変わり者の公爵令嬢、アンリ・フェリー 1
よろしくお願いします。
誤字があったので直させていただきました。また、文章も少しばかり変えさせていただきました。
また、エピソードタイトルも少々変更させていただきました。
物語の内容は変わっていません。
「あなた、少々生意気なんじゃなくて?」
目の前でふんぞり返る男爵令嬢にそういわれ、アンリは静かにスプーンを置いて答えた。
「どういうことでしょう」
「ぽっと出の公爵令嬢が殿下にお近づきになろうなんて、生意気だって言っているのよ。理解できないのかしら」
「理解はできますが‥‥。私、殿下にお近づきになろうなんて思っていません」
「嘘ね。生徒会に入るなんて、殿下が目当てに決まっているわ」
決めつけたように言うご令嬢に、アンリは首を傾げた。
「なぜそう断定なさるのですか?」
「生徒会に入る理由なんて、それぐらいしかないからよ。さっきから本当に呑み込みが悪いわね」
腕を組むご令嬢は、少々不機嫌なようだ。
理由がわからなくて、アンリはまたも首をかしげる。
「私が生徒会に入ったことを怒っていらっしゃるのですか?」
「ええそうよ! 生徒会に元平民はふさわしくないわ!」
「でしたら、やめさせていただきますね」
ほんわか笑顔でのほほんと告げたアンリに、男爵令嬢は呆気にとられたように目を見開く。
「あ、あなた、自分が何を言っているのかわかっているの?」
「もちろん、わかっておりますよ。生徒会をやめるということです」
「あら、生徒会をやめたらどうなるかわかっていなさそうね」
さきほどの調子を取り戻したご令嬢は、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「どうなるのですか?」
「大量のバッシングをうけて、学園中にハブられるのよ!」
「そんなことですか。私は別にそれでいいです」
笑みをたたえたアンリの表情に嘘はない。
「あなた‥‥。正気?」
「はい、もちろんです」
男爵令嬢は後ろを振り返って、恐らく取り巻きだろう三人に向かって問いかけた。
「今の発言、聞いたわね?」
それぞれうなずくとりまきを確認してから、ご令嬢はアンリの顔を見てはっきりと告げた。
「今回はこれで勘弁してあげるわ。ちゃんとやめないと、許さないから」
「はい」
アンリが答えると、男爵令嬢は逃げるようにその場をたちさった。
「もう行ってしまいました‥‥。お友達にはなれましたけれど、もっとお喋りしたかったです」
今の会話で、なぜ友達になれたと思うのか。
少々普通とは違う感性を持つアンリはぽつりとそうつぶやいたものの、次の瞬間にはそんなことは忘れ、目の前の食事に集中していた。
「このサラダ、とってもおいしいです!」
満面の笑みを浮かべて、食事をするアンリ。
その姿に、数多くの男子たちが見とれていることに彼女は当然のように気づかなかった。
※ ※ ※
「なぜだめなのですか?」
「一度生徒会に入った者がやめることはできない」
「なぜそんな決まりがあるのですか?」
「決まりは決まりだ。そうとしか言えない」
生徒会の専用ルームには、困ったように頬に手を当てるアンリと、机のパソコンに向かう生徒会長の姿があった。
普通の人なら話をちゃんと聞けと怒る場面なのだろうが、もちろんアンリは怒らず、まったく困っていない様子で困りましたね、と言うだけ。
「なぜそこまでやめたがるんだ? 生徒会に入るのを承諾したのは君なんだろう」
「う~ん、あまり私に生徒会は合わないなと思いまして」
にっこり笑ってそう告げたアンリ。
鋭い瞳の生徒会長と目があっても、全く動じない。
「‥‥‥‥‥‥今回は、異例として認めよう」
先に折れたのは、生徒会長のほうだった。
「ありがとうございます! それでは、失礼しました」
笑みをたたえたままお辞儀をし、生徒会専用ルームから出る。
そのまま昇降口へ向かい、靴を履いて外に出たところで、
「雨が降ってきましたか」
空から降ってきた雫が頬にあたる。
