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TSさせられてエイリアン生まされたけど我が子は可愛い  作者: SIS
『空白の席の主』

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112/123

『傷はいつか癒えると、誰が言ったのか』



 気が付くと、私はガラスケースの檻に閉じ込められていた。


 ガラスの外は真っ黒で、何も見えない。


 見下ろすと、身に着けているのは血の染み付いた白い貫頭衣。ずきん、と忌まわしい記憶に、頭が痛んだ。


「……アース? ルー? どこにいるの?」


 思わず、愛し子の名を呼ぶが、当然ながら返事は無い。


 頭痛が酷くなる。


「ウルスラ?」


『みぃ』


 次男の名を呼ぶと、暗闇の向こうから返事があった。


 ぱっと、闇の中が明るくなる。私の閉じ込められたガラスケースのすぐ隣に、もう一つのガラスケースがあった。


 その中に、可愛い小さな私の子供が、血塗れで倒れていた。


 対面には、粘土をこねて作ったような、出来損ないの人型の姿。その両腕は大きく肥大化して棍棒のようで、べったりと紫の返り血がこびりついていた。


 ウルスラの血。


「ウルスラ!!」


 悲鳴を上げてガラスケースの壁に取り付くも、頑丈なそれは私の力ではビクともしない。


 私の呼び声にウルスラが小さく顔をあげ、みぃ、と返事をした直後、怪物の腕がその小さな体を殴りつけた。バウンドして転がっていき、壁にぶつかってずり落ちるウルスラの小さな体。


「やめて……やめて!! やめてぇ!!」


 悲鳴を上げながら何度も何度もガラスケースの壁を叩く。骨が軋み、皮が裂け、肉が砕けて血が噴き出しても、何度も何度も、全力で。


 私の血で赤く染まっていく壁の向こうで、一方的な暴力が振るわれる。


 やがて骨も折れ、甲殻も砕け、半死の状態のウルスラの体が、私の目の前に転がってきた。


「ウルスラ……ウルスラ……!」


『みぃ……』


 泣き叫ぶ私の声に反応して、小さな我が子がゆっくりと顔を上げる。顔を半分潰され、片目になった我が子の瞳が、私を見て焦点が揃った。


『みぃ(わあ、ママだぁ)』


 幸せそうに、頬を緩めて笑う声。


 直後、真上から振り下ろされた鉄槌が、その頭を粉微塵に砕いた。


 べしゃり、とガラスケースの壁に、紫色の血と肉片が降り注ぐ。


「あ……いや……いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 喉も裂けよと言わんばかりに、悲鳴が私の喉から迸った。


 血で染まった壁に頭を打ち付けて慟哭する。


 そうする間に、ガラスケースの外は真っ暗に戻っていた。気が付けば、透明な壁を汚していた真っ赤な血の跡も綺麗に消えて、私の怪我も消えている。


 背後で、どしん、と音がした。


「え……」


 振り返ると、再びガラスケースの外に、もう一つの檻。


 そこでは、ピンクの毛でおおわれた私の子供と、得体のしれない肉と骨を混ぜ合わせたような怪物が戦っている所だった。


「ミニモ!!」


 吹き飛ばされた我が子が壁に叩きつけられ、透明な壁に罅が入る。ぼてっと床に落ちたミニモに、私は壁にしがみつくように呼びかける。


「ミニモ! ミニモ!! しっかりして!!」


『ぐる……』


 ふらふらと起き上がった可愛い我が子が、ちらり、と私を見る。その丸い瞳が、微笑んだように細められた。


『ぐるる(バイバイ、ママ)』


 直後。


 その体が、風船のように膨らんだ。毛皮の間から、光が噴き出す。


 そして……爆発。


 ダイナマイト数トン分、というとてつもない爆発がガラスケースの中で膨れ上がり、戦っていた怪物を一瞬で焼き尽くす。その高熱と圧力で、メキメキとガラスケースが変形していく。それは、隣接する私のケースだって例外ではない。


