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3.恐怖!全身地雷人間!

 「それでこの跡のことなんだけど、誰にも言わないで欲しいんだ…。」

 申し訳なさそうに言うアレセ。どうしてこうなったんだろう。


 確かアレセは、授業の準備をすると言っていたはずなんだが。

 今現在、俺達のいる場所はどう見ても教材が置いてある場所ではない。


 「あのー、アレセさん。授業の準備は…?」

 「あぁ。次の授業は先生休みみたいだから必要ないよ。」


 騙された。仕事をサボっていたと勘違いした、少し前の気持ちを返して欲しい。

 そんな俺には構わずアレセは話しを戻す。


 「それで、黙っててくれるかな…?」

 「え!?えぇ。勿論ですわ〜。取り敢えずお大事にということで、戻りましょう〜。」


 「………何だか不安だな。そうだ!君、次の試験でトップを目指すんでしょ?なら僕が見てあげるよ。その代わりに秘密にしてくれる?」


 あれよあれよと、条件をつけられてしまう。が、この流れは危ない。

 一緒に勉強をしていく中で、アレセと親密になる、そんな流れに自分はいる気がした。


 目の前の男はどう見ても、仲を深めると危険も高まるだろう。


 「そ、その心配はございませんわ〜。アレセさんの秘密は黙っておきますので。」

 「うん。分かった。それじゃあ、放課後とか空いている時間に教えに行くね。」

 「聞いてねぇ!?」


 「…うん…?」

 「い、いえですから、お勉強は教えて頂かなくともお平気ですわ〜」

 「うーん、言葉遣いもちょっと変だし、そっちも勉強しよっか。」


 全く耳を貸さないアレセ。何だか、ジュリーの気持ちが少し分かった気がする。

 見た目にそぐわぬ強情さで、勉強の約束を取り付けられてしまった。


 だが冷静になって欲しい。3年間を過ごすゲームの中で、たった1年目だ。それ程、仲良くはならないはず。

 ゲームの内容を詳しく覚えていない自分に歯がゆく思いつつも、今はとにかくポジティブにそう思うことにした。


―――――――――――――――――――――――

 紆余曲折はあったものの、午前中の授業を終えてランチタイムに突入。

 「サトシさん!何を呆けていますの?行きますわよ!」

 「え、えぇ。」


 ジュリーに引っ張られて連れてこられたのは、食堂のような場所。

 どうやら昼食を一緒にとるようだ。


 「おっ、これ美味そうだな…」

 俺が選んだのはステーキ定食だ。昼から重いとは思ったが、これからのことを考えると栄養は取っておきたい。


 まぁ、財布をみたところそれ程入っていなかったので毎日食べることはできなそうだが。


 空いている机にジュリーと座って、食事をとる。


 「あれ…?ジュリー、それで足りるんですの?」

 俺のステーキ定食の隣には、緑ばかりのヘルシーなボウルのみが置かれていた。


 「えぇ。淑女たるもの、プロポーションには常に気を使わなくてはなりませんから。」

 「へぇ〜。たいへんですのねぇ〜」

 「貴方も淑女ですのよ!ほら!お野菜も摂りなさいな!」


 「わぁ〜!辞めてほしいですの〜ん!」

 「ですから『ですの』で良いんです!」


 小皿に分けた野菜をこちらへ近づけてくるジュリー。生憎今は、野菜の気分ではないのだ。

 善意であろうと、遠慮願う。


 ジュリーからの野菜をかわしつつ食事を終えた俺は、午後の授業に向けて気合いを入れなおす。


―――――――――――――――――――――――

 全ての授業を終えた俺は恐怖していた。放課後、つまりはアレセに勉強を教わる時間になってしまったからだ。


 だが漢サトシ。腹は括った。これは仕方がないことと考えて、後は勉強を目一杯教わることにしよう。


 「お待たせ。待ったかな?」

 「いえ。全く待ってませんわ〜」


 お決まりの返事をして、早速勉強を始めた。

 グローリアス学園の試験は少し特殊で、試験が終わる度に次回の試験範囲が発表される。


 そのため、試験まで4ヶ月とあるが対策のしようはあるのだ。

 元々の俺の成績は真ん中。良くもなく、悪くもなく。


 あまり気を重くすることなく、勉強出来る。


 「うーん。この辺りは前の範囲に戻る必要がありそうだね。ノートはとってある?」

 アレセに促されて、ノートをめくる。前の範囲とやらをやった記憶はない。

 が、どうやら主人公は真面目にノートを取っていたらしい。


 間違えやすい箇所や、間違えた理由が書かれたメモがノートには貼ってあった。

 俺はこれ程勉強に精を入れた覚えはないので、感心してしまう。


 そのノートを元に、問題を解いて復習していく。

 「ふー。ちょっと休憩しよっか。」

 「えぇ。」


 少しすると、アレセはそう言ってペンを置いた。

 かと思うと懐から小さな包紙を取り出す。


 「はい、これ。糖分補給に。」

 「ありがとうございます!丁度小腹が空いてましたの!!」


 アレセから喜んでお菓子を受け取り、食べる。糖分が体に行き渡るのをしみじみ感じた。


 「そういえばアレセさん、随分頭がよろしいんですのね〜。」

 「………まぁね。その、家がちょっと厳しいから…。」


 なんてことだ。これは聞かないほうが良かった。

 この質問でアレセは訳ありげに俯いてしまう。そして、空気は淀む。


 話題を変えよう。アレセの地雷に踏み込まないような、ライトで、楽しい話題へ。


 「た、大変ですのねぇ〜。あっ、このお菓子美味しいですわぁ〜。どこの物なんです?」

 「実は僕が作ったんだ……。母さんがいた頃は、家族皆で喜んで食べてたものでね……。久しく、皆で食べてないけど……」


 この男は全身地雷で出来ているのか。そう思うほど、話題の全てが彼の表情を曇らせる。

 何を話しても家族の話になる。話しにくいことこの上ない。


 「また皆さんで食べれると良いですね〜。………そ、そろそろ勉強に戻ります?」

 「うん。そうだね。」


 まだ見ぬ地雷に怯えつつ、俺は勉強をひたすらに教わるのだった。

  

 

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