お嬢様の憂鬱
ちょっと!これはどういうことなのっ!なんで私はこんなふうに学園のパーティー会場で婚約破棄と断罪みたいなマネを受けなきゃいけない訳っ!ミアっ、私の癒しよ、助けてっ!!
とイオナ・T・ハーサ公爵令嬢は叫びたくなった。
お嬢様に一体何をしているんですかっ!!……殺す。
とイオナお嬢様につくメイドのミアは言いたくなった。
このようなことを行ったのはなんでだ!
なんて言われましても…。と私はパーティーの飾りつけがされた大広間の中央で立ち尽くした。ほんと…ミアに来てもらえばよかったわ…。もう覆されることのない状態に私は溜息をつきかけて、淑女の仮面の中に押し込めた。
「聞いているのかっ、イオナ・T・ハーサ公爵令嬢!」
「…聞いておりますわ、シースト殿下」
正反対の声音に、会場は静まり返る。先ほどまで、信じられないような面持ちでだいたいの人がささやいてくことさえ、止められた。
本当…数秒だけだが、開いてしまった間は察してほしい。というか…殿下が庇う様に前に立っている今、ニヤリと笑う女性は誰でしたっけ?
…あぁ、リアノ・ローカト男爵令嬢でしたか…。
…ミア…助けてちょうだい。この顔が保てる自信がないわっ!
「何故、リアを虐めたっ」
予想外の言葉に、私はもう耐えられそうにもなかった。ただ、まだ残っている気力に私はしがみついていた。
「…シースト殿下?私、その方とは面識が全くないのですけれど…、その方のお名前はいったい何というのです?そして、どこの令嬢なのですか?」
ただ、いくつかの嘘を織り交ぜながら私は聞いた。何しろ、本当に面識もなく、かといって未来の王妃ならば覚えておいてもいい人リストに載っている人だったのだから…。もちろん…いろいろな意味であったが…。
「リアノ・ローカト男爵令嬢だ!」
何故知らないのだというふうに叫ぶシースト殿下。そのように叫ばれても…と乾いた笑いが心の内を埋め尽くす。
「…あら、そうなのですか?そのような方が殿下にくっついていらっしゃるだなんて」
本当に…。最近まで地方に言っていたのだから知っているわけないでしょう?というか、その人と顔を合わせたこともないんだからっ。
ミアっ、助けて…。
「そ、そんな言い方やめてくださいっ!」
「っ、そうだ!何故そんな言い方をするっ」
…くっついているって…悪い言い方かしら?…まぁ、少々の仕事を増やしたことに対するイライラは込められていたかもしれないけれど…。
「…」
あ。どうやらミアが来たみたい…。しかも…聞いていたのね?ここで会ったことを……。
…私にはミアが何をしても関係なんてないわ…(現実逃避)。
「お嬢様、遅れて申し訳ございません」
かっちりとした礼をとるミアの顔は信じられないほどの無表情である。表情をいつもきちんと作っているミアにしては珍しいことだ。つまり、それだけ怒っている…ということで…。
静まり返った会場は、ミアと私に視線が集められている。もう、あの馬鹿な人たちには視線も行っていないようだった。
「……いいわよ、ミア」
こう声を掛けなければ、会場の空気は動き出さなかっただろう…、いや、もしかしたらば彼らによって動いていたかもしれない。けれど、もう私の侍女は馬鹿たちに時間を与える気はなさそうだった。
「お嬢様…このような状況に至ったのはどういう訳ですか?」
底冷えのする視線が私以外の会場に向けられる。そこらの温度が2,3度ほど下がったように感じた。
「……ミア、あそこにいらっしゃるリアノ・ローカト男爵令嬢をどこかで見たことがあって?」
…ミアはあるはずだ。お父様に言われて、彼女の父であるニロイ・ローカト男爵の治める領地に行っていたのだから。
しかも、リアノ・ローカト男爵令嬢は特徴的な髪と眼の色をしているのだから。
「…あぁ、ニロイ・ローカト男爵の御令嬢ですか。先日、王都の店…名前は…カフェローリアト…でしたね。その壁際に立っているソラハ侯爵家の御令嬢と共にいらっしゃいました」
ミアに名を呼ばれた2人の顔は青い。
そして、とどめを刺すかのように、ミアはレコーダーを取り出した。