 大きく歪んだガラスの壁がひしゃげ、そして……。


 砕ける直前で、持ち直した。


 まるで時間を巻き戻すように、ガラス壁が再生していく。罅割れが繋がり、くすんでいた壁が透明さを取り戻す。


 数十秒後には、まるで何もなかったように、ガラスの檻は元通り。


 ただ。あの子が確かに存在していた証として、床の染みと焦げ付きだけを残して。


「あ……ああ……あああああ………」


 無駄死に。


 それを見せつけるような光景に、私は涙を流して、透明な壁をずるずると這い落ちる。


「ミニモ……ああ、ミニモ……ああああ……私の、可愛い、ミニモ……」


 泣いても叫んでも、現実は変わらない。


 あの子の死は、覆らない。


 再び世界が闇に覆われる。


 と。


 唐突に、世界が明るく照らされた。


「あ……」


 気が付けば、私が立っているのはガラスケースの檻ではない。一度も歩いた事の無い研究所の廊下。顔を見上げると、その先で宇宙人の兵士と、黒い甲殻獣が争っているのが見えた。


 ケラト。


『ギルルルァアアア!!』


 荒れ狂うケラトが、その角を赤熱化させながら兵士達を薙ぎ払う。灼熱の角の一撃を受けた兵士達は、超高熱によって一瞬で燃え上がり、空中で砕けた灰になっていく。


 だがケラトも無事ではない。甲殻のあちこちが貫かれ、夥しく血を流している。それでも血走った瞳の戦意は微塵も衰えず、彼は壁に向けて突撃すると角で隔壁を容易く突き破った。


 その先から、まばゆい光。


 壁の向こうは、何やら重要そうな区画が広がっていた。巨大なリング状の構造体が幾重にも重なってぐるぐる回り、その内部で膨大な電力がプラズマとして生成されているのが見て取れた。


 知っている。見た事はないが、恐らくあれは、宇宙人の動力施設。リアクター。


 その激しく瞬く雷球に、ケラトがよろよろとおぼつかない足取りで向かっていく。脚を引きずり、血を流しながら、躊躇う事なく。


「や……やめて……ケラトやめて!!」


 あの子がやろうとしている事に思い当たり、私は制止するために駆け出そうとした。だが、体はぴくりとも動かない。


 気が付けば、喉も引き攣って声がでない。


 絶望する私の目の前で、ケラトがついにリアクターの近くに辿り着く。


 我が子はそこで足を止め、小さく顔をあげると、天井を透かして空を見上げた。


『……ケルル(ママ、元気でね)』


 そして、放電するリアクターの内部に、我が身を投げ入れた。


 凄まじい閃光が生じ、一瞬でケラトの肉体が消滅する。暴走した膨大な電力が、制御リングを飛び越えて広がり、視界を真っ白に染め上げる。


 そして。


 気が付けば、また一面の闇。


 その中で、私は這いつくばって泣いていた。


「あ……あああ……ああぁぁああ……っ」


 ユルサナイ。


 ユルサナイ。


 許して、許してなるものか。私の子供たちを苦しめ、無残な最期を与えた侵略者ども。


 絶対に、絶対に。


「許さない……絶対に、許さない。どんな犠牲を払っても、どれだけ時間がかかっても、絶対に、お前達を殺しつくしてやる……!!」


 怨嗟の声を上げて顔を上げ、立ち上がる。


 そうだ、それが私の原風景。


 奴らは、何に代えても、一人残らず……。




 かつん、と足先が、何かを打った




「……え?」


 見下ろした先。足元に、無数の何かが転がっている。


 それは、ひび割れた甲殻であったり、砕け散った何かの破片であったり、降り積もる灰であった。


 間違えるはずがない。


 私が見間違えるはずがない。


 これは。


 私が、使い潰してきた、愛しい我が子達の……。




「あ。あ、ああ。ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」






 そして、私は自分の絶叫で目を覚ました。


「はあ……はあ……はあ……っ!」


 息を荒らげながら、まず最初に確認するのは一緒にベッドに寝ているアースの姿。


 銀色の竜は、私の叫びに反応した様子もなく、すやすやと穏やかに眠っていた。


 ……よかった。万が一に備えて“あっち”はこの子に繋いでいない。備えあれば憂いなし。


 この子は感覚を、その超次元視野に依存している。上位権限でフィルタリングしている限り、私の本心がこの子に伝わる事はない。


 僅かな罪悪感を覚えつつ、私はアースの頭を優しく撫でた。それに反応するように、尻尾の先がぴくぴく動いている。


「ふふ。……また、あの夢か」


 顔を押さえて溜息をつく。


 マザーツリーから分離して以降、数日おきぐらいに見る悪夢。ただ今回のは酷かった。この宇宙船の専用室、監視カメラもない完全な隔離空間というのがある種の油断になったのか。小金井さん家に居候していた頃は、クロボウズちゃんや小金井さんにバレないよう、気を張っていたしね。


