悪役にされた復讐者
あぁ…世界のときは戻すことなどできないのね……。もう一度だけ…あの方や家族に会いたい……。けれど…それはかなわないのね……。それならばいっそ……。
流れていったものはもう止めることも戻すこともできない。
そう気がついたのはもう、全てが終わる少し前の事だったんだ。
ーーもう…戻れないんだ…。
時間をなくすことは出来ない。
それと同じく、時間を元に戻すこともできない。
そんな簡単で、すぐにわかってしまいそうなことでさえ、私は今の今まで気がつかなかったのだ。
どれだけ、力に酔って、復讐に酔ってしまっていたのだろうか。
ただ、愛しいあの方に…愛しい我が家族ともう一度…あの頃と同じような幸せに浸りたかっただけなのだ。
あの時、手のひらから零れ落ちて言った小さな幸福な世界と…幸福な未来。
人によって壊されてしまった、落とさざるを得なかったそれ。
もう絶対にこの手に戻ることのない、戻る可能性すら消されてしまった幸福な未来へのチケット。そんなものに私はしがみついて、今を見ることをやめてしまっていた。
人への恨みと未来を消された悲しみと、世界にある理不尽への怒り。それらが…私を突き動かしていた。
私は…私の家族と…愛しいあの方は古くより様々な光の種族に忌み嫌われたダークエルフという存在だった。
エルフとつくだけあって、私の居た里は閉鎖的で、私たちは人の何倍も長く生きた。
あの時、私はまだ子供といえる歳で、外も何も知らない純粋さを持っていた。
短い年月しか過ごしていなくて、少ない思想しか知っていなかった私は単純にバカだったのだ。
今、目の前に立つ、どこか愛しい方に似ている…けれど、関係の全くない光の種族の勇者に会うまで。
いや、…顔をまじまじと見るまで。
関係のない者を憎んでも、恨んでも復讐しても、幸福な未来が私に戻ってくるわけじゃなくて、あの方に会えるわけじゃなくて。
ただ、復讐の、悪意の連鎖をつなげてしまうだけなのだ。
幼いころ…母が言っていたことだったのに、知っていたのに…。
何故……忘れていたのだろうか?
あぁ…。
「もう……、終わ…り…ね……」
自身の築き上げた黒き城…光の種族から魔王城と呼ばれたそれはもうボロボロで。
ただ、私が研究と復讐をするためだけ…。
いや、闇の種族を保護するためもあった。
けれど、研究と復讐のために築いたこの城…いや屋敷は、いつの間にか勝手に城に改造されていて、いつの間にか闇の種族の者との思い出がそこら中に散らばる場所となってしまった。
皆は無事でいるのだろうか。
……きっと大丈夫だろう。
…そう…信じていよう。
…折れてしまわないように。
見えてしまっている空は、魔王城というには真青に晴れていてらしくはない。
「あぁ。もうこれ以上皆を傷つけさせない!!」
どこか噛み合っていない会話。
もう誰もが知らない私の誕生秘話。勝手に書き上げられた私の物語。
いったい私はどれだけの悪役として書かれているのだろうか?
なんてふざけてみようとしたところで、もう時間は残っていないのだ。
「…甘いわよ…光の人」
息も絶え絶えな私とは違い、まだ戦えそうな光の勇者。
さて、あなたに贈り物でもしましょうか。
研究の途中で見つけてしまった、私にとっての希望。
絶望しかないこんな世界を消すことややり直すことしか考えていなかった私に飛び込んできた一つの行き先の違う、その時にはその行き先がわからなかったチケット。
「何っ!!」
…あなたなら知っているのでしょう?
ありえないと切り捨てそうになった私に入って来た朗報。
そのチケットの行き先を明確に示したモノが来た…と。
「ほんと、関係ない人が勝手にしゃしゃり出てくるだなんて思わなかったわ!復讐もやっと終わったのに…」
本当。あなたは来てくれてよかったけれど…私の案件に手を出さないでほしかったわ。…いや、手を出してくれてよかったのかもしれない。
…でも…。
「どういうことだっ!!」
痛む体を押し隠して私は笑う。
ただ、笑う。
あの方や家族を殺した人、その命令を出した人、そして…闇を排除する!!と息巻く教会の人や強硬派の人たち。
そんな人たち全てに…復讐は出来たのだ。
命には命を。
思想には思想を。
ただ、同じような目に合わせたかった。同じような境遇にさせたかった。
それも…やっと叶ったのだ。
光の勇者を召還するために人が費やした百年もの歳月。
光の勇者を育て上げるために要した数年。
たった百余年、されど百余年。
その時間だけでも充分であった。
私の復讐と、準備を叶えるための時間には。
…それでも、私は今の今まで復讐は終わっていないと思ったのだけれど…。
「元はね…あなたたち光の種族のせいなのよ!…全て…殺されたわ。私の家族も、婚約者も。…だから…これは復讐だったの」
そう、復讐だったのよ。
…これも…言うならばこの理不尽な世界への復讐。
あなたはこれを聞いても…“正義”の光の勇者でいられるのかしら?
