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TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い  作者: SIS
『空白の席の主』

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119/123

『ちょちょいのちょいっと……ってね!』



『ようこそいらっしゃいました、ビッグママ! 我々は貴方を歓迎します!』


 海洋惑星ティターニアの軌道上に存在する宇宙ステーション。惑星を守る最終防衛ラインも兼ねているこの施設に、私は賓客として招かれていた。


 精いっぱいのおしゃれをした私を迎え入れるのは、ずらりとならんだ水槽とそれを運ぶキャタピラである。水槽の中には、でっかいホヤとしか言いようのない生き物が浮かんでいて、ちゃぷちゃぷ水に揺れている。キャタピラの脇から生えたロボットアームが、歓迎の意を示すように腕を広げた。


『我々ミストルティン一同、貴方がいらっしゃるのを索を長くしてお待ちしておりました!! おっと、申し遅れました、私、今回ミストルティン代表を務めさせていただいております、EV1932と申します、以後お見知りおきを!』


「う、うむ。葛葉零士だ。こっちは我が子のアース」


『ピピルピ』


 のすのす前に歩いて出ていくアースの横に、私はちょこちょこついていく。いや、その、情けないが流石に気が引けるというか……。


 アースのしっぽを握りしめているのはちょっと心細いからだ、怖いわけじゃないぞ!


「こちらこそ、よろしく……。と、ところで、貴方達は普通に日本語しゃべれるんですね」


『ええ、私達の意思はこの機械を通して発信されています。日本語も当然習得済みです、何せビッグママの故郷の言語ですからね! 当然ですとも!!』


 何やら揉み手みたいな仕草で『へへへへ……』とでも言いたげな異様に低姿勢のEV1932さん。何か、間違った日本文化を学習してないだろうか……。


 ちなみに、彼らのフレンドの姿はここにはない。まあ意思疎通に問題はないという事で、後ろに控えさせているのだろう。


 あの子達、自由だからな……。


『あ、それとですね、私たちの名前がアルファベットとナンバーなのは、別にサイバーパンクってわけではないのです。私達、増えるときは大量の卵で一気に増えますので、親が子に名付ける習慣がないっていうか、誰が誰の子なのかわからないんですよね。なので、ナンバーで基本管理しているのです、はい』


「な、なるほど……」


『もちろん、皆様のいう家族、という概念は当然理解しておりますとも! とはいえ、何か無神経な事を言ってしまう事もあるかもしれません、それに関してはどうかお目こぼしを』


 いやまあ、そりゃそうだよな。生態的には海洋生物のそれと類似しているっていうか、本体が物理的に動けない以上、海中に卵やら精子やらを放出してそれで受精するって事になるもんな……。


 しかし見た目以上にホヤやってんな。地球のホヤも、何かの手違いがあれば彼らと同じようになっていたのかもしれないな。


 その場合は確実に私達みたいなホモサピエンスはいなかっただろうが。


『それでは、立ち話もなんですので、こちらにどうぞ』


「ど、どうも……」


 キュラキュラと音を立てて先導する動く水槽について歩く。ちなみに、こっちに船のスタッフさんはついてこない。何匹か船のフレンドが理由をつけてついて来ようとしたけど、相棒さんに抱えられて撤収させられていた。手足じたばたさせてるの可愛いね。


 という訳で、ついてくるのはトオル君だけである。


 よろしくね、この旅の間の専属コックさん!


「い、いや、流石に身に余るっていうか……え、本気です?」


『ミルルミルル』


 もちろん本気だとも。


 言っておくが、私への侮辱は許してもトオル君へのそれは許さないからな?


 幸い、ミストルティンの皆さんはちょっといぶかしむ様子こそあったものの、トオル君の同行にはなにも言わなかった。二人と二匹で彼らの後に続いてステーション内を歩く。


『しかし、こうして貴方をお迎えできたこと、我々にとってはとても光栄な事です。一度、どうしても直接お会いして感謝を述べたかった。我々の星を救ってくださり、ありがとうございます』


「い、いえいえ。あんまり、綺麗になってなくてすみません……』


『とんでもない!!!』


 そこでキャタピラが停止、からのいきなり反転。水槽がドアップでにじり寄ってきて思わず顔を引く。


『貴方様の分身、マザーツリーがなければ、今もティターニアはどす黒いヘドロの海のままだったでしょう! 全く侵略宇宙人の連中、汚す事と壊す事に関しては宇宙一なんですから! ティターニアの海を汚染するのに一体どれだけの汚染物質を注ぎ込んだのか! 考えただけで頭痛がしてきます!!』


「あー、うん。それは大いに同意。やばいよね奴ら」


 そもそもどんだけ船に汚染物質抱えているっていうんだって話だ。奴らが地球上に作ったプラントも、公害もびっくりな汚染物質を垂れ流しにしてたし、まともな工業とはいいがたい。


