さよなら
ゆらり、ゆらりと煙が空へと昇ってゆく。御線香の、あの独特な匂いがやけに鼻についた。母が誰かとしゃべっている声が遠く、水の膜を通して聞こえる。あぁ、人が亡くなったのだ。私の、祖母が。
祖母が危篤であると連絡が入ったのは、秋風に枯葉が混ざり始めたころ、数日前のことであった。ここ数年来、元気だった祖母はその元気な姿が幻であったかのように病気がちとなり、ついには入院との運びとなった。溌溂とした体も、いつの間にかやせ衰え、はきはきとした喋りも、ゆっくりと、どもるようにさえなっていた。
もう、年だったのだ。祖母はもう、90にほど近くなっていた。たしか、来年の誕生日で90であっていたと思う。だから、89だったはずだ。
祖母、あまり関わりのない人であった。小さい頃は、かまってもらっていたような記憶がうっすらとはあるのだ。うっすらとは。中学になってからはもうほとんどかかわりがなかった。母が喋っているのを傍らで聞くぐらいしか。
だから、正直に言ってあまり実感がない。祖母の死というよりは、祖母と未来永劫会えなくなるということに。
いや、ただ他人や知り合いに扱いが近いのかもしれない。ゆらゆらと煙が昇る。ただ、泣く母をしり目に私はじっと真っ白な祖母の棺を見つめていた。




