「約束の時」
わっと湧き立つ観客に耳を塞ぎたくなるのを堪えて、歓声に応えるように手を振った。顔面には、笑みをかたどったような不気味とも言える仮面が張り付いていて、笑みを返す必要がないのは救いだった。
ついにはここまで来てしまったか。
そう思って、感慨深くなってしまっている自分に苦笑した。
勝ち進めば進むほど大きくなっていった声と期待。
なんとも思わないだろう、そう事前に思っていたのとは裏腹にとんでもなく虫唾が走った。
ただ、思い出した幼い頃の友との約束だけのために自分はこの場に立っていたのだから。
感覚がキンと研ぎ澄まされるほどの殺気と遜色ない闘気が反対側の入り口から放たれた。
無才なものであれ、よほど鈍感でなければ感じてしまうそれが観客たちを一瞬にして静まらせる。
この闘技大会の出場者を案内するアナウンスだけがワンワンと唸るように会場に響き渡った。
されど、その声に既に意味はない。
聞く必要もないそのアナウンスを、無視して、静かに目を開く。
ようやっと会えた友は、やはり、昔と変わっていなかった。
いや、変わったといえば変わったのだろうけれど、どこか退屈そうに剣を引き抜いて、だらりと構えに見えない構えをとった。
あの、約束をした日。
自分が強引に結んだそれを、初めて目にした希望のようにキラキラとした目で、笑った君。
どこか期待するように、けれど、絶望したままのように光のない瞳が自分を見定める。
さて、君は気がついてくれるだろうか。
名前も顔も体格も、性格さえ変わってしまった自分に。
いきなり、過酷な世界に放り出されてしまった私は、こうなる以外に生き残る術はなかったのだ。
心地よい、そう思ってしまうほどの闘気の中で、笑う。
ピィと甲高い笛の音がなって、考えていたことは霧散した。
試合開始の合図、この大会で慣れるほどに聞いたその音が始まりを告げる。
表情を変えることのないまま、君は無造作に剣を振る。
その剣を、その意を受け止めて一人、笑った。
遅れて聞こえてきた音とともに、君が小さく驚いたように目を見張った後、笑ったのが見えた。
息もつく間もないほどの剣技に剣技をかえす。
遠く鳴り響く音、金属の音が鳴り響く中で、踊るように二人、次の瞬間には終わるとも知れぬ攻防を繰り返す。
それは、さして長い時間ではなかっただろう。
けれど、まるで一生をも二人で殺りあって過ごすような、そんな感覚をも抱いた。
重苦しい金属音が鳴って、剣が弾き飛ばされる。
自分の手の中の剣を、君に突きつける。
小さく、降参と声がして、あたりは歓声に包み込まれた。
約束、守ってくれたんだね。
そう泣きそうに告げる君の声に、自分も胸が重くなる。
そう、ただ。
君との約束を守るためだけに、自分はここまできたのだった。