かちりとスタートボタンが押される。
『…これで、私は殿下と一緒にいられるわっ!…』
『…そうね、我が家は侯爵家になれるのよ!…』
『『…あの女、イオナ・T・ハーサ公爵令嬢を出し抜いてねっ!…』』
流れたこの音声は、会場の空気を見事に凍らせた。
うん、やっぱり見合ったら最高っ!大好きっ!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
*イオナ・T・ハーサ
ハーサ公爵家の長女にして、「店長 兼 メイド 兼 暗殺者、やってます」のお嬢様。
「結構お転婆でいろんなところに遊びに行っている。ミア(メリナ)を勧誘した本人で、ミア(メリナ)が大好き。組織を作り上げた張本人で、初めの勧誘者はミア(メリナ)。ハーサ公爵の長女でがり勉の兄を持つ。本人は否定しているが、秀才で天才のため、文武両道。父と母のいいところを受け継いだのか、容姿端麗。きちんとしたところでは品行方正。ただし、ネコかぶり。兄には嫌われることなく、家族全員に猫かわいがりされている。父であるハーサ公爵が特にかわいがっており、嫌われかけると、国政が止まるらしい。なのでいろんな人から重要視されている。(ただし、同年代には家柄と性格ぐらいしか見られていない)
一応婚約者がいるが…。」
の通り、婚約者はいたが、このようにはめられかけた。ただし、ミアによって完璧に粉砕される。リアノ・ローカト男爵の事は名前と容姿ぐらいしか知らなかった。ちょうど彼女が色々としていたときには、父の手伝いや母の手伝いをしていたがために、全く何も関与していなかった。なので、驚いた。ただ、すぐに矛盾点が多いことに気がつき、腹筋崩壊しかけていたり…。
*ミア(悪夢)もとい、メリナ(侍女)
「「人形・機械神」という種類の女型の魔族(<X>神級)。通称、魔法人形種と呼ばれる《魔力再生》と《変化》等の固有魔法を持つ種族。
元々は、崩れた屋敷にいた人形だったが、魔素が集まって魔法人形種となった。その後に、イオナによって感情を教えられる。そして、イオナの侍女と専属の護衛(組織の一人)になったが、イオナが学園にいったのでカモフラージュに獣人族の国で店を開いた。ちなみに、ものすごくおいしい料理が出て、耐性をつけられたり、強化できると評判で冒険者の人に好んで食べられている。
イオナ一筋でイオナ大好き。一生ついていくと明言したほどである。」
「店長 兼 メイド 兼 暗殺者、やってます」では、メリナと呼ばれていたりするが、それは誓うときとかに呼ぶための真名だったりするので、普段はミアと呼ばれている。今回の事では、イオナお嬢様の事もあり、少々怒。ローリアトカフェで、お嬢様の名を聞いた時、買い出しに付き合わされてとなりにいたビリー(「店長 兼 メイド 兼 暗殺者、やってます」参照)はミアを止めるのにものすごく大変だったとか。
*シースト殿下
とにかく、残念すぎる王子様。頭は悪くはない。ただし、阿保。というか馬鹿。残念すぎる残念系。
女の子に夢を見ていたがために、今回イオナを嵌めることにした。事の最中から空気になっていたりするが、それもリアノ等女性の本性を見て呆然としてしまったがため。
この後、女性恐怖症となり一応王としての座に座るが実際にはあまり執務をせず王妃も設けず、弟の子を殿下として育てることになる。
*リアノ・ローカト
電波系。ローリアトカフェを作ったのも、現代日本のお菓子を作れるほどにはまぁまぁ家庭的ではあったから。ただし、この人も馬鹿。
乙女ゲームのような展開と、王妃になりたいという野望があったがゆえに、現婚約者を蹴り落とすため、このようなことを仕組んだが、ミアにより破壊された。
この後、超厳しい修道院に入れられ、一生幽閉みたいなことになる。
*ソラハ侯爵家の御令嬢
リアノと手を組んで、国を乗っ取ろうとした家の令嬢。いろいろとローカト家と昔から手を組んでいた。
この後は、リアノと同じ道をたどり、ソラハ侯爵家は伯爵位に下げられ、領地も、子爵家ぐらいまで没収され、この後は滅亡の道をたどることになる。




