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変わり者公爵令嬢の切実な願い 1

すみません、タイトルを一部変更させていただきました。

物語の内容は変わっていません。

メイルと合流したアンリは、緊張が解けたのか家に帰るとすぐに眠ってしまった。

「お嬢様。‥‥‥頑張りましたね。たくさん眠ってください。いい夢を見てくださいね」

優しくアンリに布団をかぶせた後、リビングへ向かう途中にメイルは強烈な視線を感じた。

この視線に覚えがあったメイルは、ため息をつきそうになるのをこらえながら振り返った。

「‥‥‥なんでしょうか。奥様」


翡翠色のつり目から発される眼光が鋭くメイルを射抜く。

他の使用人なら震えあがるところだが、メイルは表情を変えることなく軽く受け流す。

「‥‥‥。アンリに何があったの?」

アンリの母親はメイルをじっと見つめ、ようやく言葉を口にした。

(‥‥今更お嬢様の心配ですか? あんたみたいな最低な人がアンリ様の母親なんて信じられませんね)


メイルは今にも飛び掛かりたい衝動を必死に抑え、努めて冷静な声で答えた。

「‥‥事故にあいそうなところでしたが、間一髪のところで事故は免れました」

「そう」

冷たくそう言い、アンリの母親はメイルに背を向けた。


「お待ちください、奥様。‥‥‥アンリ様と、一度お話してみたらいかがでしょう」

この人は昔、とても優しくいい母親だった。

だからきっと、アンリ様と話し合いの場を持てばまた―――。

メイルの考えを壊すかのように、アンリの母親は冷ややかな目で言った。

「嫌よ。本当に残念だわ。あんな不出来な子、事故で死んでくれればよかったのに」

「—————ッ!!」


「あら。何その顔、不満でもあるというの?」

「‥‥‥‥。いえ、なんでもございません」

今この瞬間、メイルは警視総監でなく本当によかったと思った。

警視総監だったら、今すぐ銃で狙いを定めアンリの母親を撃ち殺していたことだろう。


唇を噛み締め、完璧な角度でお辞儀をするメイルに向かって、「目障りだわ。気持ちの悪い」と言い捨て、今度こそアンリの母親は行ってしまった。

一人残されたメイルは舌打ちをした後、深呼吸で心を落ち着かせた。

次の瞬間、メイルからはさきほどの殺伐とした雰囲気は消え、代わりに穏やかないつもの柔らかい雰囲気がまとわりついていた。




◇ ◇ ◇




「‥‥‥‥‥そっか。当たり前、か」

メイルと実の母親の会話を意図せず耳に入れてしまったアンリは、自分の部屋に戻るとその場に座り込んだ。

「‥‥‥お母様は、本当は私を愛してくれていると‥‥、嫌ってなどいないと信じてた。‥‥いいえ、私はきっと、もうわかってたのね。お母様が私を愛すことなどないのだと。お母様にとっての私は無価値。いえ、お母様に迷惑をかける存在なのだわ。お母様に嫌われるのも当然、なのに」


なのに。

お母様、私を愛してと心が叫ぶ。

お母様、私を好きになってと体が叫ぶ。

お母様、私を嫌いにならないでと全身が叫ぶ。

涙が頬を伝った。

「おか、おかあ、さま。お願い。私と、一緒にいて‥‥‥!」

必死に押しとどめていた言葉が、アンリの中からあふれ出す。


お母様‥‥‥‥‥。

 " なんで、私を拾ったの‥‥‥? "


一番言いたい言葉。

そして、一番言えない言葉。


ずっと、ずっと前から思っていた。

なぜ私を拾ってくれたのか。

なぜ私を育ててくれたのか。

なぜ私を‥‥、最終的に捨てたのか。

捨てるなら、最初から拾わないでほしかった。

希望を見せないでほしかった。


私に、光を見せないで‥‥‥!


だって、期待してしまうの。

お母様は私が好きなんだって!

本当は嫌いじゃないんだって!

お母様は私を愛しているって!

お母様は‥‥‥‥、‥‥変わっていないんだって!


今までため込んでいた全ての思いが、アンリの心を染める。


愛して!

愛して!

愛して!



私を愛して、お母様!

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