絶望への一筋の光
森の方向感覚なんてない俺はただひたすらに歩き続けた。俺自身の変化は何か起こっているかどうかと思い、体を色々調べてみたけれど、俺は何一つ変わらずヒキニートのままらしい。ヒキニートというか、不登校学生か。
まあ俺みたいな人間、こんな森で死ぬのが良いのかもしれない。
でも死への恐怖心はぬぐい切れない。死んでもいいと思っていても、人間の本能が生きようとしている。最悪だ。
夜が更け、恐怖心はさらに増した。でも俺には幸いスマホがあった。充電は百パーセント。もちろんスマホは圏外。一応電話をかけてみたものの、かかるわけがない。ネット世代の俺にとってネットが使えないなんて、苦痛すぎる。仕方がないから、Wi-Fiが無くてもできるゲームを一晩中していた。
水分補給のためにレッドブルを少しとポテチを数枚食べただけだ。
それからというもの三日俺はそうやって生き延びた。とうとうスマホの充電が二日目の夜になくなった。
「ああ!クッソ!」
苛立ちに襲われてスマホを地面に投げ捨てた。
「なんで俺には転生ボーナスないんだよ。能力も何も、スキルも」
何か変わるために転生したんだろ。神様は俺のことを変えてくれようと転生させてくれたんだろ。それなのになんで特異点の一つもないんだ。
これじゃあ、まるで前の俺とまんま一緒じゃないか。変わるきっかけぐらいくれたっていいだろ。
その日は地面が削られた人一人入れそうな空間が見つかり、そこでどうにか数時間眠ることが出来た。
朝方、とうとう食事も無くなり、死ぬのかと思いながら木の下に座り込んでいると、なんだか微かに川の音が聞こえてきた気がした。
俺は必死で音がする方へ走り、とうとう川を見つけた。
「や、やった。やったぁぁぁ!!」
レッドブル以外の水分を取ることができ、俺は川の中へ頭を突っ込み、とにかく水を堪能した。こんなに水が美味しいと思えたことはなかった。
川を降りていけば人里につけるかもしれないと安堵に包まれたときだった。よくわからないが体が強張り、後ろを振り向けなくなった。
生き物っていうのは、殺気っていうのを感じ取れるんだな。
荒い鼻息が聞こえてくる。
やっと生きる希望が見えてきたというのに死ぬのか。恐る恐る背後を見てみると、そこには意味が分からないほど大きいクマのような生物が仁王立ちしていた。
俺はやっとマタギがどれだけすごいかを思い知った。
そいつと目が合ってしまい、俺はもう死を覚悟した。
無理だ。俺はここで死ぬ。ほんとクソみたいな人生だった。友達もいない。彼女もできなかった。運動音痴でネトゲしかできなくて。
漏らしそうになった時、突然クマの振り下ろす前足の速度が遅くなり、周りが白黒になった。
なんだこれ。何が起こってるんだ。時間がゆっくり動いている。しかもクマだけ時間が戻っているようだ。
唖然としていると唐突に右から鋭い閃光がきらめいた。その瞬間時間は元通りになり、世界には色が戻った。その閃光は一瞬にしてクマの心臓を打ち抜き、クマは川に倒れこんだ。
「危なかったね。大丈夫?」
太い木の杖を持ち浮遊する少女が、俺には女神のように思えた。