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第2話:Go to 夜職

 千恵は昨日の飲み会が解散した後、帰り道で決意を固めていた。「在学中に奨学金を完済したい!」

 

 ブラウザで「大学生 バイト 高時給」と検索すると、バイト求人プラットフォームの募集要項がたくさん出てきた。それらの多くは時給1300円程度だ。途中、1800円という額が出てきて、千恵のスクロールが一瞬止まったが、よく見たら塾講師のバイトであった。塾講師はシフトが少なく、あまり稼げないことがほとんどだ。そもそも周りの大学生と同じことをしていては奨学金など到底返せそうに無い。


 千恵はパソコンを閉じて、今度はスマホに変え、体を被せてどの方面からも他人から画面が覗かれないようにした上で「女性 高収入 夜職」と調べた。 するとガールズバー、キャバクラというワードがヒットした。夜職と言えばそのあたりが代表的ではあるが、千恵には大きな懸念が2つあった。

 1つは容姿にそこまでの自信がないことだ。決して不細工ではなく、これまで彼氏がいたこともある千恵だが、自分の容姿がお金に変換されるイメージは到底できなかった。

 もう1つはお酒が得意でないことだ。サークルや友人の付き合いでは多少飲むが、それでも2,3杯である。両親が下戸なこともあり、体がアルコールに適していないことはお酒を飲み始めてからすぐにわかった。お酒を飲むと体が筋肉痛のように痛むのだ。特にふくらはぎが絶望的に痛くなる。こんな体質ではお酒を飲む商売はできない。


 行き詰まった千恵は恐る恐る、「風俗 女性 高収入」と打ち込んでみた。

 途端、画面上に風俗の求人がぶうぁっと液体のように溢れ出た。いけないスイッチを押してしまったかのように思ったが、ここまできたら見るしかない。

 ピンクを基調としつつも、上品で思ったよりも落ち着きのあるサイトに驚きながら、求人を眺めていった。「日給7万円保証!」など目のくらむ額が当然のように乱立するこの界隈では、千恵がこれまで関わったことのないタイプの人間たちが形成している大きな経済があり、それをどこか奇妙に感じた。


 ふいに「水商売だけはやめて欲しい……」そう嘆願する母親の顔が脳裏によぎった。その直後、千恵は母親に対して申し訳なさではなく、意外にも強い憤りを感じた。奨学金がのしかかり、将来、金銭的な希望がほぼない中、風俗は今の千恵にとって唯一と言える解決策であった。それを他の解決策を提示することなく潰されるのは、ずっと貧乏のまま過ごしなさいと言われているようなものだ。

 

 少し時間が経ち、心が穏やかになった千恵は決めた。

「風俗で働いて、これから2年間で奨学金を絶対完済してやる!」


 その勢いでピンサロ「ハピ猫」の求人に応募した。

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