「闇の台頭」
「よろしくね!」
そう宣った美しい輝きを目に宿す少女に私はただただ嫌悪感だけを覚えていた。
その少女、名は体を表すという言葉の如く、ヒカリという名前の、その少女に、初めて会った時から感じ続けている嫌悪感を笑顔の仮面の裏に隠して、笑いかける。
名前の通り、光の似合う彼女が。
否、彼女の持つ光が、私は大嫌いだった。
勉強も、魔法も、剣術も、一丁前に出来ている。
そのくせ、あまちゃんなところが私は大嫌いだった。
何度、暴言を吐きかけようとして飲み込んだことだろう。
何度、笑いかけること自体が気持ち悪くて、吐きそうになっただろう。
そう、こんな糞食らえな日常も、後少しで終わる。
あと、すこし。ほんの少しだけ。
我慢すればいいのだ。
***
昼休みの、呑気な放送が笑い声で中断された。
狂気じみたその笑い声にびくりと肩を跳ねさせる教室の面々に、私はゆっくりと立ち上がる。
ブツ、と切れた放送。
混乱が教室を、否、学校を支配する。
それもそうだ、放送が切れる前に聞こえた悲鳴に、混乱の音、そして、肉を切る音。
そんなものが聞こえれば、ぬるま湯に浸かっていた人間は誰だって恐怖する。
そして、その音は案の定、彼女を焚きつけた。
「せ、セイラ。……助けに行こう!」
震えかけた声を、意地で持ち直した彼女にほんの少しだけ見直したような心地になるけれど、もう、そんなものに意味はない。
武術も魔法も、幼稚なお遊びのような世界で彼女は一位の座におさまっているのだから、ある種義務のようにも感じているのだろう。
手を抜いて、十位以内に収まっている私も、必要だと思ったのか、頼れると思ったのか、彼女は私の手を取って駆け出していた。
私の目的地も、彼女の目指す先であるのだから問題はないだろう、そう思って手を引かれるままに駆ける。
たっと、登り切った階段を越えて、走る。
いつしか彼女と手は離れていた。
私はもう、かけるしかないのだ。
彼女を先として、たどり着いた放送室はすでに一人だけの声しか残っていない。
その一人の狂気に空間が震えている、そんな錯覚すらするほどに、血が迸っていた。
開け放たれた扉を境として、彼女は背を向けた犯人に声をかける。
「あ、あなた、なにを!?」
ゆうるりと振り向いたその人物に、私は小さく口元を上げた。
彼女が境界に近づきそうになるのを、前に出て止めて、その犯人の男の元へと歩んでいく。
「せ、セイラ?」
カツ、カツ。
そう、私はきっと酔っている。
この静寂の空間と、彼女の視線と驚きに。
「お久しぶりね? ツヴァイ」
「よく、参られました……セイラ様」
男は跪き、私の手をとって口づける。
背後の気配の震えに、私はゾクゾクとした、歓喜をおぼえていた。
足元を邪魔する骸を、足で蹴りよけ、彼女の方に向き直る。
きっと、彼女からみれば醜悪な、光悦とした表情をしているのだろう。
自然と笑みが、狂気がこぼれ落ちる。
呆然と口元を震わせる少女に、私は嗤った。
「なん、で? セイラっ!」
そんなこと、決まりきったことでしょう?
「初めから、決まっていたことなのよ?」
きっと、彼女にはわからない。
わからなくてもいいような気さえもする。
「さて、いきましょう、ツヴァイ」
「はい、セイラ様」
ツヴァイが煙幕を張る。
人の気配が集まり始めたこんなところに、もう用はない。
「さよなら」
さよなら、ヒカリ。
さよなら、わたし。
そして、こんにちわ、わたし。




