貴族令嬢、逮捕されるッ!
令和7年検第○○○号
起訴状
○○簡易裁判所 殿
○○区検察庁
検察官 副検事 〇〇〇〇
拘留中待命 黒い安息日
公訴事実
被告人は、令和7年○月○日午後○○時頃、○○において
○○○○(当時○○歳)に対し、その顔面を数回殴るなどの暴行を加えたものである
罪名及び罪状
暴行 刑法208条
◇◇◇
若く美しい貴族令嬢である私、黒い安息日は〇〇警察の取調室にいた。部屋には私と私服の警察官が二人、おそらくどちらも刑事だ。
「では黒い安息日さん、通常逮捕ということで」
正面に座る刑事さんが告げる。もう一人の刑事(?)さんが私に手錠をかけた。
チャキ、チャキキ……
手錠は意外にも軽く細い。ずいぶんと使い込まれ黒い塗装が一部剥げた手錠は左右が鎖で繋がっており、中央には武骨な紺色の紐が結ばれている。それは紐というにはあまりにも長すぎた。長く、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた(ベルセルク)。むしろ紐が本体じゃないのかと思った私だったが、取り調べは続いた。
◇◇◇
話は一年前にさかのぼる。
若く美しい貴族令嬢(ここ重要)である私、黒い安息日は某地方都市のマンションに引っ越した。ここは閑静な住宅街にありながらもお店が多く買い物にも困らない。徒歩圏内に業務スーパー、コープ、高級マーケット、ラ・ムー、ドラッグストアがあるのだ、控えめに言って神立地である。
しかし悩みがあった。引っ越した当初から、何者かが深夜に私の家のドアを開けようとするのだ。
最初は気にならなかった。近所のドアが開閉する音がひびいてるのかと思ったからだ。しかし徐々に音の精度が上がり、それが私の家を開けようとしている、ということに気が付いた。それは日増しに頻度が上がり、連日続くようになっていった。
私は身体に大きな障害があり、走ることが出来ない。事故で足を損傷しているからだ。ゆえにドアを開けようとする人物を掴まえたくても、玄関まで時間が掛かってしまい間に合わない。ドアを開けてもスコープを除いても、常にもぬけの殻である。ドアのカギは必ず閉めているので侵入されたことは無いが不快感は半端ない。
半年前、ついに耐えきれずマンションの管理会社に連絡したが、警察に相談してくれと言われた。その後ドアを開けられそうになるたびに110番通報を繰り返していたが、ようやく犯人が見つかった。真上に住む住民だった。
その住民は家を間違えましたと謝りに来たが、それにしても回数が尋常ではない。数えていたわけではないが週に二度以上のペースで過去数十回は確実に、正確にカウントすればおそらく100回以上は行っていただろう。私は警察に逮捕を要求したが、曰く迷惑行為での逮捕(起訴)は難しいという。
……しかし、その後も迷惑行為は続いた。
おそらく本当に間違えているのだろうとは思う。別に物取りや変質者といった感じではなかった。しかし回数が尋常ではない。警察2名と同行して再度謝罪に来た時は私の堪忍袋が限界に近づいていた。もうしませんと頭を下げる犯人に私は声を荒げ、次同じことをしたらどうするのかと問い詰めた。彼は警官を前に私へ向かってこう言い放った。
「つ、つぎ同じことをしたら私をシバイてください」
(原文ママ)
注釈)
「シバイてください」とは「殴ってください、暴行してください」という方言。
……しかし、その後も迷惑行為は続いた。
迷惑行為、マンション、一年間。何も起きないはずがなく…