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短編集  作者: 燐火
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血の戦鬼

その身に纏うは敵の血。

武器は女の身の丈を超すほどの大きさの剣。

狂ったように剣舞を舞ってでもいるかのように重さを感じさせないまま女は歩み続ける。

そう、その女は止まらない。

いや、止まる術を持たない。


その女の異名は“血の戦鬼”であった。

古い、古い御伽話をしよう。


気も遠くなるほど遠い遠い昔のこと。


神々の息吹がまだその地に深く根付いていたころのこと。


***


周辺諸国に恐れられる、一人の女の戦士がいた。


その身は細く、顔も美しく、到底戦士とも呼べない身体。そんな女は身の丈にも余る大きな剣を片手で持ち彼女の祖国の決めた敵の国の兵士と戦っていた。


その女は幼いころに両親を祖国の貴族によって無実の罪でとらえられ処刑され、残された自身のたった二人の肉親であった兄と幼い妹までをも少女時代に流行病で亡くし、とっくのとうに天涯孤独の身となっていた。


女は幼いころ…それこそ父母が生きている頃から、それこそ人とは思えない美貌を持っていた。


それがために、女を誘拐しようとする者は絶えず、女は強くならざるを得なかった。


それこそ…戦士として国につかえ、他国に恐れられるようになるのは当然のことだといえるほどに。


軍に仕え二年も経てば数多もの戦場に立つようになり、周辺諸国でその名を知らぬ者はいないといわれるほどであった。


女の戦い方はまさしく、鬼神の如き…否、正確に言うならば…ほぼ捨て身の攻撃であった。しかし、女は強かった。他の追随を許さぬほどに。


それは、肉体的な強さだけでなく、精神的にも勝てる者はいないというほどであった。


けれど、女の自身を捨てるような攻撃方法は、女の体に大小さまざまな傷をつけた。そして、それは拙い医療技術しか持たなかったそのころは傷の具合がどんなものでも必ず戦場へ行けと言われれば行ってしまう女のせいで後を引いた。そして、大量の傷が女の体に残った。


けれど、敵の兵士は女の顔にだけはたいていのものが傷をつけなかった。いや、女の顔にさえつけられなかったというべきなのかもしれない。


それは、女の美しさがそれこそ戦場にあるまじきものであり、攻撃をためらうものが多かったからであったし、そもそも女が強すぎて誰も傷をつけられなかったというのもある。


そして、敵の兵士の血をその身にまとったまま狂ったように美しく、また恐ろしく戦い続ける女にはいつしか、“血の戦鬼”という通り名がつけられた。


本来ならば女性につけられるような通り名ではない。女の普段の姿だけを見れば、誰もがあり得ないというような名でもある。けれど…ひとたび戦場に出て、女の姿を見たものは誰もが言うのだ。


「まさしく“血の戦鬼”だ…」


と。それこそ、人によっては憧れを抱いたように、恐れるように憐れむようにという違いはあったが…(最後の選択肢をあげる者など少数しかいなかった)。


そして、女の事は噂として大陸中…否、世界中へと流れていった。


***


次の戦相手はどうやら北の傭兵らしい。こそこそと私に聞こえないように話す侍女たちの小声を私の性能のいい耳は拾った。

そういえば、兄と幼い妹が無くなったあの病の元は北のほうからだったなぁ…。そして…あの病をこの国へと持ってきたのは…北からやってきた傭兵だったなぁ…。

そこまで思いついてしまった私の心は沸騰した。


あぁ…憎い。

本当に憎らしい……。

壊しても壊しても足りないくらい…ニクイ…。



カーンカーンカーン…


っ!…侍女がいつの間にか退室していた。開いたままのドアに、どれほど自分が殺気を張っていたかを見たような気がしてついつい苦笑する。そして、どれだけ自分が我を忘れていたのか窓の外からの光がオレンジ色に変わりかけているのを見てわかってしまってまた苦笑した。

あぁ、部屋を出て会議室に集まらなくてはいけない。集合を促す3回の鐘の音が響いたのだから。


コツコツコツ


石造りの城にはやはり靴音が響きやすい。そして、狭く人通りの少ないこの通路は少し埃っぽく、他よりも余計に圧迫感がある。

先ほどの会議で出された命令は…一週間後に始まる北の傭兵との戦いに勝利すること。


そして、なるべく殺さないこと…。


そんなこと私ができるはずがないのに。


私にとって、全てが…自分の国も次の相手達も。自分の肉親を…私の美貌に惑わされずにきちんと育てて愛情を注いでくれた父や母、兄や妹を亡くすきっかけや…元凶となった彼らが。

傷つけるだけだなんてもったいない。拷問して、精神すらも崩壊させてやらなければ気が済まないような相手。

人だなんて、自然だなんて、運命だなんてそんなものだ。理性的には判断できても感情が何一つついてこない。納得することなど…全くできなかった。

この体の内に宿る大きな大きな憎しみ。それを向ける場所は軍人に…戦士になってしまってはもう一か所しかなかった。いや、合法的に向けられる職は戦士しかなかったのだ。


発散するためだけに、戦場に1月に一度は出るようになった。憎しみに体を預けてしまえば、それはそれで戦に負けて死んでしまってもいいと思ったし、それで戦に勝てればちょうど良い。初めはそんな考えだった。

というか、初めての戦場は何一つ覚えていない。ただ、狂って暴れまわって…人の体をこの剣で叩き潰した時の音が耳に残った事だけが私がその時戦場に立っていたということを思い起こさせてくれる。初めのころはその音が少し怖かった。けれど…いつの間にかそれは快感のようなものへと変わってしまっていた。


そう、もう数えきれない戦いに私は戦士として出た。そして、いつの間にか戦いが日常的なものへと変わってしまって…戦場に月に一度は出なければ気が済まない…狂ってしまうようになってしまった。


あぁ…また今日も憎しみがたまる。発散してもしても湧いてくる憎しみは発散する場所を覚えてからというもの余計に湧いてくるようになってしまった。


あぁ…1週間後の戦場が待ち遠しい。


いつの間にかついてしまっていた地下の訓練場で私はいつものように刃のつぶされた剣を手に取っていた。


***


“血の戦鬼”は止まらない、いや、止まれない。


自身が地に伏すまで。


自身が死へと至るまで。


そして…彼女は剣を振る。














〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



*女もとい、“血の戦鬼”


作中の通り、自身の美貌に惑わされ、魅了された貴族が自身を望んだのを父と母が拒んだが故に殺され、兄と妹を北の傭兵が持ってきた病によって亡くした。自身もかかった病だが、自身のみ助かってしまった。双方において自身が原因となってしまったがために自己犠牲の精神が育ってしまった。

強さ的には女の祖国にはもう女が苦戦する対戦相手はいないほど。ただし、流石に強い人、何人もとの対戦は苦戦する模様。

軍の幹部格であり、単独行動をしても特に問題はないが、国王や貴族には1人で会えないようになっている意味危険視もされている人(そもそも一番強いのに軍の総長になっていないことからもそれは明白であるが)。

精神的に不安定であり、自身や国などに向ける憎しみが漏れ出てしまうことも多く、危険視、問題視されている(軍人はそういう気配に聡い人が多いため、女自身のそれが強く巨大なこともあり怯える人が出るため)。

また、幼少からいろんな人に狙われてきたせいか打たれ強く、打算的な感情を持つ人をすぐに見抜く。そのため、精神的に強いとみなされている。

実質を言うと精神的な不安定が強すぎて、強い…とは言えない。


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