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TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い  作者: SIS
復讐の前震

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『まあ、よくある話なんだろうな』



「僕はさ、いわゆる戦災孤児なんだ。連中の侵略初期に、家族とは生き別れになった」


 二人並んで車庫の壁に寄りかかり、毛布を被る。


 月や星の明かりも届かない車庫の中で、北川君の語りだけが静かに響いた。


「正直、両親の顔とかもよく覚えてない。バスで避難中に、攻撃を受けてそれっきりだ。生きていてくれてるといいけど」


「ふうーん……」


 連中の攻撃によって、民間の避難が本格化したのは4年、長く見て6年ぐらい前の事だと思うが、彼の口ぶりはそれよりずっと前のように聞こえる。もしかして、都心部での攻撃に巻き込まれた、最初期の難民なのだろうか。


 主要都市に対する戦略兵器による攻撃。情報不足もあって、その時の混乱はすさまじいものだったという。その時に家族とはぐれてしまったのなら、まあそういう事もあり得るか。


「じゃあ、それからずっと孤児院に?」


「それがね。その時、一緒に逃げてくれた男の人と女の人が、僕と他の子供たちを、養子として迎え入れてくれたんだ。だから、孤児院にはいかなくて済んだし、新しい家族ともうまくやっていけたから、たぶん、今の世の中だと、たぶん相当幸運なほうだと思う。幸せ者さ」


「なのになんで兵隊に?」


 今まさに滅びの瀬戸際に立たされている人類だが、かつての世界大戦のような強制的な徴兵は行われていない。というか、できない。


 戦争は高度化し、かつてのように体力があって銃が撃てて命令に従えればよし、という戦いではなくなっている。最新兵器の制御や、特殊作戦への従事能力、高い自己判断力、そういったものがなければむしろ味方の足を引っ張る、邪魔でしかない。優秀な兵士は1の力を100にも1000にもでき、愚昧な兵士は1どころか0にもマイナスにもなる。それが今の戦争だ。


 だからすくなくとも、自分から志願しない限りは兵士にならないはずである。


「……養父さんは、避難の時の襲撃で足に大けがをして、後遺症で歩くのも大変で。養母さんは、やっぱり女性だからできる仕事にも限度があって。他の兄弟の事もあって、手当目当てで兵士になったんです。それなら、ある程度の期間、頑張れば家族を楽させてやれるので」


「無謀な考えですね。それで死んだら元も子もないです」


「はは、そうだね。全く君の言う通りだ」


 本末転倒にもほどがある、と私が突っ込むと、流石にそれは自覚があったのか、隣で北川君が苦笑する気配があった。


 まあ、何に命をかけるかなんて、本人にしか決められない事だ。ほかならぬ私に、彼を非難する権利はないか。


 それで話は終わりか、と思ったが、どうにも続きがあるらしい。


 沈黙が続く中、彼の言葉の続きを待つ。


「……もう一つ、理由があるんです。きっと笑われてしまうような、しょうもない理由が」


「ほほう」


「僕が小さな頃の避難の時。生き残った人達を助けるために、自ら囮になった人がいたそうです。彼は、きっと自分は助からない事をわかって、それでも自分にしかできない事だから、と自ら侵略者の前に飛び出していったそうです。結局その人は帰ってこれなかった……けど、彼は間違いなく英雄でした。変ですね、名前も知らないし、本当はその人が何を考えていたのかもわからないのに、あの人みたいに、兵士になれば見知らぬ誰かを助けられるかも、と思ったんです」


 なんかどっかで聞いたことがある話だな。


 まあ年代が合わないから、たぶんどこかで誰かが似たような事をしたんだろう。


 別に私は、そんな英雄的行為をしたつもりはない。あの場所では、私が貧乏くじを引くのが一番ましだった、というだけで、きっと似たような判断をした人間は、何百人といるだろう。彼の言う、名前の無い英雄の犠牲の積み重ねで、かろうじて人類は生き延びているのだ。


「思った以上に馬鹿みたいな理由ですね。それで戦場に出てきて身の程を知ったと。救いようがないのでは?」


「はははは……」


「まあでも、私は笑いませんよ」


 暗闇の中、互いの顔は見えない。だから私は、誠意の限りを言葉に込めようと、言葉を選んだ。


「どう生きて、どう死ぬか。何の為に生きるのか、何の為に死ぬのか。それを選ぶ権利は自分自身にある。他の誰にも、否定させないし、してはいけない」


「葛葉ちゃん……?」


「北川お兄ちゃんは、自分の生き方を自分で決めた。それは、尊ばれる事だと思いますよ」


 なんだか気恥ずかしくなって、私は毛布の中で背中を向けた。背後でくすり、と笑って、北川君はもぞもぞ、と毛布の中でたたずまいを直した。


 それからすぐに、彼の気配が小さくなっていく。耳を澄ませると、寝息が微かに聞こえてきた。


 必要な時にすぐに眠れるのも、兵士の才能とは言うが。


 そういう意味では、及第点のようだ。


 私もそろそろ眠ろうと目を閉じる。


「……そう。そうよ。他の誰にも、奪われてはいけない」


 だけど、瞼の裏にちらつくのは、その最後の権利すら奪われた我が子の姿で。


 どうにも、すぐには眠れそうにはなかった。




 翌朝、早朝。


 ぴりっとした痺れで私は眠りの淵から目を覚ました。


 隣では、北川君がすやすやと眠りこけている。彼を起こさないようにそっと毛布から抜け出し、ペンを失敬して床に書置きを残す。


「またね」


 眠りこけている彼に一度だけ挨拶をして、シャッターの隙間から外へ這い出した。


 まだ太陽が顔を出す前の早朝の廃墟。かすかに青みがかりつつある東の空を見上げ、私は冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


