞳でまっすぐな敵意を向けられるのは……ちょっと応えるな。辛い。


「ああ……君たち。別に、私は彼らを傷つけようとした訳じゃなくてだな……」


「嘘だ!」


「わるもの!」


 ううん。どうやらこの状況から言葉で言いくるめるのは難しそうだ。


 しかし問題はない。この事を考えて用意したものがある。


「まあまあ。それより、君たち。お腹がすいてないかい?」


 私はそういって、手にした配給のお盆を彼らに差し出した。途端、きゅぅうう、と腹の音が響き渡った。


 もちろん私ではない。


 私の前に立ちはだかる女の子が、顔を真っ赤にして顔を押さえた。


「ええと……」


「広場でもらった配給だから、別に毒とかは入ってないよ。どう? 食べる?」


 ぐい、とお盆を前に差し出す。立ちはだかる女の子の視線は、もうその上に載っている芋のシチューに釘付けだった。






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