まぁ、そんなことは私にはもう…関係などないのだけれど。
「…っ!?」
驚いたように光輝く剣を下しかける光の勇者。
けれど、私はもう言葉を…口を…話し続ける意思を止めるつもりはない。
「ねぇ…あなたは本当に帰してもらえるのかしらね?」
連ねた言葉は甘い甘い毒。
光の勇者が信じるか信じないかは彼次第。ただ、光の勇者の心に疑惑の毒を飲ませただけ。
これで…私のこっちでやることは終わった。
残していた、ずっとため込んでいた魔力を練り上げる。
ようやくついた決心と共に。
光の勇者が来なければ…辿らなかった…いや、辿るはずのなかった未来の道を切り降らくために。
白く輝く光がだんだんと広間に満ち溢れる。
その光は、魔力の光。
魔力を持たざる者には見えない神秘の光。
「…っ!!何をするっ!!」
この作り上げている魔法を相殺しようと魔力を同じく練り始める光の勇者。
もうちょっと前の私なら、見当違いだわなんて言って嘲笑っていただろう。
けれど、もう遅い。
「私は…もう、この世界に必要ないのよ」
呟いた言葉は光の勇者に届いたかどうか…。
「…残ったものはあなたのものよ……愛しいあの方に似た光の勇者…」
光が強くなる。目も開けられぬほどの光。
けれど、私はどこか満ち足りていた。
もう、悪として生きる必要はないのだ。
もう、復讐のために夜も眠れぬ思いを持たなくてもいいのだ。
もう、こんな世界にいなくてもいいのだ。
でも…あの方と…家族がいたら…もっと幸せだろうに…。
そうもう戻らないものを思ってしまうのは仕方がないこととはいえやはり、望まずにはいられない。
本当、私って諦めも悪いし、馬鹿だな。
復讐も終わって、ある意味虚しい。
なんて…思ったりして。
これ以上…復讐に時間を費やさなくて済むようになった。そのことにも感謝して。
やっと選ぶことが、進むことができるようになった未来。
失くしてしまったチケットにやっぱり未練は残っているのだけど。
復讐をやめてしまうことにどこか安堵と、苛立ちを感じていて、でも…これ以上は連鎖をつなげてしまうだけ。
いや…復讐の方法によってはもう連鎖してしまっているのかもしれないのだけれど。
まだ…どこか復讐したりないような気持ちも残ってはいるのだけど。
さぁ、歩き出しましょう。
新しい場所で。
闇の種族の皆と共に。
柵も、残していく世界への思いも何もかも捨てて。
「さよなら」
呟いた声は聞こえたのだろうか。
「…おっ、おいっ!……」
心配しているかのような、どこか未練の残っているような光の勇者の声を最後に私は…。
***
カラン。
光は一点に収束された。そして、意味深なことを言って質問も何もかも受け入れずに光る結晶を残したダークエルフの女魔王。
「ははっ…」
乾いた笑いしか出てこない。虚しいような、自分を嘲笑いたくなるような思いとは…こんなことをいうのだろうか。
ガシャン。
手から滑り落ちた、聖剣と言われる勇者の装備だといわれたもの。
大事に扱おうと決めていたそれ。
けれど…。もう俺の頭にそんな些細といえることは残っていない。
「…いったい何なんだよ…」
本当に…。真実は…どこにあるんだろうか。魔王が告げたことがあっているのなら…俺は光の皆に何を吹き込まれていたのだろうか。
こんなことを知らされるなら、こんなことになるのなら…勇者なんて引き受けなければよかった。
召喚なんてされたくなかった。
こんな運命なんて…。おきて欲しくなかった。
俯いても、あるのはただ漆黒の石の床。
空を仰いでも、あるのは真青に晴れたままの空。
力をなくした足腰に、俺は座り込んでしまう。
仲間…もう、そう呼べるのかはわからないが…を連れてこなくてよかった。
こんな姿…を見られるわけにいかない。
こんな時間があった…と知られるわけにはいかない。
俺は…勇者なんだから。
「…ははっ……ホント…なんなんだよ……」
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
俺は…どちらを信じればいいのだろうか?
光の皆から教えてもらったほう?それとも…ダークエルフの女魔王が言ったほう?