「さて」


 手近なマンホールに近づくと、ひとりでにゴトゴト、と動き始めた。


 マンホールのふたを押しのけて、何やら太い髭のようなものがのたうっている。ひくひく震えるそれを、私はよしよし、と撫でさすってあげた。


 微妙に帯電しててぱちぱちする。さっき私を起こしたのは、この子のピンポイント電撃である。見た目によらず器用な子なのだ。


「うんうん、独りでちゃんとお留守番できたね、偉いねー。すごいぞー」


 うりゃうりゃ、と繊細な感覚器官を撫でまわす。


「それで悪いんだけど、ちょっとママ、やりたい事ができちゃったんだけどさー。少し、付き合ってもらえないかな……いい? ありがと、愛してる!」


 付き合いのよい息子に感激してちゅ、と髭にキスを落とす。ぴぃん、と真っすぐに硬直した髭が、続けてくるくると私の腰に巻き付くとそのまま宙に持ち上げた。


「あ、こらこら。興奮しすぎだって」


 そして、私はマンホールの中に、するすると吸い込まれていく。


 小さい体は便利だね。こういう時にひっかからなくて。




◆◆




 北川が目を覚ますと、隣で眠っていたはずの少女の姿は無かった。


 代わりに床に書置きが一つ。


『ご飯ありがとうございました。危なくなったら、これを吹いて』


 妙に堅苦しい文筆で書き残された、お礼の言葉と謎のメッセージ。傍らには、かつてはどこにでもあったであろう小さな警笛が転がされている。


「……座敷童のような子だったな」


 本来ならあんな小さな子供が怪物の縄張りに住んでいるのだ、心配してしかるべきだが、北川はむしろどこか納得すら抱いて笛を拾い上げた。


 なんとなく、彼女は人の傍に長居しない、そんな気はしていたのだ。


 それにしても、危なくなったら笛を吹け、とはどういう事なのだろう。


「まあ、有難く頂いておくか」


 首を傾げながらも、北川は懐に笛を仕舞いこむと、出発の準備を始めた。




 早朝の薄闇の中を、部隊との合流地点へと急ぐ。


 到着した先では、同じように散開して逃げた仲間達の多くが、すでに集まっているようだった。


 大きなビルの陰で、互いの無事を喜び合う。


「北川! 無事だったか、お前が一番トロイんで心配してたぜ!」


「悪い悪い、それより水守、日村、お前達も無事だったか、よかった! もしかして全員無事か?」


「……いや、森と小金井の奴らがやられた。あと遅れているのが他に3人。多分、こいつらも……」


 再会を喜ぶ互いの笑顔がたちまち曇る。


 だが、すぐに彼らは気持ちを切り替えた。それが出来なければ、戦う事も生き延びる事も出来ない。


「わかった。奴らの分も、侵略者に思い知らせてやろう。隊長はどちらに?」


「こっちだ。他の部隊との連絡を行っている」


 案内された先では、機材を広げて簡易的な通信拠点を構築した中心で、髭面の中年が通信機にひっきりなしに指示を飛ばしていた。


 今回の攻撃作戦の行動隊長でもある、部隊長だ。


「中村軍曹、北川純一郎二等兵、原隊にただいま復帰しました!」


「ああ、そういう事で、ちょっと待ってくれ……。うむ、よく戻った、北川二等兵。しばし待機していてくれ」


「はっ!」


 忙しそうな部隊長から早々に離れ、同僚に状況を確認する。


「予定に変更はないんだな?」


「ああ。“信仰者”の拠点を、三方向から三部隊でそれぞれ攻撃する。ほかの部隊は警戒網に引っ掛かってない、準備は万端だ」


「……だとしても、敵にこちらの動きがバレている可能性が高いんじゃないか? 作戦を考え直した方が」


 北川も、作戦に不安を覚える。死ぬのは覚悟しているが、無駄死には勘弁だ。


「そうはいうが、今回の作戦は敵戦力の漸減作戦でもある。近年、クロノス・オーダーの拠点が立て続けに攻略された事を受けて、アイドール・オーダーの戦力が集中してきている。これだけの戦力が侵攻を開始したら、防衛戦力だけでは防ぎきれない。先制攻撃が必要だ」


「それはわかっているんだけど……」


 理屈は理解しているが、敵が待ち伏せしている可能性が高い中で作戦を強行するのはいささか無謀なようにも思える。


 気乗りしない北川に、同僚は軽くぽんぽんと肩を叩いた。


「なぁに、他の部隊が見つかってない以上、敵はこちらの戦力を把握していないはずだ。逆に、俺たちが囮になって一泡吹かせてやろうぜ。いつまでもやられっぱなしって訳にはいかないだろ」


「それは……そうだな」


「よぉし、その意気だ!」


 わずかな不安を飲み込んで、北川は腕時計に視線を戻した。


 作戦開始時刻まで、あと数時間だ。それで、近隣の趨勢、その全てが決まる事になる。


「どうせ戦うなら、勝って帰りたいよな。葛葉ちゃん。そうだろう?」




◆◆

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