手紙
親愛なる貴方へ、
このような形でお別れをする意気地のない私をどうか許してください。
私の口から直接貴方に伝えなければいけないはずなのに、情けない私には,とうとうできませんでした。
貴方が私を大切にしてきたことは痛いほど伝わってます。
だからこそ、愛する貴方の失望した顔や悲しむ顔を想像するだけでも辛いのだから、この残酷な言葉を届
けて目の前で貴方の苦しむ姿を見るには、私は弱すぎました。
私はずっと好意の上位が愛だと思っていました。
初めて貴方と出会った日から、私の塞ぎ込んでいた世界は徐々に、貴方の手によって文字通り眩しいものへと変わっていきました。
この家に来た時、本当はすぐに出て行こうとしましたが、貴方がそばにいてくれることがあまりにも心地よく、凍った私の心を最も簡単に溶かしていくものだから…、
だからつい、長居をしすぎてしまいました。
貴方が愛してくれたこの三年間は、本当に私の宝物です。
でもどんなに愛があっても恋がなければ、それはとても哀しいことに気付きました。
あなたが私をみる目はいつも慈愛に満ちていましたが、そこに心揺さぶる感情はなかったように思いました。
私が消えて、あなたは怒るかもしれません。
手塩かけて育てたかわいい雛鳥が、恩を忘れて振り返りもせずに飛び去っていったと受け取るかもしれないですね。
でも知ってるんです、私。
貴方が本当に大事にしたい人が誰なのか。
私をそばに置いている理由がなんなのか。
私は甘んじて貴方の瞳に映る誰かの影を受け入れてきました。
偽物の感情でも、貴方は今、私を愛してくれている。
そんな思いで過ごしてきましたが、ついに、あなたの唯一になれないということに耐えられなくなってしまいました。
結局私は望み過ぎてしまったのです。
私を…、私だけを見て欲しいと思ってしまいました。
紳士的に愛情を向けられるのではなく、乱暴にでもいいからあなたの本当の感情が見たかった。
私だけへのむき出しな感情が。
ごめんなさい…、本当はもっと感謝の言葉を綴りたいのに不満しか伝えられていませんね。
こんな自分勝手な私に今まで付き合ってくれてありがとうございました。
あなたのそばで生きてきたこれまでの時間は、私にとってかけがえのないものだったし、一生忘れることができない時間です。
梓さん、
面と向かって直接話せない私がいうことではないと重々承知してますが…、
自分が本当に欲しいものは、諦めちゃダメなんです。
一年一年がだんだん短く感じていく中で、人生百年世代のわたしたちでもあっという間なんですから。
何より無事に明日を迎えられるかすら定かじゃないんですよ?
命ってそれぐらい脆くて、でもだからこそ尊いものなんです。
梓さんが求めてるものを、どうか大胆に追いかけてあげてください。
荊莵