~ 特別編 2 アンリと猫 ~
アンリはキッ! と目の前の敵を睨みつける。
「他の皆さんだったらすぐ騙されるところですが‥‥‥私は騙されませんよ!」
そう言い切ったアンリに躍りかかり、倒れたアンリのお腹に足を乗せた敵は満足そうに鼻を鳴らした。
「くっ‥‥‥! な、なかなかやるじゃないですか!!」
ジタバタ暴れるアンリから飛びのいた敵は、アンリから興味を失ったかのようにさっさと他の人のところへ行ってしまう。
「あーっ! ちょ、待ち、いや待っ」
て、という声はメイルのあきれたような声にかき消された。
「お嬢様ぁ、猫ちゃんたちと戯れるのがいいですがぁ、もう少し周りの目を気にしましょうねぇ」
そう、さきほどからアンリが敵扱いしている相手は―――人懐っこい猫だった。
そう、ここは猫カフェ。
犬より猫派のアンリはよく猫カフェに行く。
「うわーん、今度はちゃんと可愛がりますから~!! 戻ってきてくださーい!」
メイルの声を聞き流して必死に猫に取りすがるアンリ。
その姿は、公爵令嬢にはとても見えない。
それも当たり前だろう。
アンリは、変わり者公爵令嬢と呼ばれ有名になるほどに少々ずれた考えを持つ令嬢なのだから。
「うっうっ」
下手な泣きマネに騙された猫が、アンリに近寄ってくる。
その瞬間アンリは猫じゃらしをどこからか取り出し、「勝負です、猫ちゃん!」という掛け声とともにそれをぶんぶん振り回す。
「うにゃーっ」
嬉しそうに猫じゃらしを追いかける猫を見て、アンリはさらに振るスピードをあげた。
すると、猫はその場から動かずに頭を振って猫じゃらしの動きを確認し始めた。
今までになかった猫の動きに、アンリは首をかしげた。
「あれ‥‥‥。早すぎましたかね」
そう言って猫じゃらしのスピードを緩めた瞬間。
この時を待ってたといわんばかりに猫じゃらしに向かって猫が飛びつく。
「アーッ! そんなっ‥‥‥! それはズルですよ猫ちゃん!」
負けを認めないアンリをめんどくさそうに見つめ、猫はアンリにパンチを繰り出した。
「にゃにゃにゃっ」
「ええっ、負けを認めろって!? でもでも先ほどのはルール違反ですよ!」
「にゃーにゃにゃん!」
「そんな、あれは明らかにルール違反です! そちらこそ認めてください!」
相変わらず負けを認めようとしないアンリに、とうとうしびれを切らした猫が牙をむく。
「フシャーッ!」
「わあぁっ、すみませんでした~!! もうしません、許してください!」
牙をむかれた瞬間あっけなく負けを認めたアンリに向かってもう一度パンチをして、猫はキャットタワーを上手に登ってアンリから離れていった。
「さあ、アンリお嬢様。もう満足しましたねぇ、帰りましょう」
落ち込むアンリの気持ちを察したアンリが、空気を入れ替えるように提案した。
アンリはほっぺを膨らませて不満をアピールする。
メイルはそんなアンリの様子に気づいているのかいないのか、さっさとお会計を済ませてしまった。
「あぁぁ~。もう少し猫ちゃんたちと戯れたかったっ‥‥‥!」
アンリが敬語をはずすのはめずらしい。
それほど猫たちと遊ぶのが楽しかったということだろう。
その後、アンリはなかなか頑張って抵抗したものの、最後にはずるずる引っ張られ車におしこまれ、屋敷へと連行されていったのだった。