…俺は…関係ないのに首を突っ込んだ…いや、突っ込まされた…よそ者…なんだな。
ホントに…勇者って何なんだよ。
指先で触れた結晶はキラリと太陽の光をうけて輝いた。
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*私(もとい、ダークエルフの女魔王)
とある里のダークエルフの唯一の生き残り。実は400歳ほど(ダークエルフ基準だと、ようやく20ぐらい)。300歳という、ダークエルフ基準で15歳頃に、家族と里の全員を見ている前で人間込みの光の種族に殺された。里一番の美しさを持っていたから、戦利品として持ち帰られる予定だったが、里の皆が最後に施した禁呪によって、逃げ出した。
その禁呪によって、里の皆の力と知識全てを埋め込まれ、早々に復讐を開始する。しかし、倒せない敵というものは現れるし、このままだと生活もやばいと思って、闇の仲間と住むための屋敷を作る。いつの間にか、闇の仲間は増え続け、屋敷は拡張されて、魔改造されて城になっていた。
もう一度里の皆と会って同じ様な日々を送りたいという執着と妄念より、世界単位での時の戻し方を研究するようになる(死者の蘇生は、条件がきちんとそろっていないとできないし、同じような日々とはいいがたいのでその方法は選択肢から排除した)。
しかし、研究してもErrorしか出ず、いろいろと調べていく中で様々な発見をし、術を作り上げた。
まさしく、魔法の天才で魔法のみの戦争ならば負けなしの存在。また、諜報も得意。しかし、肉弾戦はそこまで得意というほどでなく、重いものは特に苦手。といっても世界規模で中の上位に入るほどの実力は持つ。スレンダーな体系をしており、胸が大きくないのがコンプレックスだったり。
人嫌いは、勇者と出会うまでこじらせてはいたが、母の教えのおかげが、そこまででもない状態。
根はやさしく、面倒くさがりな面も持っており、怒りは長続きしない。しかし、恨みつらみは根に持つ。
*俺(もとい、光の勇者)
文中からもわかるように、異世界?から召喚された人。成長が早いので、少ない歳月の鍛錬でダークエルフの魔王に善戦した(相手が苦手な分野ではあったが)。闇の側の事を、光の仲間によってめちゃくちゃに吹き込まれていて、ちょうどいい道具としても見られていたが、ダークエルフの魔王に現実を突きつけられたことによって、人間不信の立派な腹黒に成長する。それにより、送還されるのだが…。
*あの方(もとい、私の婚約者)と家族(私の家族)
私を命をかけて救った人たち。魔法の天才でありながら、聡明でありながら、どこか幼かった私を愛情深く育てた。里の全員がかけた禁呪の代償を全て受け持ったため、里ごと滅び去る。それにより、死体も残らず蘇生魔法は不可能となった。滅びたのは禁呪をかけてから2時間後の事だったので、人は巻き込まれなかった(しかし、復讐により全員死亡)。
*闇の種族
闇より作り出されたといわれている種族たち。実質は、光と闇で作られ闇の力のほうが強かった種族たち。魔族や吸血鬼、ダークエルフなどが分類される。数が少ない分、能力が強い者が多く、その代わり遥か昔から迫害されてきた歴史を持つ。一大勢力を築き上げた者(つまり、名目上の魔王)もいたが、光の勇者によって攻め滅ぼされることが多かった。
*光の種族
光より作り出されたといわれている種族たち。実質は、光と闇で作られ光の力のほうが強かった種族たち。天族や獣人(光の力が強いほう(闇の力が強い獣人は魔族に分類される))、エルフなどが分類される。人間も、光だといわれているが、勇者以外は全員が混沌の種族である。数はまあまあ多めで能力もまあまあ強い。大勢力を作り上げることが可能で、いくつもの国が種族ごとに作られている。
*混沌の種族
光の種族で述べたとおり、人間。光と闇の両方の力を併せ持ち、勇者以外は性格に光と闇の力が出る。というよりは、性格によって光と闇の力の強さが変わる。そのため、闇は邪悪と言われ、闇の種族の迫害へとつながってしまった(闇の種族は力が体に表れているので、性格は関係がない)。精神の闇が強いからといって、体に闇の力が出るとは限らず、精神の光が強く、体の闇が強い者もいる。
*光と闇の定義
不明。
精神は、光ならば『正』で、闇なら『悪』と言われるが、それも定かではない。
体は、光ならば『集団』で、闇なら『個』と言われる。が、それも少々例外が出てきている。
よって、不明。
*あの時
某年、ダークエルフのとある里が人間と光の種族の強硬派(闇は滅ぼすべきだという考えの者たち)に聖戦という名の一方的虐殺を行った。それによりその里は滅亡、また、その後聖戦を行った者たち、命令した者たちはその里の生き残りによって滅ぼされる。その後、闇の種族を排除しようと聖戦をしかけた者はすべてダークエルフの女魔王と後世呼ばれるものによって殺され、ここ30年ほどは、闇の種族に手を出すのはタブーとされた。しかし、そこで諦めずに、ダークエルフの女魔王よりも強い存在を召喚して、いいようにいろいろと吹き込んで人間に害を与えるかもしれない存在と化したダークエルフの女魔王を滅ぼすように仕向けた。