「まあこれぐらいの雨なら大丈夫ですね」
鼻歌を歌いながら家に向かっていると、途中で雨が強くなってきた。
音を立てて降る雨が一瞬でアンリをずぶぬれにする。
「もう濡れてしまったし、今更急ぐ必要もないですね」
そう判断してのんびりと家に向かったアンリ。
当然のように翌日、風邪をひいた。
「アンリ様ぁ、次からは車で送迎いたしますからぁ」
「メイル、それはちょっと‥‥」
「アンリ様に拒否権はないんですよぅ。当主様の決定ですぅ」
本当はもっと前から送り迎えをしていたはずだったのだ。
だがアンリが拒否したことで、この話は白紙に戻っていたのだった。
「私は朝の景色を楽しみながら歩くのが好きなんです‥‥‥」
少しショックを受けたアンリだったが、次の瞬間には朝のお散歩をすればいいや、という結論に達していた。
「アンリ様ぁ、そろそろ起きましょうねぇ。遅刻してしまいますよぉ」
「ううん、もうちょっと、寝たいです‥‥」
二度寝をしようとするアンリの布団を容赦なく剥ぎ取り、仁王立ちになるメイルと、それでもなお寝ようとするアンリ。
この戦いは、毎日のように繰り広げられていたのだった。
しぶしぶ起きて支度をし、朝食を食べたアンリは、メイルに送迎用の車に押し込まれた。
少しぶすっとしたアンリだったが、メイルに「今日のご飯はアンリ様の鉱物にしておくよう、パティシエに言っておきますねぇ」と言われた瞬間、気分が治った。
今日のご飯は何でしょうと考えてる間に学園につき、教室に向かう。
「おはようございます」
そう言ってアンリが足を踏み入れた瞬間、多くの視線がアンリに注がれた。
注目を集める中、のんびりと椅子に座って本を読み始める。
そんなアンリに、数人の女子生徒が近寄った。
最初に口を開いたのは、その中で一番位の高い公爵令嬢だった。
「ねえフェリーさん、生徒会をやめたって本当なんですの?」
「はい、本当です」
「なんて自分勝手ですの!? 生徒会に選ばれた方にはきちんと仕事をしていただきませんと」
本当ですわと頷く女子生徒たち。
「生徒会に選ばれたら必ずしなければいけないのですか?」
「もちろんですわ。そのくらいのことも知らないなんて、これだから元平民はいけませんわね」
女子生徒に何か言われるたびに、傾いていくアンリの首。
この状況なら下にむかってが普通だろうが、アンリの首はどんどん横に傾いていく。
「えぇっと。申し訳ありません、さきほどからおっしゃられている意味がわからなくて」
おっとりとした口調でそう言ったアンリ。
いつもだったら長所なのだが、その口調は火に油を注いでしまったようだ。
「んなっ! ば、馬鹿にしているんですのね! いいですわ、お父様にいいつけてやりますわ!」
そういって怒ったように行ってしまう公爵令嬢と、彼女についていく女子生徒たち。
何だったのでしょうと首を傾げたアンリだったが、すぐに教師が入ってきてホームルームが始まったため、その出来事はすっかり頭から抜け落ちたのだった。
放課後、教室を出て昇降口に向かっているとき、複数の女子生徒がアンリの行く手を阻むように立った。
「あなた、ちゃんと約束を守ったのね。褒めてあげてもよろしくてよ」
つんと澄ましてそう言った男爵令嬢に、首をかしげる。
「あのぅ、どこかでお会いしたことありましたか?」
カチンと凍った空気に気づかず、アンリはそのまま続ける。
「それに‥‥、申し訳ありませんが、約束を守るとは何のことでしょうか」
「んな、あ、あなた、私のことを忘れたとでも!? 昨日会ったばかりですのに!?」
昨日の思い出を振り返って、やっとアンリは思い出した。
「あぁ、昨日の初めての私のお友達ですね!」
お友達と呼ぶなら相手のことぐらい覚えておくのがすじというものだが、変わり者のアンリは男爵令嬢のことを全く覚えていなかったようだ。
しかも勝手にアンリが友達だと思っているだけなので、本来はそれ未満の関係である。
そんな風に、少々変わったアンリ・フェリーの学園物語は、幕を開けた。
閲覧ありがとうございました。