『これを作った奴の顔が見たいわ!』
さて、ナチュラリスト、そしてア・ラクチャ・ルゥと面談を果たした私ではあるが、宇宙連合には実に12もの種族が所属している。私が対面したのはそのうちまだ3種族にすぎず、まだまだ9もの種族が面談を待ち望んでいるという。
いや、まあ。
正直、楽しみではあるよ? なんせ宇宙人だ。人類の地球外生命体とのファーストコンタクトはまあロクでもねー事になったが、しかしそれはそれとして未知の知的生命体、友好的な宇宙の友達との対面はやっぱり浪漫がある。人差し指と人差し指を突き合わせて、僕達、友達! マイフレンド! は人類の永遠の憧れだ。
私も一応人間の端くれとして、そういうのは大いに好きである。
まあ、私みたいなチンチクリンにそんなに会いたいもんかね? というのが正直なところだが……。まあ、私が守護していた人類が彼らの救済に一役買ったという話だし、挨拶しておきたい、ってのは分かる。
わかる、が。
残念ながら私の体は一つしかない。ついでにいうと、政治の都合もあって、そうポンポン会えるものでもないらしい。色々大変だね。
そんなこんなで、ドック入りしたアマノトリフネの自室でのんびりだらだら過ごしていた私なのであった。
「うべー」
『ピル……ピル……ピルゥ……』
今日も今日とて、アースに抱きかかえられて、ベッドの上で強制お昼寝中である。こないだの事があって、アースは寝ている間、私をがっちりホールドする癖がついてしまい、抜け出そうにも抜け出せない。時々ちょっとこう、お花摘みに行きたくなった時とかマジでデンジャラスである。ぺちぺちぺちぺち必死に叩いてアースを起こして解放してもらったのは記憶に新しい。いや本当に駄目だったら諦めて分解吸収するんだけどね? それやったらホラ、人間じゃないので……(宇宙船を燃やしておいてまだ人間のつもりらしい)。
まあトイレから出てくると再びがっちりアースに捕縛されてしまうのだが。
いや、黙って抜け出して戻ってこなかったのは悪かったけどさ。だからってこれまで以上にべったりされても困るんだが……。
ついでにいうとあの一件で、上位権限でアースの認識にフィルタリングかけてる事についてどうも疑いを持たれてしまった節がある。おかげで迂闊に悪夢も見れない。どうしたもんだか……。
一応、寝てる間、電源を落とすみたいに意識を落とせば夢も何も見ないんだが、これってあまり人間らしくないと思うんだよな。寝苦しくてうーんうーん言ってたり、眠いのに寝れないー、とかうだうだやってるのも人間らしさだと思うので……。
それはともかく。
いい加減、そろそろ起きないとよろしくない、こう、人間的に。
「アース、アース。そろそろ起きなさい。お昼が近いって。こら」
『ピィ……ピィ……』
流石にこう毎日お昼前まで自堕落なのはよくないって。朝ごはん食べたら再びベッドにゴーとかどこの自堕落大学生だ。
ゆっさゆさ我が子を揺さぶって起こしにかかるがびくともしない。鼻提灯が出ていないのが不思議なくらいの爆睡っぷりだ。いやしかし、どんな夢見てるんだろうな。幸せの国でお兄ちゃん達に遊んでもらっているのだろうか。
そうだったら起こすのも悪い気がするが、それはそれ、これはこれ。
なんとか腕から脱出しようとするが、残念ながら数十回目にもなる挑戦は失敗に終わった。
「うううーん……ん?」
悪戦苦闘していると、ふいに香しい香りが鼻を擽って私は顔を上げた。
おや、この匂いは……?
