2:前の結婚の裏話 その1
取り敢えず、着替えましょう。
わたしが結婚した夫は、没落寸前の男爵家の跡取りで、わたしと結婚することを条件にわたしのお父さんがいくらかの借金と支援金を出資しました。尚、わたしのお父さんは農場をいくつも持っていて、さらにその農場で採れた野菜のいくつかをジャムにしたりクッキーにしたり、そんな工夫をして野菜嫌いな子も食べられる野菜と銘打って販売している経営者で、平民ですが富豪と呼ばれる方。
わたしは弟が二人の三人兄弟の一番目。弟が下に二人。お父さんはわたしを可愛がってくれました。わたしが結婚するまで、弟二人とは、付かず離れずだったような……。ヤンチャな弟達に振り回されていたのであまり仲良くなかったのです。わたしも弟二人も互いを嫌いではないし、歪み合ってもなかったのですがわたしが二人と距離を取ってました。
なんて言えばいいのか。
ヤンチャな二人と一緒に居られる程わたしに体力が無かったというのも有ります。男の子と女の子、としてお父さんもお母さんも私達を区別して育てていたことも関係するかもしれません。お父さんもお母さんもわたしを可愛がってくれていたとは思いますが……貴族でなくても家の跡取りは男、という考えが両親に有ったからでしょうか。
今のわたしは十歳ですから、弟は七歳と五歳ですね。
着替えながらそんなことを思い出して来ました。富豪のお父さんは、使用人を何人も雇っていましたが、基本的に平民の感覚ですから子ども達にも自分で出来ることは自分でやらせる、という考えの方です。だからわたしも着替えや顔を洗う、ご飯を食べるなど出来ることが増えたら使用人の手は借りずに自分でやっていました。
取り敢えず、お腹が空いてますし、食堂へ行って朝ごはんを食べましょう。
「ねぇ、あなた」
食堂に入る直前にお母さんの声が聞こえて来ました。どうやらお父さんと二人で既に食堂に居るようですね。そういえば、いつも二人は早く起きてましたっけ。
「なんだ」
「あの子ももう十歳です。そろそろ嫁ぎ先を……」
「まだ早い。我が家は貴族ではないし、早いうちから結婚相手は見つけなくても……」
「それは分かっています。出来ることなら私だってあの子にいつまでもそばに居て欲しいと思ってます。でも」
「……君の弟か」
「……はい」
お母さんの弟? そういえば、叔父にあたるあの方は頻繁に我が家を訪ねて来られてましたね……この頃。
「あなたもご存知のように、弟は私の両親が可愛がり過ぎて甘やかされて育ちました。私と十二歳も年が離れているから余計に可愛かったのでしょう」
「そうだな。まぁその割には怠惰な生活を送っている所為でまだ十八歳だというのにかなり年を取って見えるが」
お父さんとお母さんは平民が通う学校で出会って結婚した同い年の三十歳。十二歳離れた叔父は……十八歳ですね、確かに。危うく声を上げる所でしたが。わたしの記憶を探してみれば叔父はこの頃、外見はお母さんよりも年上に見えました。お母さんの弟だと分かっていたから一つか二つ下くらいだと勝手に思っていたのに。まさかの十八歳。
どうしたらそんな老けて見えるのでしょう。
お父さんの話では怠惰な生活を送っているとのことですが……。そういえば、記憶を探してみれば肌荒れは凄く目の下に隈がくっきりとしており、でも身体は太っていましたね……。
「ええ。私が何度も両親や弟に暴飲暴食は止めるように話しましたし、医者から病気になってもおかしくないから食事は正しく摂って規則正しい生活を送るように言われているのに、両親が甘やかすから老けて見えるのです。睡眠不足なのは夜間に飲み屋を歩いているのが原因です」
……お祖父さんとお祖母さんって、そういえば弟達にも甘い人でしたね。
「うむ。男の子を甘やかしてしまいがちなのかもしれんな、君の両親は」
「ええ。娘の私も孫のあの子も女の子だから嫁に行く。嫁に行ったら夫に仕えるのが嫁、という考え方ですから女の子はあまり甘やかさないと決めています。でも男の子は跡取りという考えだからずっと家に居るので甘やかしてもいい、と考えているのでしょう」
「それもそれで困った考えだが……」
「ですから私は息子達の子育てに口を挟まないように両親には言っています。でも」
「うん。それが気に入らないのだろうね。君の弟を通してあの子を養女にしようと考えている」
「はい。弟はあなたに言っても聞いてもらえない、と分かっているので私にその話をしてきます。あなたに相談していまが……あの両親の養女で弟の妹にするなんて。両親も弟も何を考えているのかさっぱり分かりません。きっとあの子を養女にすることであの子を通して息子達の子育てに口を挟もうとしているような気がします」
えー……。
お母さんの話で衝撃的な事実が判明しました。
私、お祖父さんとお祖母さんに良いように利用されようとしているんですか?
祖父母の養女で叔父の妹って……。
両親不在ならば兎も角、若しくは祖父母の元に行く方が私に利があるなら兎も角。
祖父母に利があっても私には何一つ無いですよねぇ。
こんなこと、前回の生では知りませんでした。
お読み頂きまして、ありがとうございました。