ムード ──ふれんず
修学旅行前──。2組の吉村さんが拓也に告白するというウワサを聞いた。
なんの冗談! 拓也は私とずっと一緒にいるのに。
ただお互いに好きって未だに言えないんだけどサ……。
拓也だって私を好きなハズなんだ。確信はある。
互いにほぼ一緒にいる。高校だって同じ場所を選んだし、行きも帰りも一緒。休日だって、呼べば来てくれる。ホラ。今だって。
近所の公園のブランコ前に立つ私。
公園の入口から大きな手を振りながら現れたのは拓也。いつものようにオシャレだ。ふっくらした黒とオレンジのジャンパーはお気に入りなのだ。
「よーす。どうしたー春子ぉ。話ってなんだ?」
相変わらずとぼけたヤツ。こんな軽いノリだと告白もしづらい。
「あれか? パンバーガーの金? ちゃんと返すよ、再来月」
は? 来月じゃねーのかよ? 120円ぽっちだぞ?
「来月、買いたい服あんだよな~。買いに行くとき付き合えよ」
「ハイハイ。分かった。いいよ。話っていうのは──」
「あれだべ? お前が犬のウンコ踏んだ話。あれバラしたの俺。ゴメン!」
「知ってたわ! 拓也しか知ってるヤツいなかったもん!」
「だからゴメン! でも大ウケ!」
腹を抱えて笑い出す拓也。ダメだコイツ。子ども過ぎる。告白どころじゃなくなった。第一ムカつきがハンパない。
なんでこんなヤツ好きなんだろう。
格好つけてるだけだし、ガキだし、自分の話しかしない。
なんで? こんなヤツ……。
ん? ん? ん?
「クッサ!」
「え?」
「クサイよ、アンタ」
「あーそう。昼に父さんとステーキ食ってきたんだ。ガーリック山盛りステーキ。400グラムでこんなに厚いヤツ。サイコーでした。ステーキ、サイコー」
「しゃべんな! クサイ!」
「えー、どちてどちて~? ハルちゃんちゅきちゅき~」
クサイ体で抱き付いて来やがった。匂いが染みつく。クソっ! コノヤロぅ!
ん──?
こいつ、今、好き好きって言わなかった?
おどけてるけど。いつもの遊びの延長だけど。ドサクサまぎれ?
「好き!」
「え?」
「拓也のこと!」
拓也は私の体を慌てて離して赤い顔をした。モゴモゴと口を動かして私を見つめたまま固まった。
「タク……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってろ!」
拓也は身をひるがえして家のほうへと駆けていった。唖然──。
なにを?
なにを待ってろって?
告白だよ? 告白。
それをほっぽり出してどこ行った?
10分。拓也は息を切らして戻ってきた。
顔は赤いまま。
荒い吐息のまま、拓也は拳を握って私に叫んだ。
「春子さん、好きです! 付き合ってくださぁい!」
はっ?
それさっき、私が言ったけど?
「うん?」
「いいの?」
「いや、なんでアンタが自分が最初に言いました。みたいな顔してんのかなぁって思って」
「いやぁ~、ハルに言わせたら申し訳ないなぁと思って。一番キマる時を狙ってたのに」
「それが今なわけ? ん? クサッ!」
「え? クサイ? 口臭予防剤30個噛んで、父さんのコロン振りかけてきたのに」
「限度があるでしょ? うわー。くーさい。帰る」
「おいおい、どこ行くんだよ」
「帰るよ。臭いもん。また今度、一番キマった時に告白して」
「なんでだよ。オーケーだろ?」
「いや。やっぱりいい」
「ハール。いいよな?」
「近づくなって。ニンニクとコロンの臭いで吐きそう」
「キスしようぜ」
「無理。歯も磨いてないでしょ?」
「まあまあ、そう言わずに」
「いーや!」
私は拓也の体を突き飛ばした。無様に尻餅をついて私を見上げている。
「そーゆーの嫌い」
私は背中を向けて走り出した。このまま流されて行くのなんてイヤ。
しばらくして夜になると、拓也から着信があり、来週のデートの申し込みと、明日お金を返すということだった。
最後のは別に言わなくていいんだよ!
私はコイツとやってけるのかなぁ……。
ちょっとだけ溜め息が出た。
でも一緒に回った修学旅行は楽しかった、です。