排影師は眠りたい
時代は幻想も何もほぼ信じられなくなったころ。(まぁ、いわゆる現代ってこと)
けれど、幻想じみた、人に危害を加えるモノが実はいるのだ! (それが影って奴)
そして、そんなものを人知れず退治している者もいるのだっ! (つまり、それが排影師)
そして…その者たちは夜な夜な危害を加えるモノを退治しているのである。(だから、学生で兼任していると辛いよねってこと)
街灯の上、小さな面積の棒の上の平らなところに降り立つ。強く吹く風にばさりと羽織が鳴る。深紅の椿を模したその羽織の柄は遠目でも目立つ。それに、それを羽織っている人物自体の素材がよいからこそ、より目立つ。
といっても…その人物が見えたら…の話だが。
すらりと狭い場所に立っているその人物の髪は金の色。周りをぐるりと見渡せば、羽織と共に髪も風になびいた。人物の手にある細長いものは先祖から伝わる刀。ニヤリと何かを見据えて笑みを浮かべるその人物は男か、女かも判別出来ない。紅の瞳をほそめて笑う人物は一度目にしてしまえばきっともう忘れることのできない印象を持つ。
見渡した街はいつもよりも光が少ない。そして…闇が深い。
深い闇の中に人物から逃げてでも行くかのようにうごめくいくつかの影。すぅと闇に紛れるように逃げていくその影に向かってその人物は着物の懐から取り出した紙の札を投げつける。何らかの模様の描かれたその札は目測もできないような速度で飛んで、影に当たった。
札に当たった影はその形を失い光の粒子へと変じていく。影を逃がすまいと張り付いた札とともに、音も何もないままに影は光となって消えていく。
どうやら炎を使う必要はなかったらしい。人物はほっとしたように息を吐き出した。
「ん、これで…よし」
ぐるりともう一度街を見渡し影が消え去ったことを確認する。響くようで響かなかった声は男性らしく低い。そう、この人物は男性であった。
ふと、空を仰いだ彼。
美しく澄んだ紅の瞳にこれまた美しい金色の大きな満月がうつりこんだ。雲のかかっていない満月の光を受けて光輝く紅の瞳と金色の髪。
ピクリと金の髪に半分隠れた右の耳が動く。そして、そちらの方向へと彼は振り向いた。遠くのそれも1キロ以上は先に家々の屋根を跳ねてこちらに向かってくる銀と緑の人影が見えた。
「レーイーヤーにーーさーまーー!!」
叫んだのは名前。誰にも聞こえない、誰にも姿が見えない、そして顔立ちは非常によく似ている彼とその女性らしき人影。色彩だけが正反対な二人は、同じように街灯の上に立って向かい合えば、それは月下の下とても絵になる。
「レイナ、叫ぶなといつも言っているだろう」
レイヤと呼ばれた彼ははぁと呆れたようにその女性へと語りかける。
親しげな声と態度は2人が家族であるといっているようなものだ。
「レイヤ兄様、とー様たちからの連絡“北から影の大群が来る、殲滅せよ”だって」
苦笑のような感じと、どこか面倒くさげ…というよりはいい加減にしてくれとでもいう怒りがその言葉には込められていた。
「……はぁ、今日も眠れないのか」
呟いた言葉はきっとレイヤにとっては無意識の事だったのだろう。レイナの顔に申し訳なさそうな色が浮かぶ。
「…そんな顔するなよ」
自分が言った言葉も原因だとレイヤはふわりと浮かんでレイナの頭をなでる。
「これは…お前のせいじゃないんだからさ」
その手の温かさに泣き笑いのように顔を歪ませたレイナ。
「……うん、………うん」
レイナの言った言葉に安心したようにレイヤは笑う。そして、レイナを横に抱いてふわりと風に乗って北へと移動し始める。
「レイナ、距離は?」
これだけの言葉で通じるのも、二人が兄妹であるからだ。その方向には、大きな薄暗い雲があった。
「…んーと、だいたい1キロ先だよ」
切り替えが早い彼ら二人。もう、先ほどのことなど頭の中にはないのだろう。
先ほど彼が葬った影と同じ…いや、それよりもより巨大な存在感と凶悪な気配を感じさせる雲。
「…アレが本体か」
スタッ。降り立ったビルの屋上の向こう側はちょうど雲があって、しかもちょうど下は林。被害はあまり出でる心配がない場所だ。
下したレイナの腰を片手で捕まえたまま右手で懐から同じように札を取り出す。残りの枚数は…。
「レイヤ兄様…いいの?全部使って」
10枚は確実にある。心配そうに下からのぞき込む翡翠の目にレイヤはニヤッと笑う。
「別にいいだろう?俺が俺のを使って何が悪い」
ある意味詭弁であることをレイヤは知っていた。俺のではあっても、制限はかけられているのだ。
「…寝不足のままでも学校に行かせるあの馬鹿野郎どもをこんな形で見返して何が悪い?」
もちろん…反抗だ。お父様達ならば…出来るだろう?昔はやっていたんだから。こんだけの数の影を退治することが…さ。
「…レイヤ兄様…悪い顔」
そういったレイナもそう本当に思っていたわけではない。ただ…無邪気に悪そうなことを考えるレイヤがあまりにも普段と似つかぬ顔だったからだ。
全ての札を空へと放り投げる。一枚は大きな雲に向けて、もう二枚はレイヤとレイナに向けて、他はこの街中に向けて。
数秒の後大きな轟音が黒い雲をかき消す。そして、キィンと音がして街を不透明な影を逃がさない結界がはられ、レイヤとレイナに影がふれたら影が殺される結界がはられる。
「…さて、帰ろうか、レイナ」
結界や音に少しの間呆然としていたレイナ。だがすぐに言った。
「……はい、レイヤ兄様」
そしてレイヤの差し出した手にレイナは手を重ねる。
すぅと掻き消えるように二人はビルの屋上から消える。
後に残るは、雲一つない紺の空、金色の満ちた月、そして静寂の夜であった。
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*レイヤ(もとい、彼もとい、人物)
排影師。つまり、影を排除する者。師なので力は強い。出来過ぎるがゆえに疎まれてもおり、いろいろと押し付けられている。実は、人型の妖と人間の混血児。金の髪と紅の瞳を持つ。この色彩は母方の祖父の隔世遺伝であるらしい。仕事…影を排除するときは、赤の椿の描かれた羽織を着ている。そのため、紅椿様と呼ばれることが多い。実は昼は高校生として生活している。そのため、夜の仕事と相まって寝不足。無駄に生真面目であるが故の弊害。人間の時は父と同じ黒髪に黒目。
*レイナ(もとい、彼女)
レイヤの血のつながった妹。こちらはレイヤほど疎まれてはいないが、押し付けられることも多い。母からの遺伝である銀の髪と翡翠の瞳を持つ。仕事のときは、緑色の紅葉の描かれた羽織を着ている。でも、なぜか新緑様と呼ばれることが多い。レイヤと同様に昼は高校生として生活しているが、レイヤが勝手に肩代わりしているので、そこまで寝不足ではない。けれど、レイナ的にはレイヤに頼ってほしいと思っている。
*影
闇から生まれるもの。近年発生量が増加している。人の悪感情によりできているといわれていて、発生量が増えたのも人間が増えたからではないかと言われている。妖とは違うもの。
*父様(もとい、馬鹿野郎)
レイヤ、レイナと同じく若いころは影を葬る前線に立っていた。けれど、権力争い的なものに夢中になってしまったがゆえに、イロイロとレイヤとレイナに無茶を敷いていると言われている。けれど実は……。
ここより先は皆さまが補完してください(笑)。




