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2.ツーアウト!攻略対象は危険!

 乙女ゲーへ転生してしまった俺は、どうやって元の世界へ帰るか考えあぐねていた。

 あまりにも思いつかないので、いっそのこと死んでしまえば元の世界に戻れたりしないだろうか。


 いや、それは最後の手段にしよう。何か方法があるはず。ここはファンタジー世界な訳だし。


 椅子に座りながら必死に考える。

 「…それで、って、聞いていますの!?サトシさん!」

 「え、えぇ。その髪飾り素敵ですわ〜」

 「それは話し終えた話題です!今はワタクシの弟の話ですのよ!」


 「す、すいませんの。えと、弟さんがどうしたんですの?」

 言葉遣いの指摘を諦めたジュリーが、俺へ得意気に話を続ける。

 「ワタクシの弟が、今度の試験でトップを張ると予想されているんです!無論、ワタクシも取りますが!」


 「おぉ!それはすごいですのね!」

 「えぇ!これで奇跡の石はワタクシ達の物ですわ〜!」


 薄い胸をはって、高らかに宣言するジュリー。俺にとっては他人事でしかないので、抱くのはすごいなぁという感想のみ。


 だが、少し引っかかるワードがあった。

 「…ところで奇跡の石ってなんですの?」

 「あら、頭でも打ちまして?奇跡の石とは試験でトップをとった者のみに与えられる石じゃないですか。」


 「へぇ〜。それで、奇跡の石で何か出来るんですの?」

 「勿論、何だって出来ますわ!あっ、制限はありますが…」

 「それは何でもじゃないと思いますのん…」


 思わず注意された言葉遣いになってしまった。それはともかく。

 制限というのは気になるが、奇跡と名のつくアイテムだ。もしかすると、それを使えば元の世界に戻れるかもしれない。


 「ジュリー。お、私、試験のトップを目指しますわ。」


 そう聞いたジュリーは、先程までの表情から一変、顔を固くする。


 「…それ、本気でおっしゃっていますの?」

 「え、えぇ。」

 「……成る程。分かりましたわ。ならば掛かっていらっしゃい。ワタクシ、トップを譲るつもりはありませんから。」


 教師が来たのと同時に、ジュリーは席から離れる。

 凛々しく言い放った彼女からは、確かに試験トップの風格を感じさせられた。


 弟も成績優秀ということから、彼女の家自体が優秀なのだろう。

 これは中々手強いぞ。とは思うが、こちらも元の世界に帰りたい。


 まずは12月にある試験でトップを目指すため、勉強をしよう。

 この世界が乙女ゲーだということを加味して、危ない攻略対象に気をつけつつ。


―――――――――――――――――――――――

 グローリアス学園の試験は筆記と実技に分かれる。

 世界観がファンタジーであるため、マジックいわゆる魔法の存在もある。


 試験範囲がどうあれ、まずは授業が肝心だ。教壇の真ん前という特等席に座る俺は、気合を入れて金髪を高く束ねる。


 テキストを開き、教師の言葉を一言一句逃さないように集中だ。


 「あっ、」

 力むあまりに、ペンを一つ落としてしまった。拾おうと思い、椅子から降りてしゃがむ。


 「あっ。」

 どうやら誰かが拾おうとしてくれたらしい。手が触れてしまった。

 相手は直ぐに引っ込めたが、俺の目には確かに映った。傷付いた手首が。


 そこは赤黒くなっており、まるでリストカットの後みたいであった。

 恐る恐る上を向くと相手は件の攻略対象、アレセであった。


 「………ごめんね。」

 眉尻を下げたアレセは、何もなかったかのように椅子に座り直す。


 これはツーアウトだ。父親というワードに意味ありげに呟くことでワンアウト。推定リストカットの跡があったことでツーアウト。


 この男、危険だ。あまり仲良くなりすぎると心中か監禁、もしくはもっと恐ろしいイベントに巻き込まれる。


 今はとにかく勉強だ。そうしよう。こちらから近づかなければ親しくなるイベントなんて起きないだろうから。

 気を持ち直して、俺は椅子に座った。

 

―――――――――――――――――――――――

 授業を終えた俺は、復習に取り掛かっていた。すぐ前の授業ではなく、その前の授業分である。


 幸い、この世界の文字は読めるので勉強のしようはある。

 「あと4ヶ月……詰め込めばイケるな…!」

 「サトシ、ちょっといいかな?」

 

 にこやかに話しかけてきたのは、アレセであった。

 彼の爽やかフェイスは、俺にとって恐怖でしかない。何せなるべく関わり合いになりたくないのだから。


 「え、えとどうされました…?」

 「少し用事があってね。外に来てもらえるかな?」


 外への呼び出しをくらった。きっと、人気のないところへ連れて行かれるんだ。

 そこで俺は一体何をされるのか、考えるだけでも身震いする。


 「教室では、いけませんの…?」

 「うん。次の授業で使う物を取りにいかなきゃいけないからね。僕達、係りでしょ?」

 「あー!そうでした!そうでしたわね!えぇ、直ぐに行きましょう!」


 焦った。つい、先の授業で見たリストカットの跡について口止めされるのかと思っていた。


 係りの仕事というなら先に言ってほしい。妙な勘違いをしてしまった。

 アレセを前にして、俺は教室を後にするのだった。


 


 

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