もし、世界の時が戻ったならば
大切な物は…失ってしまってから気がつくものなのだ。もう一度だけ…彼女に会いたい。…もう一度だけでいいから。
あなただってそう思うでしょう?
彼女の最後の言葉はいつしか自分の中で大きな意味を持つようになっていた。
彼女が亡くなってもう何年もの月日が過ぎた。それなのにまだ彼女を吹っ切れていないのだから笑うしかないのだろう。
多分それは恋愛的な意味だけではないのだから。恋愛的な意味で彼女を忘れようと何回か別の女と付き合った事もあった。けれどやはりというべきか女は鋭い。自分が思われていない事に気がつかれた。
ふぅと空気を吐き出す。吸い込んだ空気は澄んで乾燥していた。咳き込みそうになってまた苦笑する。つい彼女とのやりとりを思い出していたから。
死というのは誰にでもいつでも訪れるものだ。その事に気がついたのは彼女が死んでからだった。彼女が死んでしまうなんて全く思わなかった。
あの時の自分はどこか慢心していたというよりはただ、この日常が潰れる事はないという傲慢だったのだろう。日常が壊れてからやっとわかった。その日常ほど掛け替えのない物は無いと。
あぁ…この世界の時が戻ったらいいのに。やり直せたらいいのに。
そう何度も何度も考えて…でもやっぱりそんなファンタジーは存在していなくて…。
あぁ…もう一度彼女に会いたい。もう一度だけでいい。最後の言葉を…返せなかったあの言葉を伝えたいんだ。
とだけ考えていたら、もう家の前についていた。いつもと同じだ。彼女の事を考え始めるといつの間にか物事が過ぎ去ってゆく。こんなことさえもったいないというのに…。俺は彼女を忘れられなくて…ただただ壊れてしまった日常を求めるように無気力に日々を過ごしていた。
外套を脱いでマフラーを外す。マフラーは確か…彼女が編んでくれたものだった。贈られたその時は妖艶な雰囲気の似合う彼女には似合わない趣味だと思った。でも…今では。
ばたりとベットに倒れこむ。窓からさしてくる冷たい太陽の日差しに目をほそめ、一度起き上がりカーテンを閉めた。
寝よう…そう思ってスマホのアラーム機能を設定した。そしてもう一度ベットに倒れこんだ。
しばらくたったような気がして、周りを見渡せば彼女の声が聞こえた。
腕の中で血だらけになって倒れている彼女。確か…惚れられた男との無理心中だったような気がする。
「……ねぇ……」
あの時と同じ光景。同じ場所に俺と彼女は2人きりだった。あの時は、男が隣でぶっ倒れていたんだっけ…胸に包丁を刺して。
「…__」
俺は彼女の名前を呼ぶ。彼女はどこかうれしそうに笑った。
「……あ…りがと…う…」
もうしゃべらなくてもいい。そう言いたかった。でも、あの時の俺は言えなかったのだ。あまりにも彼女が美しく笑っていたから。
「…___……時を……戻せたら……いい…のに……」
彼女はどこか寂しげに笑う。俺にみとってもらえるだけで幸せというようにさっきまでは笑っていたのに…だ。
「……__…_…と……幸せに…なりたか…ったな………」
もう少しで彼女の命は尽きるのだろう。彼女の声が弱くなっていった。
「……」
でも…やはり俺は何も言えなかった。
「…___に……会えたことが……私…にとって……最高で…最悪の……出来事…だった…のでしょ…うね……」
「…ねぇ……___……愛しい人に会うって……そういうことだと…思うわ………あなただって……そう思うでしょう?……」
ジリリリリリリ
そこで目が覚めた。また…彼女には何も言えなかったな…という一つの後悔だけを残して。
(えぇ…俺だってそう思うよ__。本当に…君に会ったのは最高で…最悪の出来事だったんだから……)
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人物設定
俺、___
男。女と付き合っていたが、その女が他の男と無理心中をさせられてから荒れてしまった。結構淡泊とした性格で無頓着だったが、女に執着してしまい、女が死んだあとどこか空っぽになってしまった。他の女にも手を出したが、やっぱり長続きしない。女に最後に言いたいことだけ言われて行かれ、言いたいことを言えなかった人。ヘタレっぽい。職業はどこかの社長だったり。
彼女、__
女。男と付き合っていたが、他の男により無理心中をさせられる。趣味は編み物と料理と歌を歌うこと。妖艶な雰囲気を持つが本人はその容姿に合わせて演技しているだけ。男と一緒にいる時は演技はあまりしていなかった。結構悟っている性格で、自分のモテやすさにはどこか鈍感。男が何回か頑張って気がつかせようとしてやっと気がついた。言いたいことだけ言って死んだ人。返事は聞きたかったなぁ~と最後に思ったとか思わなかったとか…。職業はどこかの会社の社員だったり。
ほんとに…愛しい人。あなたに出会えてよかった。___。あなたの答えは…聴いたわ。また会いましょう?できれば…何十年か後に……。




