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2:前の結婚の裏話 その2

 ええと。前回もこんな話が有ったとしたら……どうしていたのでしょう。祖父母も叔父もわたしが十二歳になった頃には関わってなかったような……。いえ、祖父母と叔父は何かがあって交流を絶ったはずです。


「だから早くあの子に結婚相手を見繕って、養女には出来ない、と断るつもりだろう?」


「そうでなくてはあの子が両親と弟に都合良く利用されてしまいます」


「うん。君の気持ちは分かるが。おそらく結婚相手を見繕うことはしなくても大丈夫だ」


「どうしてでしょう?」


「君の実家は、何度も忠告したが……どうしても貴族の家と繋がりを持とうとするのを止めないんだ」


「それは……男爵家の?」


「そうだ。あの家は娘が居るが……幼馴染の婚約者が居て結婚間近だ、と言っているのに君の弟を近寄らせてる。いや違うな。君の弟が一目惚れした男爵家の娘に言い寄っているのを君のご両親が止めない、というのが正しいか。君にも話して止めるよう二人で言ったが、聞き入れない。だから君には悪いが君の実家とは縁を切る」


「……もしかして、私の実家は」


「男爵家の娘の幼馴染で婚約者の家からかなり厳しく叱責されている。それでも君の弟は……」


「男爵家といえども貴族。実家は我が家程ではないけど、そこそこに裕福な家です。でも平民。……潰されますのね」


「うん。君には残酷だろうが」


「いいえ。私はあなたの妻ですし、両親と弟の考え方にはついていけませんから……」


 そこでお父さんとお母さんが黙りました。随分と重い話でした……。まぁ私も弟達もまだ起きて来ない時刻だから、わたしに聞かれているとは思ってなかったでしょうが……。


 叔父が、わたしの夫の元婚約者に言い寄っていた。これはわたしも知っています。このことを両親から聞いていたのでわたしは夫から殺したい程憎まれ、恨まれ、嫌われていると思っていたのです。


 思い出しました。

 二年後。お母さんがある日、目を真っ赤にさせながら、おじいちゃんとおばあちゃんとおじさんは引っ越したの、と教えてくれたんです。おそらくそのときには祖父母と叔父は夫の家と元婚約者さんの家によって潰されたのでしょう。祖父母と叔父は王都立ち入り禁止か何かの憂き目に遭ったから、会わなくなったのだと思います。

 その後、夫と元婚約者さんは結婚するはず、でした。確か結婚式まで半年くらいだったような……。


 ところが。

 その半年間で夫の家である男爵家の領地に水害が起きてその復興のための支援金が夫の家だけでは賄いきれず。元婚約者さんの家は支援金が出せる程ではなかった。というか、元婚約者さんの家は夫の領地と隣同士で元婚約者さんの家も夫の家程では無くても領地は水害の被害に遭ったから、支援出来なかったのでしたね。

 それで互いの家同士で復興の目処が立つまでは結婚を延期としたわけですが……。

 夫の家は支援金を何処からか借りなくては賄えない。

 王家に願い出ても困ったことに、その水害が王家の所有するいくつかの領地の一つでも起こっていたので、王家は王領を優先したため、支援金を貸せない。


 そんなわけで仕方なく富豪の平民に支援金の負担を要請して来たわけです。

 当然、我が家はその一番手。

 母の実家が迷惑をかけたことを夫の家は勿論知っていたので、我が家に最初に声をかけたのでしょう。

 だからお父さんは支援金を出さざるを得なかった。でもお父さんも辣腕を振るう経営者。いくら妻の実家が迷惑をかけたとはいえ、縁は切っていたし、妻の実家を潰すことで迷惑は無かったことになったはず、と夫の家と交渉。


 結果として、夫の家との話し合いで、支援金は貸すことにしたのです。何年かかってもいいから返すことで。

 しかし、かなりの額を支援金として貸したので十年かかっても返せるか分からない事に気付いた夫の家は、わたしを夫と結婚させることで、なし崩しを狙ったとかお父さんから聞いた記憶がありますが。


