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変わり者公爵令嬢と専属メイド 2

「お嬢様ぁ~! だめですよぉ、絶対!」

「メイル、まだ、まだ食べられます! 三秒ルールです!」

あの誘拐事件から二週間たった、朝のこと。

アンリとメイルは激しく言い合いをしていた。

事の発端は、数分前の朝食の時の出来事だ。

アンリは好きなものを最後に残しておくスタイルなので、大好きないちごは最後に食べることが多い。

いちご以外を食べ終わり、後はデザートのいちごだけ。

五個中四個を食べ終わり、最後の一個に手を伸ばしたとき、事件は起きた。

ちょっとした地震が起きたのだ。

地震自体はすぐにおさまり、揺れの大きさも小さかったのだが‥‥‥。

中途半端にいちごに向かって伸ばしていたアンリの手は大きく動き、いちごの皿をひっくり返してしまったのだ。

皿は机から落ちなかったのだが―――、最後の一個、一番貴重ないちごは弧を描いて飛び‥‥‥‥。無事、床の上に着地した。

床に落ちて多少汚くなっても気にしないアンリは、そのまま食べようと手を伸ばしたのだが、アンリより先にメイルがいちごをとってしまったのだ。

そして‥‥‥。

「お嬢様ぁ~! だめですよぉ、絶対!」

「メイル、まだ、まだ食べられます! 三秒ルールです!」

冒頭の会話に戻るわけだ。

「三秒ルールなんてものを信じてはいけないんですよぉ! 0.001秒でも、床に一瞬触れただけでも、菌はばっちりつくんです!」

「別に少しぐらい菌がついていても私は気にしません!」

「アンリ様が気にしなくても、私が気にします!」

そう言って、メイルはゴミ箱にいちごをぽいっと捨ててしまった。

「あー! 私の貴重な最後の一個のいちご~!!」

アンリはゴミ箱に近寄って中を覗き込むが、いちごはもうゴミの中に埋もれてしまっていた。

流石のアンリも、ゴミ箱のものに手を出さない理性は残っている。

なので、ゴミ箱の中のいちごを見ながら嘆くだけだ。

「いちごさぁぁぁん‥‥‥。この(かたき)は絶対取りますからっ!」

「お嬢様ぁ、くだらないこと言ってないで学園に行く準備しましょうねぇ」

「うぅ、私のいちごさん‥‥‥」


メイルに引きずられながらも嘆くアンリのいちごへの執着心は普通じゃない。

いちごはアンリにとって特別な食べ物なのだ。

アンリはプチトマトが嫌いなのだが、同じ真っ赤な赤色をしているにも関わらず、いちごは甘い味をしていて、触感もいい。

初めて食べるとき、アンリは「いやだ~! ぷちとまととおなじいろなんだからぜったいまずい~!!」と言って駄々をこねたものの、食べた後は、もういちごにドハマりしてしまった。

それからフェリー家の朝食・夕食(昼食は学園で食べるので、アンリがフェリー家で食べるのは休日だけだ。アンリがフェリー家で昼食を食べるときは、もちろん全ての食事にいちごがついてくる)にはいちごが必ずだされるのだ。


学園の準備をしている間もいちごについて嘆き、送迎用の車に入る時もいちごについて嘆き、メイルが「行ってらっしゃいませぇ」と言うといつもなら「行ってきます」というのだが、今回のメイルに対しての返事は「私のいちごさぁぁぁん‥‥‥」だった。