「……ふう。結局、まだ折り合いがついていないのかな、私の中で」


 勿論、忘れたわけではない。あの子達は、幸せだったと言ってくれた。使い潰されただなんて思っていないと。


 だから、罪悪感なんて覚えなくて、いいと。


 だけど……。それでも、全て割り切れたわけではない。きっとまだまだ、飲み込むには時間がかかるのだろう。


 それが、一体いつになるのか。私にはわからなかった。


「喉乾いたな。水でも飲むか」


 枕元の呼び出しボタンに手を伸ばして、しかし引っ込める。


 ちょっと歩きたい気分だ。自分で取りに行こう。


 私はアースを起こさないように慎重にベッドから抜け出すと、ぺたぺた歩いて外に出た。




「コンビニも宇宙戦艦も24時間勤務の時代か」


 部屋の外は明るく照明が煌めいている。宇宙に昼も夜もなく、宇宙船は常に動いていた。勿論人員は交代制で。


 そんな生活してたら自律神経アホにならない? と思うが、永くやっていたら慣れるものなのかもしれない。


 人の気配はあまりない。私の住んでるあたりの区画はなんか人気がないようで、船員とすれ違う事もない。ぺたぺた足音を立てながら、給湯室を目指す。


「おっ」


 人のざわめきが聞こえてきて、角を曲がって顔を出す。


 途端に、何十人もの船員が、機械の間で右往左往しているのが見えた。


 何してるのかな。コンピューターみたいなものが一杯並んでるから、サーバー室? その割には涼しくないし、だいたいサーバー室がこんな廊下の先にある訳ないか。


 もしかして唯のオフィス? しかし、人間以外の種族も本当に色々いるなあ。宇宙空間だと例の水槽に入ってる人達、金魚鉢みたいなのに納まってるのか。あちらは蜥蜴人間っぽいのが、しょんぼりしながら怒られてるね、何かミスしたのかな。……なんか金色の金属塊みたいなのが飛んで行ったけど、あれも異種族なんだろうか。あっ、壁にぶつかって跳ね返った。なんかじたばたしてる。


 ぽへー、と眺めていると。近くから話す声が聞こえてきた。商談でもしながら歩いているのか、声は段々近づいてくる。


「それで、恒星の輝きの果ての如きお方とはいつ話が出来るのだ? 我々は宇宙の広がりを追いかけるほどに拙速ではないが、葉から滴る露にとって枯れ木の枝が落ちるのは短くはあるまい?」


「だーれが朝露の滴ってんですか、いいからちょっと待ってください。あんたらが今、ビッグママに顔を合わせるとクソヤバイ事になるんです。まだ彼女、宇宙の状況把握していないんですから。ここにアンタが居るのも十分それでヤバイの!!」


「それは理解している。星の輝きは朽ちる事はないが、暗黒の宇宙を瞬く間に満たす事はない。紅葉の隙間から見る日差しは永遠にして一瞬であろうが、それは遥か過去の輝きにすぎない」


「喧嘩うってんですかアンタ……? いや、うん、そのつもりはないんすよね、わかってるんですけど……」


 何だか言い争いながら、スタッフがこっちに歩いてくる。


 仲が悪いのか? しかし相手は変な言い回しするな。


 好奇心にまかせて、私はひょこり、と顔を出して彼らを見つけた。


 そして。


「ゲッ、ビッグママ、なんでここに!?」


「おお。聞きしに勝る、溶ける氷の滴を照らす輝きの如きお方……」


「言ってる場合か、ちょ、警備班!! 緊急事態コードC! 最悪の状況です!!」


 そこに居たのは、人間のスタッフと、ひょろりと背が高く、つるつるした青い肌を持った宇宙人だった。


 なんていうか、エルフとか、そういう感じの、人間離れした美貌の人。


 だけど私の目には、違う者が重なって見えた。




 遠い昔。


 フレンドシップと呼ばれた子供たちを、悪辣な兵器……神獣兵として送り出した、最初の愚者。


 不安そうに見上げる子供らを見下ろす、冷たい無感情な、傲慢な視線とそれは、酷くよく似ていて……。


 後継者。


 かつて、フレンドシップであった我が子を、修羅道に落とした罪人達。




「…………“後継者”ぁああ゙………!!!」


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