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1:死に戻り

「う……ん」


 太陽の光が目に入ってわたくしは眩しさに目を開けました。カーテンの隙間から丁度当たったようです……ってアラ? わたくし、夫の目の前で誰かに首を絞められていましたよね。意識を失ったから死んだと思いましたが、息を吹き返したのでしょうか。手を首に当てますが紐は有りません。鏡を見れば首に痕が有るか判りそうです。起き上がってみて驚きました。視線が低いのです。どういう……?

 見回せば、結婚前のわたくし……いえ、わたしの部屋でした。平民の家では一般より少し広いわたしの部屋。これはどういう事でしょう?

 お気に入りだった青い羽根のペンダントは、わたしが十歳を迎えた時にお父さんからもらいました。誕生日プレゼントとして。そのペンダントがやけに綺麗です。結婚する二年前にペンダントのチェーンが壊れてしまい、お父さんに直してもらおうと思っていたら、お父さんが別の物を買うから、と捨てるように言ったので捨ててしまったペンダント。


 捨てるのは勿体無いと思ったのですが、大事に使ってくれてありがとう、とお父さんが言ってくれました。ペンダントにも大好きだったよ、とお礼を言って捨てると良いよと言って捨てたペンダント。それがこの部屋に有る。どういう事でしょう? そう思って立ち上がりかけたわたしは、自分の手が小さい事に驚きました。まるで子どものような大きさです。恐る恐る立ち上がってベッドから下りれば、わたしの目線はかなり低く身体付きもまだ女性らしさが有りません。

 わたしは……一体何歳なのでしょうか。

 ペンダントがあることから十歳を超えたのは確かですが。夫と婚約したのは……わたしが十六歳の時でした。七歳年上の夫には当時別の婚約者様がいらっしゃいましたが、相思相愛だったとわたしが婚約すると親切な方達が教えてくれました。わたしは……二人の間を引き裂いた、と陰口を叩かれたものです。いえ、それは兎も角。


 十歳の誕生日は過ぎていて、しかし夫と婚約する十六歳の時から結婚した十八歳まであまり背は伸びませんでした。そしてわたしが誰かに殺されたのは、わたしが夫と結婚して一年と半年は過ぎた頃合いで、その頃も背は変わりませんでしたから、この目線の低さは十六歳よりも前でしょう。そういえばわたしは字の練習を兼ねて七歳から毎年日記を付けていましたね。毎日の出来ごとを少しでいいから付けると良い、とお母さんに言われて。婚約し、結婚してからもその習慣は変わりませんでした。いえ、そうではなくて。

 七歳から日記を付けていたのですから、十歳を過ぎたらしいわたしも、付けているはずです。今の“わたし”が今までとかわらない人生を送っていた“わたし”ならば日記の置き場所も変わらず、本棚の一番下の右端のはずです。


 ……思っていた通り、有りました。

 日記帳はお母さんと毎年買いに行っています。七歳の時が一冊目で、八歳で二冊目。……既に四冊ありました。つまり、十歳ということ。日記帳の帳面が最後まで終わらなくても、誕生日には新しく買って最初から書いていました。では四冊目の日記帳は十歳の誕生日を過ぎてから何日過ぎているのでしょう。

 一応九歳の時の日記帳をパラパラと読み返してみましたが、この頃のわたし自身の筆跡ですし、九歳の誕生日に新しい鉛筆をもらっていることが書かれています。それまで使っていた鉛筆より柔らかい仕上がりで書きやすいものだ、と感想を書いてます。わたしの記憶と同じ。ということは、やはり“今のわたし”は、“今までのわたし”と同じだと思っていいのでしょう。

 十歳の日記帳を開くと誕生日にペンダントをもらったことが書かれています。とてもきれいでつけてこわしたら、どうしましょう。と。……そうです、貰った時はそんなことを考えていましたね。お父さんが壊れないように使ってくれればいいよ、と言ってましたっけ。そして次の日は早速ペンダントを付けて、お父さんとお母さんに見せて褒めてもらったことが書いてあります。


 仕事に行く寸前のお父さんに、つけたわ、とはしゃいで報告したことを思い出しました。心が温かくなりながら次の日、その次の日……と読み進めて、止まりました。十歳の誕生日から数えて十二日目は真っ白。つまり、今日だということでしょう。成る程、だからペンダントはあんなに綺麗だし、わたしは視線が低いのです。納得する、というものです。そして九歳からの日記を読むに、私は過去に戻った……らしい、と判断します。細かなことまでは覚えていませんが、大体わたしの中にある記憶と“今”のわたしの記憶に違いが有りませんから。


 そうなると……わたし、一体どうして過去に戻って来たのでしょう?

 死にたいわけではなかったのですが、夫に殺されるのであれば仕方ない、と思うくらいには、毎日死を覚悟していました。どうやら夫ではない人に(多分)殺されたようですが、生きていて良かった! なんてことは有りません。夫のことは……殺されても仕方ない、と割り切れる程には愛していましたが、夫と二人で幸せになりたい、と願う程愛してはいませんでしたし。

 正直、生き返っても“わたし”の人生をやり直したいとは思いませんし、再び夫と会って夫と結婚したい、という願望もないのです。


 寧ろ、あのまま死にたかった。

 というのが本音でしょうか。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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