「自由よ」
小さな、一辺が50センチもない正方形に切り取られた空のかなた。
白い雲が少しだけ浮かぶその向こうに黒い小さな鳥の影が映る。
翼をはためかせて通り過ぎていったその影に手を伸ばす。
伸ばした手は鉄格子に阻まれて、自由じゃない自分を思い出すのだ。
彼女は無事に辿り着いただろうか。
閉ざされたままの格子戸は、ここに入れられてからの一週間、一度も開けられたことはなかった。
普通に部屋として整えられた、貴族にとっては狭いのだろうが、庶民にとっては広いと感じるほどの広さ。
牢屋というには妙に居心地のいいこの部屋。
生まれた地である、この国にとどまらなければいけなかった自分が捕まるのは時間の問題ではあった。
幼い頃、あの戦乱の混乱の最中他国へと逃げられなかったかと言われれば、逃げられただろう。
けれど、この地の、旧国における王族の役割は、新国の人間が思うほど軽くはなかったし、血筋を変えるには、きちんと継がねば大変なものであった。
だからこそ、世話役のエゴで残されてしまった自分には、情もない行いなど既にできず、逃げ延びて生き続けるという自信すらなかった。
そう、とてつもなく面倒な出自、この地の旧国の王子というだけで、その血筋に生まれただけで自分はとんでもなく面倒なものを背負わされる羽目になったのだ。
いずれにせよ、自分はこの地にとどまらないといけない理由があり、いつかは捕まることはわかっていたのだ。
こんなにも良い待遇を受けるとは夢にも思わなかったけれど。
亡国の、しかも幼い頃に逃亡し行方不明になったとてつもなく面倒臭い出自の、革命の台頭者として名前だけ借りられた王子、それが自分だ。
と言っても、容姿もなにも勉強でさえ、自分には特別なところなどない。
ただ、出自と血筋だけが、途方もなく厄介なものであった。
そう、他国へと逃されなかった時点で、自分に自由になる未来など、なかったのだ。
……彼女があの地へと辿り着けていたのなら、そろそろ儀式は始まる頃だろう。
成功するのか、失敗するのか。
賽は投げてしまったから、あとは成り行きに任せるしかないことではあるけれど。
彼女の血筋に、厄介なものを背負わせてしまうのは本当に申し訳ないことではあるけれど。
けれど、これは些細なる意趣返しだ。
この国の、いや。
この、自分の運命への。
きっと、彼女が帰ってきたのなら、詰められるのだろう。
そのときに自分が生きていたら、の話だが。
さて、もうすぐだ。
もうすぐ。
青い、切り取られた空はいつまでも青く。




