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4:(元)夫の襲来 その2

夫の言い訳

「ああ……会えた」


 夫は現れるなりそんなことを言い出した。は? わたしに会いたかったということですか? なぜ?


「ええと……」


 わたしはこの人を知らないふりをしなくてはならないので困ったように首を傾げてからお父さんを見ました。


「お貴族様、あのですね。娘のことをご存知、という事ですか?」


 お父さんも戸惑ったようにわたしを見て夫を見る。夫は一つ頷くと改めて名乗ってから深呼吸をした。


「これから話すことは信じられないかと思うが」


 前置きをしてから夫は前のことを話し出した。……やっぱり記憶があったということですか。そうですよね。そうじゃないとわたしに会おうなんて思わないですものね。

 ただ、夫の気持ちを交えた前の話は、随分とわたしの記憶とは違うもの。

 それはそうか。わたしの記憶には夫の気持ちなど端的なものしか無かったのだから。でも今、夫が話しているのは夫の心情が含まれている。


 例えば。わたしとの婚約が結ばれたことは、金銭的な支援を元にしたものだから仕方ないとはいえ、前の婚約者との仲を引き裂かれたと思ったことから、初顔合わせは睨みつけながら対応したこと。

 まぁそうだとは思ってました。

 真っ直ぐな目は……強過ぎる視線でしたから睨まれているとは分かっていましたよ。


 ただ。その後の夫の話は心情を聞かされると、疑問しか浮かばないものでした。というのも。

 婚約期間中にわたしと会う日に元婚約者さんが押し掛けて来たので仕方なく対応した、とか。……笑顔で話してましたよね? その後わたしになんの説明もなかったですし、わたしとは会話らしい会話なんてなかったですよね?

 結婚式で綺麗なわたしを見て、借りたお金を我が家に返すまではわたしとは愛し合う夫婦にならない、と決めたこと。……綺麗なわたし? 一言も言われませんでしたよね?

 上手く話が出来ずに、つい素っ気ない態度を取ってしまう結婚生活。……わたしだけに素っ気ない態度だったのは確かですね。

 結婚しても元婚約者さんが押しかけて来るので、誤解されないように彼女の実家に直ぐに送って行っていたこと。……というか、元婚約者さんってあの時点というかそれより前に結婚していたわけですから既婚者ですよね?

 元婚約者さんが、自分達の仲を引き裂いた、とわたしに敵意を持っていたために、彼女をわたしに近寄らせないために彼女の気を惹いていたこと。……いや、あなた自身がわたしに対して彼女との仲を引き裂いた女だと思っていましたよね?


 などなど。

 えええ……

 説明を聞いても聞いても理解出来ないわたしが、おかしいのでしょうか。それとも現在十一歳という子どもの年齢だから大人の思考を理解出来ない? いやでも、わたしから見た夫は、わたしを嫌って憎んで恨んでいるから、素っ気ないし冷たい視線だし言い方もキツかったですよね。優しさとか思いやりとか無かったですけど。甘やかさなくてもいいけど、少しくらい丁寧な口調で話すとか、素っ気ない態度が自分で引っかかるのなら謝るとか、謝れなくても花束一つくらい寄越してみるとか、手紙を書くとか、執事か誰かに伝言を頼むとか……出来たと思うのですが、そんなことも無かったですよね?


 まぁ執事辺りに伝言されても、それが夫の心情なのか疑っていたとは思いますけど。でも、わたしはなんにもしてないとしか思ってないんですよね。なんにもしてない、ではないですね。素っ気ない態度。冷たい視線。きつい口調。端的な言葉。……こんな生活だったのに、夫視点の心情を聞かされると、わたしの事は蔑ろにしていたわけじゃない、とでも言いたそうですよね。……客観的に見ても蔑ろにされていたと思うわたしですが、それはわたしの心が狭いのでしょうか。


 というか。

 その心情の全てに対して本当に? と疑うのですが。


 ……ああそうです。

 夫の心情を聞かされても信じられない。

 これこそがわたしと夫との関係性を示すものではないでしょうか。

 つまりまぁ、こんな説明をされても……今更? としか思えないんです。

 今更説明されても、遅いんですよね。

 だって夫の話の何一つ、わたしの心に良い方へ響くことが無いのですから。

 結局のところ、夫が結婚初日に告げた言葉がその後のわたし達の関係性を物語るわけで。わたし達の間に互いを思いやり信じ合える関係を生み出さなかったというだけのこと。


 だから、夫が弁明をどれだけしようとも、わたしはその言葉のどれも信じられないし、疑うだけ。そしてそれがもし真実だったとしても……今更説明されてもね、とそれこそ肩を竦めて聞き流すだけです。わたし達はそんな関係性しか築いてなかった、の一言に尽きます。

 しかし。

 一つだけ、夫の話を信じてみようと思うことがありました。正確に言えば、信じてみようというか、そういうことだったのか……と納得したことというか。


「結婚して一年半程した頃でした。妻は屋敷内で殺されました」


 そう。

 わたしの死に纏わるお話。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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