 夫と相思相愛の元婚約者さんは、夫と結婚することを夢見ていたから、夫と婚約解消することはかなり泣き縋ったそうです。……結局、婚約は解消され、元婚約者さんは、割と人気があったらしくて子爵家の跡取り息子さんに熱烈に口説かれて婚約したわけですけども。

 それから夫とわたしは婚約して、二年後に結婚。その後一年半程でわたしは誰かに殺されました。


 ……うん。母の実家がどうなっていたのか知りませんでしたが、叔父が夫の元婚約者さんに言い寄って迷惑をかけたことは聞いてましたから、それで支援金と引き換えにわたしが嫁ぐと聞かされましたが……。

 この話を聞くに、わたしは夫と結婚する必要は無かったのでは?

 お母さんの実家と縁は切れてるし、報復もきっちりしてますよね? それなのにその話を持ち出して支援金を出すように迫っておきながら返せないと判断してわたしを嫁に迎え入れることを考えた夫の両親って……酷くないですか?


 それなのに、わたし、夫の両親から事あるごとに「平民の娘が我が家の嫁なんて」 と言われてましたね。義父母共に言われてましたね。……なんていう理不尽。おまけにそう言われているのを知っている夫は、見て見ぬふりというか聞こえないふりというか……。

 わたし、我慢する必要があったのでしょうか?

 叔父のやらかしの尻拭いだと思ってましたけど、全く関係なかったのでは?


 こんな裏話、お父さんもお母さんもきちんと話しておいてくれたなら、わたし、あんなに我慢しなくて済んだんですけど。それに、夫がわたしを恨むのも憎むのも嫌うのも仕方ないと思っていましたが、この裏話を聞くに、わたしが恨まれるのも憎まれるのも嫌われるのもおかしいですよね。夫が恨むのも憎むのも嫌うのも、自分の両親ではないの?


 初夜もなく一年半白い結婚であることも仕方ないと思っていましたけど。


「君と愛し愛される夫婦になる気はない」


 と結婚式終了後に言ってきたと思ったら、冷たい視線を向けられ、始まった結婚生活も殆ど一緒の時間なんて無いし、偶に会えば睨まれてましたけど。


 それでも我慢していたのって馬鹿みたいですね、わたし。


 ……でも、更に馬鹿なのは。

 婚約後の初顔合わせで、夜のように深い黒の髪と同じ色の真っ直ぐで強い目に引き込まれて一目惚れをしてしまったわたしなのでしょうけれど。


 愛し愛される夫婦になれずとも、白い結婚であることも、嫌われても憎まれても恨まれても、それでも。


 一目惚れをした夫の隣に居られることを嬉しく思ったわたしは愚かなのかもしれません。その恨みや憎しみで、いつか殺されても、夫ならば……と思える程度には強烈な一目惚れで。殆ど夫婦らしい生活などなかったのですが、それでもわたしは愛していました。夫に殺されるのは構わない、と思えるくらいには。

 でも多分。

 今、時が戻ったか何かして夫との生活を客観的に思い返してみれば。

 夫と幸せな夫婦生活を送りたい、と願う程には夫の事を愛していなかったと思います。

 それもそうですよね。


 愛し愛される夫婦生活は送らないと言われ、白い結婚で、冷たい視線を向けられ睨まれ、殆ど一緒には居ない生活だったのですから。未来に希望を持つ程には夫のことを愛してなかったのですね、わたし。


「お姉ちゃん?」


 ……長い長い思考の海から復帰したのは、弟の声が聞こえてきたからでした。

 結構長い両親の会話とわたしの思考だと思っていたのですが、時刻を見たらあまり長くもなかったようです。

 弟二人が食堂の前で立ち止まっているわたしを不思議そうに見て来たので「眠くてぼんやりしちゃった」 と笑えば、弟二人も笑う。そしてわたしと弟達は、朝ごはんをお父さんとお母さんと一緒に摂るのです。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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