とうとうメイルが折れ、新しいいちごを一個屋敷から持ってきてアンリに食べさせると、ようやく機嫌が直った。

「行ってきま~す」

「はぁい、行ってらっしゃいませぇ」


そして学園に到着し、教室に向かう。

がらっとドアを開け、自分の机に向かい、読書をする前に‥‥。

「おはようございます!」

隣の席の男子に挨拶をしておく。

アンリの笑みを真正面から受け取った男子生徒は、真っ赤になって椅子からずり落ちた。

「えっと‥‥‥。大丈夫ですか?」

「だだだ大丈夫です!」

男子生徒が手をさしだすアンリの手をにぎることを躊躇している間に、アンリは男子生徒の手を掴んで立ち上がらせた。

「気を付けてくださいね」

そう言ってさっさと読書に集中し始める。

そんなアンリの横で‥‥‥。


「どどどどうしよう、俺フェリーさんの手にぎちゃったぜ!?」

「どんな感触だった!?」

「柔らかくて、小さくて‥‥。人生で一番幸せな日だ!!」

「くっそぉうらやましい奴め!」

「俺たちだってフェリーさんと会話してぇし触ってみてぇのにー!!」

‥‥こんな会話が繰り広げられていることに、アンリは気づくよしもなかった。


「ホームルーム始めるぞ~」

そうこうしているうちに教師が入ってきて、ホームルームが始まる。

「‥‥‥で、これでホームルームを終了する」

ぼんやりしてホームルームの内容を全く聞かないのは、アンリの日常だ。

ぼんやりしているとすぐにホームルームが終わるので、楽なのである。

一限目が始まると、急にアンリは集中し始めた。

今日の一限目は数学で、アンリの一番好きな教科なのだ。

数学は一番最初に十五分間の小テストをする。

その時、普通の生徒なら「こんな少ない時間で30問も終わらねーよ!」と嘆くところだが、アンリは違う。

いつも五分ほどでちゃちゃっと終わらせ、残りの時間を全て居眠りに使うのだ。

もちろん最初の頃は教師に怒られていたが、アンリのテストがすべて百点なので、教師は何も言わなくなった。

なので、ゆっくり眠れる‥‥はずだったのだが。

ガタガタガタッ

ガッシャン!

いきなり激しい地震が起きて、近くにあった花瓶が床に落ちて割れる。

素早く生徒たちは机の下に隠れ、数分待つが‥‥‥。

揺れは衰えることを知らず、それどころかどんどん強い揺れに変わっていく。

とうとう近くにいた女子生徒がパニックを起こして机からでた。

「何やっている!? 戻れ! 危ないぞ!!」

教師が声をかけるも、女子生徒はパニックになっていて聞いてくれない。

廊下に向かおうとする女子生徒の頭の上の蛍光灯が落ちてくるのが、スローモーションのように見えた。

「危ない!!」

慌てて机からでたアンリは、女子生徒の服を掴み強く引っ張って、蛍光灯の落下地点から移動させた。

ガッシャ―――ン!

先ほど彼女がいたところに蛍光灯が落ちてきて、地面にヒビが入る。

アンリは彼女の服を引っ張って、一緒に机の下に移動する。

「こわい、こわいよぉ」

完全にパニックになっていますね、と呟いて、アンリは彼女を優しく抱きしめた。

「大丈夫です、落ち着いてください。吸ってーはいてー吸って―はいてー」

背中をなでながら声をかけると、彼女の荒々しかった息が落ち着いていく。

「フェ、フェリーさん、私のこと助けてくれたんですの? 私の態度、酷かったのに‥‥‥?」

目を真ん丸に見開く少女は、アンリのことを知っているようだ。

「えっと‥‥。誰ですか?」

「‥‥‥!?」

ショックを受けたように固まってしまう女子生徒。

何か言おうとするように口を開くが――――。

グラグラグラッッッ!!

ひときわ強い揺れが起きて、支えていなかった机の脚がゆれにそって動き、壁に衝突した。

ドォォォン!!

「‥‥‥ッ!!」

アンリの無防備だった体は壁に強く叩きつけられ、頭を強く打ってしまう。

「フェリーさん!!」

ちょうどアンリがクッションとなって無事だった女子生徒が慌てたように声をかけるが、アンリは目をつぶって動かない。

頭から血を出ているのを確認して、女子生徒は悲鳴のような声を上げる。

「先生ッ! フェリーさんが!!」

「今行く! くっ‥‥!」

担任がアンリのもとに向かおうとするが、ゆれによってうまく動けない。

その間もアンリの血はだらだらと流れ続けていたのだった――――。

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