 あんなもん、汚染する方が主目的で生産物は二の次だろ、マジで。


「まあ、うん。そこまで大したことしてないし……ぶっちゃけ、フレンドやマザーツリーの元になったフレンドシップのテクノロジーがすげーだけだから……いやなんであれをあんな使い方してたんだろうな連中」


『おっしゃる通り。全く理解に苦しみますな』


 水槽が前後に頷き、ざぶんさぶんと水面が揺れる。中で本体がぶるぶると震えていた。


『我々自身は人類の船に乗せて頂きなんとかなりましたが、母星の事はあきらめておりました。それがまさか、ここまで環境が回復し、海産物の出荷までこぎつけられるとは。全てはマザーツリーのおかげでございます。そしてそれをコントロールしていただいた、貴方のおかげでございます。我らミストルティン一同、感謝の念があふれんばかりです』


「あー、いや、気にしなくていいよ。それにそういう事なら、ちょっと今後は気合いれて浄化するから」


『気合?』


 うむ、と水槽に頷き返し、私はステーションの窓から星を見下ろした。


 空港のエントランスみたいになっているステーションからは、窓を通してティターニアがよく見える。その表面に点々と存在する浄化領域……まあつまりはマザーツリーの生えている場所であるのだが、そこに向けて私は手を伸ばし、ぐっと拳を握りしめた。


「ふぅんむ」


 マザーツリーとのアクセス確立。


 演算領域、リソースを追加。


 惑星環境浄化ログを確認、最適な浄化プランを再設定、再調整。


 積極的惑星浄化開始。


「とまあ、こんな感じで」


 調整が終わり、私は手をぱんぱん、と叩きながらEV1932さんに向き直った。


『え? あの……?』


『……だ、代表!? 今、惑星上の浄化監視班から報告が! マザーツリーが急に青く光ったかと思うと、これまでの数十……否、数百倍の勢いで海域の浄化を開始したと!』


『どんどん枝葉が伸びて領域が拡大していってます!! こ、これは……』


 どうやら彼らも変化に気が付いたらしい。


「ま、これであと数年……は無理か。数十年あれば元通りに戻ると思うよ。あのペースだったら数百年かかりそうだったからね」


 今や、衛星軌道上からもはっきりと見えるぐらい、マザーツリーの銀色の枝葉が生い茂っているのが見える。それに伴い、海域を覆い始める銀色のさざ波。大量に発生した銀シャリ麦である。あれらは完全食品であると同時に、惑星浄化の端末でもある。マザーツリーの根というか菌糸というか、そういう感じのものが有害な有機物や化学物質を完全に分解し、無害化した上で構築される有機物構造体、それが銀シャリ麦だ。地球とティターニアでは目指す環境も汚染状況も大幅に違うから、構造もちょっと違うので、もしかすると味も変わるかも?


 ふふふ、トオル君に後で料理してもらおうっと。


 希望にあふれた未来絵図を描いていた私だったが、当のトオル君は何やら、頭を抱えて唸っていた。え、なんで?


「どしたん?」


「いや、どしたんって、葛葉さん。これは……不味いよ……」


「不味い???」


 え、何か悪い事した?


 ぼけっとしていると、突然、私を取り囲んでいた水槽が一斉に前に倒れた。


 がしゃん、バシャン! と音を立てて、ガラスに皹が入り、なんなら水が流れ出している者までいる。しかし彼らはそれに何一つ構うことなく、水槽の中でべちんべちんと壁に本体を打ち据えた。


『ビッグママ……否、葛葉様……! いえ、お母さま!!! 貴方は、我々の救世主です!!!』


「え」


『この御恩、どのようにしてお返しすればいいのか! いかなる要求であっても、ご要望あれば、我らの身命にかけても必ずや、お返しいたします!!!』


 なんていうか、声色が電子音声である事を差し引いてもガチだった。


 もし、ホヤみたいにして食べたいー、とかいったらノータイムで自らを解体し始めそうな狂気すら感じる。


 はわわわわ、と蒼くなって身を引く私の後ろで、なぜかトオル君が深いため息をついているのを感じた。


「はぁー……だから言わんこっちゃない」


「え、いや、だって、必要だろうって……なんでぇ!?」


 涙目で振り返っても、トオル君はやれやれと首を振るばかりである。なんでぇ!?


『ピルルルルゥ』


『ミルミル……』


 そしてフレンド二人は、私の困惑に我関せず、仲良さそうに遊んでいるだけだった。


 ちょっとは助けてぇー!?








「葛葉さん、おとなしくしてますかねえ」


「はははは、彼女だって中身は立派な大人さ、そんな子供みたいな……え、超空間通信? 何かあったのか?」


「侵略宇宙人の襲撃でしょうか?」


 慌てて通信に出る艦長と美鶴さん。


 なお、二人の胃薬の使用量が増えたのはその少し後の事である。






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