『因果応報は神すらも例外ではなく』
「わーい! ありがとうございます、総司令さん!!」
「い、いえいえ。これも、私達の御仕事ですね。……ただ、代わりといっては何ですが、こちらのお願いをいくつか、聞いていただく事はできますでしょうか? 貴女に直接お会いしたいという方が何人かいらっしゃいまして……」
「いいよ! それぐらいお安い御用です!!」
なんてやりとりがあったのが半日前。
今私は、船の人が用意してくれた洋服に袖を通し、来賓室っぽいところでアースと一緒に来客を待っていた。
来賓室、というかほぼ展望台だねこりゃ。全面ガラス張りで、宇宙の様子がよーく見える。ついでに宇宙船の表面もよーく見える。
分かっていたけど滅茶苦茶でっかい船である。宇宙人どもの乗っていた空飛ぶ都市みたいな船、あれより下手したらでっかいんじゃないか?
形状は割とシンプルみたいだが、このサイズで複雑な構造だったらそれこそ宇宙航行で問題がおきそうだしな、色々ぶつかってへし折れそう。地球のどこにこんなもん作る資源があったんだろ……いや、地球に限定する必要はないか。あの後の地球の技術力なら、とりあえず資源確保のために火星に採掘機飛ばしたりできそうだし。
そんでもって、次に絶景なのが宇宙の光景である。
『ピリルルル』
「うーん、綺麗だねぇ……」
真っ暗な宇宙空間に面していたら暗いのでは? と思ったら全くそんな事はなく、窓の外には輝かんばかりの大銀河が煌めいていて、直視すると目が潰れそうである。
太陽系は宇宙の中でも特に何もないヴォイドゾーンにひょっこり出来た銀河系、というのを聞いた事があったが、あれマジだったんだな、とひしひしと感じる。どーりで宇宙には知的生命体いっぱいいたのに、遠路はるばるコスパ度外視で異文明鏖ツアーやってるような連中しか地球に来ない訳だ。
渦巻く銀河は光の渦のようで、そこに無数の命が瞬いているのを感じる。あのどこかで、宇宙連合に所属した12種族の母星があったり、クソ侵略者どもとバチバチやってる連合艦隊が居たり、あるいはまったく関係ない現住生物がのんびり生きている訳だな。
くぅー、浪漫だねえ。
しかしそうなると、地球からどんだけ離れてるんだここ? よく跳んでこれたね、アース。
『ピルルルル!』
自慢げに胸を張る我が子の頭をわしわし撫でていると、トントン、と部屋の入口をノックする音がした。
「どうぞー」
「は、失礼します」
そう言って部屋に入ってきたのは、意外にも地球人のおじさんだった。浅黒い肌で、豊かな髭を蓄えているジェントルマン。いかにも出来るセールスマン、といった風体のおじさんが、私に向かって深々とお辞儀する。その背中には、翼の無いオオコウモリ、といった感じのフレンドがひっしと張り付いていて、肩越しに私をじぃっと見つめていた。
「私は葛葉財団から使いとして派遣されました、五十嵐、と申します。こちらは、私のフレンドであるミミッキィ。本日はお時間を割いていただき、大変感謝しております、ビッグマザー」
『チチッ』
「ん。葛葉です。こっちはアース、本日はどうも。……葛葉財団?」
私も慌てて席から立ち上がり頭を下げ返すが、聞き捨てならない言葉にぴくっと眉が跳ねてしまう。
いや、別に珍しい苗字ではないかもしれんが……財団? なんぞそれ?
「ご存知でないのも当然。財団は、葛葉様がマザーツリーになられた後に結成された財産管理団体ですので」
「??? 財産管理? あ、とりあえず席にどうぞ」
「これはどうも。失礼します」
なんぞそれ。
管理するような財産、わたしゃ持ち合わせておらんぞ? 何かの勘違いでは?
首を傾げる小娘に、五十嵐さんは機嫌を損ねる事無く、朗々とよく響く声で説明してくれた。
「私は伝聞でしか聞いていないのですが、宇宙人戦争時、人類軍のビークルに葛葉様のイラストを描くのが流行り、それに貴方様が苦言を申し出た、という事があったはずですよね」
「あ、ああ。吃驚したからよく覚えているよ」
なんせ物々しい雰囲気の前線基地に出向いたら、厳めしい軍用兵器に可愛らしいファンシー&ポップなデフォルメイラストが描かれまくっていたんだからな! びっくりしたわ。愕然もする。
ん?
そういえば、確かに、あの時兵士さんが何か言ってたな。
ほわんほわんくずのは~。
『そ、その……効果があるならイラスト使うのは構わないんですが、それはそれとして肖像権の侵害では……?』
『す、すいません……。おちついたらちゃんと著作権等整理しますので……』
……。
…………。
…………う、うん。確かに言ってたな、権利管理するって。
え、まさか……。
「著作権とか肖像権の権益で出来た財団ってことぉ!? え、真面目か!? あ、いや、財団!? どんだけ!?」
「そりゃあもう、宇宙人戦争においては下手な迷彩よりも葛葉様のイラストの方が効果あったという話ですし。地球を御救いになってからはもう一大ムーブメントで。葛葉様ご自身のお言葉がなかったら、暗黒利権と化しても不思議ではないほどの事になっておりましてね……いやはや、鶴の一声、いや、神の一声があって本当に助かったそうです」
そういって差し出される電子端末には、ここ数十年の主な私に関わる産業がびっしり。
宇宙人戦争のアニメ化、ドラマ化、ゲーム化、コミック化。私の細胞サンプルに関わる各種生化学産業の収益。
ぬいぐるみ、シール、教育番組、エトセトラエトセトラ……。
ま、まって、著作権とかって時間経過で消滅するんじゃないの!? うろ覚えだけど申請には当人が行う必要があって……あ!? そうか、私200年、マザーツリーになって生きてたから、代行というカタチで著作権とかの更新申請が出来たのか?!
