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4:(元)夫の襲来 その1

 十一歳の誕生日から五十日を過ぎた頃、お父さんが変な顔をしてわたしを見てきた。なんでしょう。


「お父さん?」


「ちょっと訊くが……お貴族様と知り合ったことがあるか?」


 お父さんの質問に首を傾けてどういうこと? と仕草で伝えます。「だよなぁ。そうだよなぁ」 お父さんは仕切りに首を捻る。なんなんでしょうね。


「お父さんなんですか?」


 お父さんが隣に座っているお母さんと顔を見合わせてから手紙を出してきました。手紙?


「わたしに、ですか?」


 よく分からないのでもう一度今度は反対に首を傾けます。お父さんが「ちょっと違う」 と言って、お父さん宛だけど、わたしに会わせて欲しいという内容だと書いてあった、と。貴族、ねぇ……。嫌な予感しかしないんですけどね。ちなみに尋ねる前にお父さんが口にした名前は……夫でした。……やっぱりか。でもわたしは知らないふりでまた首を傾けてみました。


「やっぱり知らないんだな?」


「聞いたことのないお名前です。お貴族様じゃ、会わないとダメですか?」


 わたしは会いたいとは思わないんですよね。愛してましたけど、犯人が夫では無かったとはいえ、殺された記憶があります。あの出来事……あれでわたしの人生が終わった気がして、何となく夫への想いは終わりを迎えたような気持ちなので、今は全く会いたいとは思いません。


「断る事は出来るが、何故、お前の名前を知っていてお前に会いたいのか知らないと、お前が拐われてしまったら困るし」


 まぁそうですよね。ということは会うという事ですね。了解です。


「お父さんも一緒?」


「そうだな」


 それならわたしは迂闊な事を言わないようにしておきましょう。わたしは前の記憶が残った十歳のあの日から時々お父さんとお母さんに「わたしもお父さんとお母さんみたいに好きな人と結婚する」 と言っています。前から言っていた記憶があるので、まだそんなことを言っているのか、と苦笑するお父さんと、そうね、それがいいわ! と喜ぶお母さんは、結局結婚は好きな人でいい、と納得。

 お貴族様から理不尽に結婚を押し付けられそうになったとしたら、家の財産を相手にくれてやるか、国を出るから、安心しろ、と言うお父さんはかっこいいですね。本当に国を出るのは難しいことだと思いますが、それくらいの気持ちで、わたしの結婚は自由で良いと決めてくれたのでしょう。


「もしかして」


「どうした?」


 お母さんがハッとした顔をします。お父さんが尋ねれば、お母さんは深刻な顔で切り出しました。


「この前、どこかの領地が水害の影響を受けた、とか言っていたじゃないですか。いくつかあって、王家の領地もその中に……と」


「ああ。……まさか、その支援としてこの子を嫁にするから金を出せ、と?」


 あの水害はそういえば、今の時期でした。

 それでわたしより七歳年上の夫と元婚約者さんは結婚が延期になったんですよね。それから復興に力を入れようとしたものの、貯えていたお金では賄い切れずに王家に支援を願ったり他家に支援を願ったり。王家からも他家からも融通された支援金でも賄い切れなかった。尤も王家も王領の復興を優先していたし他家も自領が大事ですから、支援金はかなり少なかったのですけど。


 だから我が家に話を持って来たんでしたね。それで我が家からかなりの額を借りた夫の家が返済金を減額……というかなし崩しを狙っての、わたしとの婚約話をわたしが十五歳の頃に寄越したのでしたっけ。その時に元婚約者さんとは婚約解消をしたのでしたね。そして十六歳で婚約。貴族も平民も通う学園を卒業したら結婚する、ということで十八歳で結婚しましたっけ。

 これらの話は、結婚する時にお父さんが教えてくれました。あら、結構詳しく話をしてくれていたのですね、お父さん。


 もしかして、わたしがきちんと聞いていれば結婚は回避出来たし、仮に結婚しても離婚も簡単だった、とか……?


 だって、こんな詳しく話をしてくれていたのですから。つまりわたしが結婚を逃げても何の問題もなかったわけです。精々、夫と夫の両親や関係者が恥を掻く程度でした。それなのに、夫に一目惚れしたわたしは、お父さんの話をよく聞かず……それどころか誰か知らない人に殺されたわけです。


 もしや……ただの、わたしの自業自得、というやつではありませんか?


 自業自得ですか……。

 それなら誰を責めるのもおかしなもの。犯人が誰であろうとどうでもいい、と思ったわけですし……新しいわたしの人生について考えましょう。

 そのためにも夫と会うのはこれっきりというのが良いと思います。


 そんなわけで夫と会うことを決めた日。わたしはお父さんと一緒に応接室で夫を待っていて……やがて現れた夫は、当たり前かもしれませんが初めて会った時よりも若くまだ少年のあどけなさを何処かに残していました。ただ、わたしが一目惚れをしたあの真っ直ぐな目は変わりませんでした。

 変わらないけれど。

 わたしは惹かれなかった。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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