「夜の街」
気がつけば辿り着いていたそこ。
オレンジ色の明かりが無数に点っている、紺色の街。
夜の街だ。見ただけでそう思わせる街。
辿り着くまでの記憶は曖昧で、なぜここにきたのかもわからないままに、私は街の門をくぐった。
ゆうらゆうらと道をねり歩く。
夜の帷が辺りを覆う中で、オレンジ色の光が目に優しく周囲を照らしていた。
オレンジの光からほんの数メートル離れれば、夜の帷が満ちてくる。
幻想的でありながら、日常をも感じさせ、けれども、非日常であった。
道ゆく人は夜であると思えば多かったし、祭りであると思えば少なかった。
そして、人々の姿は異常とも思うようなものであるようにも思う。
けれど、それが普通だったようにも思うのだから、私は一体どこの誰なのか全くわからないのであった。
ほとんどの人々が柔らかいオレンジの灯りを手に、ローブをゆらめかせて歩いている。
どこへくとも知らずに、ただ練り歩いているだけのようにも見えた。
ふと、手元を見てみれば、門をくぐるまでは確かに持っていなかったオレンジの灯りを私も持っていたし、ローブを羽織っていた。
揺れることのない安定した明かりは、なんとも不思議なものであった。
私は、揺れる灯りばかりを見てきたのかもしれない。
火のようにゆらめくことのない明かりの中を、まるで酔っ払った後に店に行くような心地で歩いていた。
ふと、看板が目に入った。
道を両側に建っている建物にはたくさん看板があるけれど、何故かその看板に目を引かれた。
ありきたりなランプの絵が描かれたその看板に惹かれるように私はその建物の中に入っていた。
懐かしさを感じさせる木の扉を押し開ければ、ドアベルが扉の開閉を告げた。
変わらぬオレンジの光が店内を満たしている。
変わった光量に一度瞬きすれば、アンティークな内装とどこか懐かしさを覚える並べられた雑貨たちがオレンジの光の中、佇んでいた。
ぐるりと見渡して、ふと目を引かれる。
近づいていみれば、それは火を灯すような作りのランプであった。
そっと手に取る。いつの間にか、手の中からオレンジ色の明かりは消え失せていた。
金属製の質感にしては軽いその重量に驚く。
どこか、自分の中の何かがこれだと叫んでいるような気がした。
「お嬢さん、おまえさんはそのランプかね?」
聞こえてきた声に、視線を上げれば、初老の男性がそこに座っていたことに気がついた。
もしかしたら、私がランプに夢中になっている間に奥から出てきたのかもしれないが。
北方の民族衣装らしき、ふわふわとしたファーを見にまとうその男性は随分と優しげに見えた。
小さくこくりとうなづいて見せる。
何のことかあまり理解はしていなかったけれど、これが自分のものであると言うことは感覚的にわかっていた。
「そうかい」
髭の奥で笑ったようにも思えるその男性は、立ち上がることもないまま私に袋を渡してきた。
その袋の中をチラリと覗いてみれば、赤い石がたくさん入っている。
「お前さんにはこれもあげよう。どうやら縁深いようだから」
もう行きなと促してくるその人に、首を傾げながらお礼を言って店を出る。
手に持ったままのランプにはいつの間にやらオレンジ色の光が灯っていて、私を導くかのようにほんの少し暖かかった。
何も考えないままに、赤い石をランプの中に入れる。
オレンジの光に溶け込んだ赤い石。
なんとはなしに、古い記憶が蘇ったようにも、行くべき道が開けたようにも思える。
疑問すら抱かないこの状況をほんの少し不思議に思えど、行くしかないということはなんとなくわかった。
温度に導かれるように歩き出す。
きっと、何かが待っていた。