そりゃそうだよな、法律は数百年生き続ける本人とか想定してないし(ちなみに著作権は当人の死亡70年で失効します。この場合死んでないので永続)!?
え、いや、でも、はぁ!?
「はぁ??? え??? ええ???」
『ピィルルルル!(ママ、お金持ちだ、すごーい)』
『チチッ、チチチ(間違いなく全宇宙で一番だよ、一番!)』
私、混乱の極み! そんな事になってたのぉ!?
「それで、流石にそれだけの規模になると管理も大変、という事で、収益を元に財団を作り、さらにその管理の過程で投資とか行っていたら、その、どんどん膨れ上がりまして……。まあ、葛葉様のお金、という時点で、ある種の付加価値が生じるといいますか……」
「孤児院とかに投資すればいいじゃん!? 私別にそんなつもりで発言した訳じゃないですよ!?」
「それはもう、葛葉様が孤児を気にかけていたという事で、孤児院への寄付は率先して。そうすると、孤児院で育った子供が大人になり、一角の人物になると、大量の寄付を財団に還してくる、という循環が生じまして。投資すれば投資するほどリターンが大きくなり続けた結果、今では宇宙でも随一の巨大組織となりまして……」
はぁ??????
何それふざけてるの? 100%成功する投資なんてこの世にあっていい訳が……?!
い、いや、それはこの際置いておこう。
問題は、これからどうするのか、という事で。
「そ、それで。その財団さんが、一体私に、何のご用事で……」
「それは勿論、全ての財産を持つべきお方に還す為の手続きに」
「え゛っ」
固まる私に、にこやかな笑顔で五十嵐さんは手帳っぽいものを出してきた。機械的にそれに目を通す私。
…………。
…………。
あの。私の目が可笑しくなったのかな。
金額の表示に、乗算って使うっけ?
「あ、あのこれ……?」
「ああ、申し訳ありません! 財団に勤務していた者達の身の振りなども考えなければならないので、即日解体とはいかず。本当に申し訳ない! これについては、後日、改めて清算を……」
「そうじゃなくて???」
え、何、この人達頭おかしいの?
いくらお金の持ち主が返ってきたからって即日組織解体資金化譲渡でおかしくない? 大体、あんな口約束に何の権利もないのでは?
「あ、あの、その、受け取れません。あんな口約束でそんな……だ、だいたい、これ、何です!? いくらあるんです!?」
「あ、ああ。西暦の金銭感覚だと、確かに困難ですね。まあ、一言でいうと、星を一つや二つ、住人ごと買い取れる、と言えばいいでしょうか……申し訳ない! いますぐ現金化できるのがその程度でして!」
「その程度???????」
あ、頭がおかしくなりそうだぁ!!? 何を言ってるのこの人!? コワイ、理解できなくて怖い!!
「い、いいですから! まじで! こんなお金受け取ってもどうにもならないです! なんだったらこれまでどおり、財団とやらで運用してください! まじで!! どうしてもっていうなら生活費ぐらい出してくれるだけでいいので!」
「え? そんな!! 何がご不満なのですか?! 我々は、貴方様にこの財産をお届けする為に存在しているというのに!」
「不満以前の問題だっていってるんだよぉ!?」
その後、五十嵐さんにも懇切丁寧に、一般市民の金銭感覚と、私に特に今現在、お金の使い道が無い、思いつかない、という事を説明し、納得していただくのに数時間かかった。
そりゃあ、お金なんてあるに越したことはないよ? 多分、お金で全宇宙の全種族の孤児を救済、とかやろうとしたらこれでも全然足りないんだろうし。
だからといって、数字も数えられないような金額をいきなり渡されても困る!! だ、大体、そういうの税金だってかかるでしょ、経済への影響だって尋常じゃないし、政府だって困るはず(ちなみにこの発言は数少ない統合政府が手離しでビッグママに泣いて感謝した案件だと伝えられる)。
も、もう、お金はこりごりだよぉーー!!
つ、疲れた、次の人に会うのはまた後日でお願いしますぅ……。
『ピリルルル(なでなで)』
「アースぅ……お前だけが私の癒しだよぉー」
ちなみに。
このエピソードを五十嵐が胸を張って喧伝した結果、「ビッグママはなんて清貧なお方なんだ」「ママ上の懐は銀河よりも広いのか……」みたいになって財団の宣伝になって株価が上昇。
さらにママ直々の指示で孤児院への寄付や崩壊した惑星への復興事業、防衛艦隊の増築などの慈善事業・防衛産業への大規模な投資を行ったのが、高く評価される事になる。
その結果、当然のように12種族全体から大いに感謝され、お金以外の形で莫大な“寄付”が行われ、色々と大変な事になる未来を、葛葉は知らない。
「お賽銭感覚で巨大戦艦を寄付するなぁーーーー!? 私一人で全長10kmの宇宙船をどう管理しろっていうんだよ!? いや制御系はどうにかなるけど物理的に掃除とか整備とかどうしろってんだ!?」
「あの、それとボランティアで1000名ほどのスタッフが……」
「大企業の従業員並みのボランティアってなんだよぉ(西暦感)!? 給料は出せんぞ!? え、ボランティアだから要らない? そんな訳いくかぁーー!! い、五十嵐さん、五十嵐さん、お小遣い頂戴~~(涙」
これが後の葛葉宇宙バス艦隊の始まりだったり、なかったり。
そんなこんなで、振り回した分、未来で振り回されるママなのであった。
どっとはらい。