「(コンコン)葛葉様、失礼します。お昼食をお持ちしました、お食べになられますか?」
「食べますー! あ、それと、その身動き取れないので、そのまま入ってきてください、申し訳ない」
「了解しました」
ドアの向こうから、船のスタッフさんが台車を押して部屋に入ってくる。台車の上には銀色のなんかこう、丸い覆いが被せてあって、その下からでもはっきりとわかるスパイシーな香り。
カレー? いや、なんかちょっと違う気がする。
鼻をすんすんさせていると、スタッフさんは私の姿を見て、ちょっとした苦笑いを浮かべたようだった。
「……毎日大変ですね」
「そうなんだよー。コイツ、一度寝たら最近梃子でも離してくれないし、おまけに寝坊助なんだよぅー。ねね、ちょっと引きはがすの手伝ってくれない?」
「今度こそ船が消し飛びそうなので、それはちょっと……」
苦笑いするスタッフさんの肩には、毛玉みたいなフレンドがちょこんと乗っている。緑色の毛をわさわささせる中にビー玉みたいな瞳をキラキラさせて、その子はパートナーにぼそぼそと耳打ちした。
「心配しなくても、匂いで起きるって、だそうです。あ、ほら」
『ピリルルル……?』
スタッフさんの言葉通り、さっきまで爆睡していたアースが鼻の孔をぴくぴくさせてのっそりと首をもたげた。そのまま周囲を見渡して、台車の上にのっているトレーを確認して動きを止める。
『ピルゥ!』
「お、おう。今日はなんか、偉い食いつきがいいな……」
途端、私を抱えたままベッドから飛び降りて、いそいそとお昼ご飯の匂いを嗅ぎに行く。覆いの上からしきりにすんすん鼻を鳴らす我が子に、私も少し困惑。いつもはこんなに良い反応しないんだが……。
首を傾げる私に、スタッフさんはくすり、と小さく微笑んだ。
「成程、違いが分かる、という奴なのですね。まあ、葛葉さんも食べればわかりますよ」
「ほうほう? では、早速……おぉ!」
意味深なコメントに訝しみながらも、覆いをのけて中身を確認する……と、どけた途端に鮮烈な香りが嗅覚に飛び込んできた。
「これは……ドライカレー……じゃないな。なんだこれ?」
皿の上に載っていたのは、油分に艶めかしく光る銀シャリ麦の山。脱穀された穀物はテカテカと食欲を誘う褐色に色づいており、細かくサイコロ状に刻んだ肉やニンジンや玉ねぎのフレークが混ぜられている。香りは間違いなくスパイシーなカレーのそれだが、見た目はどちらかというとチャーハンのよう……。
先生、これは一体?!
「なんでも、いうなればカレーチャーハン、だそうです。ふふ、どうぞ、お召し上がりください……あっ」
不意に声を上げて、スタッフが慌てて肩のフレンドを手で隠す。
なんぞ、と思ったら、スタッフさんの肩……フレンドの座ってる辺りが、なんだか濡れて黒く変色している。
おもらし……じゃないな。ああ、これは。
涎か。
はは、なんとなくキティを思い出すなあ、ふふ。
「……食べる?」
『…………!!』
スプーンでひとさじ掬って差し出すと、緑色の毛玉がはっきりとわかるほど毛を逆立てた。私がスプーンを近づけると、毛玉が縦にぱっくりと割れるようにして口を開き、一口でぺろり、と平らげてしまう。
『! !!! !』
「美味しい? そう、ならよかった」
「す、すいません、葛葉さん。うちの相棒が失礼を……」
スタッフさんが慌てて相棒を両手ですくいあげるようにして私から遠ざける。手の中で、毛玉が「もっと食べたい! 食べたい!!」とでも言う風にじたばたしていたが、うーん、ごめんね。これ以上はスタッフさんに逆に迷惑だから。
「そ、その、私はこれで失礼しますね。どうぞごゆっくり」
そして慌てて部屋を出ていくスタッフ。最後まで毛玉君は抵抗していたが……後でたっぷり怒られるだろうなあ、あれ。
ばたん、と閉じる扉を見送って、私もカレーチャーハンをひとすくい。
ちなみに、アースは隣で自分の分を秒で食べ終えていた。皿をひっくり返すようにして一口でぺろり。今はもっちゃもちゃ口の中で余韻を楽しんでいるようだ。
「じゃあ、私も、一口……」
はむ。
……お、おお! これは……口にした瞬間、鼻腔を突き抜ける鮮烈なまでの香り、舌を刺激する辛さ! だけどそれは一瞬で、後に深い旨味が続く。ただ辛いだけではなくしっかりと複数の素材を炒める事で味わい深い旨味を引き出している! そしてオイルに塗れた銀シャリ麦はカリカリふわふわ、一粒一粒が際立った状態のパラパラ! それでいて脂っこくくどくない……。
ジャンクな感じがありながらも手間暇かけた仕込みが際立つ一品。決して、カレーチャーハンの素をパラパラ振りかけただけではない、これはまさにプロの技……っ。それも、一般市民の味に通じた……これまでのお上品極まる料理とは方向性が違う。
そ、そうか、閃いた!
「このお昼を作ったのは、誰だーー!! シェフに会わせてもらおう!!」
『ピピルゥー!』
一度言ってみたかったセリフを叫びながら、私とアースは空になったお皿を抱えて飛び出した。




