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1-4 サディの苦悩(前編)

 ダンジョンクリアした私たちは今、大人数で昼ご飯を食べに来ている。


「エイダン!子供達だけでのダンジョンは大変だったみてぇだな!」

「ああ!でもすっげー楽しかったぜ!!」

「よくやったわジョン!あんたは偉い!」

「やめてよ母さん、ちょっと落ち着いて」


エイダン君の家族にジョン君の家族、それからデルラちゃんとサディちゃんの家族。そして私とコーダさん。


「2人ともダンジョンはどうだった?」

「…楽しかった。でもサディが怪我して怖かった」

「もー!デルラは心配性なんだからぁ!サディもね、めーっちゃ楽しかったよ!!」

「チヨちゃん初めてのパーティとダンジョンお疲れ様」

「ありがとうねぇ」


「よし!んじゃあ全員の功績を称えて、かんぱーーーい!!!」

「「「かんぱーーーい!!!!!」」」



 ハリスさんの乾杯の音頭に全員で声を合わせて答える。

そこからはもう誰が何を喋っているのか聞き分けられないくらい盛り上がった。


子供達が今日の反省として「群れに襲われた時の対応はどうするのが正解だったのか」とか「何があってもボスから目を離しちゃだめだ」とか、あとは「ポーションは持ち歩きたい」とか話し合っている。しかし最終的にはなぜか「あの時の〇〇が凄かった!」「いや、〇〇だって格好よかった!」と互いを褒め合っていた。



 初めての子供達だけでのダンジョン攻略はピンチもあったが、それも1つの大きな経験となっただろう。

私も今回の冒険で得たもの、そして今後の課題や目標が見えた様な気がする。



「やぁ、サディを治したポーションってまだあるかい?」


この人は確かジョン君のお父さんだったわねぇ。

ポシェットから取り出して「どうぞ」とポーションを手渡すとジッと見つめている。


「これは珍しいな。子供達の話を聞くと大怪我が治ったと言うから、てっきり大怪我なんて大袈裟でちょっとした切り傷ぐらいかと思ったが。なるほど、このポーションなら納得だ」

「どうしましたスコットさん?」


1人物思いにふけてしまったジョン君のお父さんにコーダさんが興味を示す。

コーダさんと喋っていたハリスさんはもう他の人達と声を大にして話し込んでいた。


「いやぁ、これ凄いんですよ。普通のポーションなのに高品質で回復力も回復量も通常の3倍はある。これならサディの体力だったら簡単に満タンになるでしょう」

「へぇー」

「ここまでの品は滅多にお目にかかれませんよ。サディは運が良かった」

「そうなんですね、しかしボスが後衛まで攻撃飛ばして来るとは想定外だったなぁ。皆んなが無事で本当に良かったよ」


コーダさんは仕事で何度もボスと戦っていたらしいが最初に攻撃パターンを確認したらその後は相手に攻撃の隙も与えずに倒していたと言う。

ジョン君のお父さんは「流石容赦ないですね」と苦笑いを浮かべてポーションを私の手に戻す。



「僕はねハリスパーティの一員だけど戦闘には参加しないんだ。商人として鑑定や売買を行っているからもしそのポーションを売る事があったらぜひ持っておいで。高く買取させてもらうよ」

「ちょっと、チヨちゃんのポーション狙わないで下さいよ。それに貴方達ポーションなんて使わないでしょう」

「分かってませんねコーダさん。確かにうちには大先生が居るから体力回復薬って使う事は無いけど、これは僕の商人としてのコレクション魂ですよ」


自信満々に言い切ったジョン君のお父さんに今度はコーダさんが苦笑を浮かべる。

2人だけじゃない、大人も子供も彼方此方でああだこうだ言いながら、その表情は全員がいろんな笑顔をみせている。


「ふふ、皆さん仲が良いんですね」


思わず溢れた声に2人が反応する。


「なーに言ってんの、チヨちゃんも仲が良いでしょ」

「そうだよ、子供達とパーティを組んだのだから、それはもう実質我々とも仲間って事だ」

「あらあら、ありがとうねぇ」


こんなに嬉しい事があるだろうか。

今日はじめて会った人達と楽しくテーブルを囲って昼間っからどんちゃん騒ぎをする。

そのまま会話は途切れず結局夜まで居座ってしまった。



 みんなと別れて家に帰ると今日の出来事を振り返ってレザーポシェットを漁る。

はじめてのパーティ、何をしたら良いか分からず棒立ちしてしまう場面が何度もあった。

1人だったら自分で敵を倒すべく殴りにかかるのだが今回は前衛職が2人いた。

下手に前へ出て2人の邪魔をしてはいけない。

かと言って後ろに居てもスキル効果が切れたらかけ直すくらいしかやる事が無く、結果棒立ちになってしまったのだ。


何か投擲アイテムでもあれば…


そう思ってポシェットの中身を確認するも目星いものは何も無く、有るのはポーション類や装備品、その加工素材ばかり。

分かってはいたけどこのポシェットの中身は私がゲームとしてこの世界を駆け巡っていた時の物だ。

常に1人で冒険していたため仲間のサポートをするようなアイテムは1つも無い。


そういえば弓や銃の武器もあるけど吟遊詩人でも使えるのかしら。

以前コーダさんから他職の資格があればレベルに応じて恩恵があると聞いた。

例えば採取職の恩恵で吟遊詩人の今でも薬草をすぐに見つけたり、技工士職の恩恵でリュートの傷を修復したり。

魔法も使えたが威力が弱すぎてそこら辺に転がってる石を投げつける方がダメージが通った。


明日遠距離武器を試してみよう。

魔法を思うと期待はできないが何でも試してみないと分からない。

ちなみにリュートの修復は丸1日かかった。あまりの手間にあの1回しかやっていなかったのでまたそろそろ修復したい所だ。



 そしてもう1つ試してみたい事があった。

それは他職への転職だ。

本来なら転職をする時は教会へ行かないと出来ないのだが、レベルをMAXまで上げていると冒険者カードでの簡易転職が出来る様になる。

1度転職をすると吟遊詩人へ戻るのにはまた教会へ行かなければならないので、吟遊詩人で経験値を得たい私は転職をした事がなかった。


この世界、ゲームと全く同じと言うことはなく「あれ?」と疑問に思う事もある。

だが以前冒険者カードを見た時に簡易転職の文字が見えたからきっと出来るのだろう。


さっそく冒険者カードを取り出してみる。


チヨ・ハナサキ 5歳

職業 吟遊詩人 レベル15

体力52 物攻23 物防17

魔力45 魔攻23 魔防15

素早さ20 器用さ23 幸運10


簡易転職(選択▽)

装備条件(OFF▽)


あったわ、簡易転職から選択して…


[一次職]

剣士、戦士、拳闘士、気功師、弓士、銃士、

修道士、司祭、魔道士、占星術士、

商人、採取、錬金術師、技工士

[二次職]

騎士、勇士、狩人、神官、隠者


数ある職から二次職の神官を選ぶ。

修道士と司祭の両方を一定レベル以上にすると転職できる聖魔法に長けた職だ。


転職選択をすると私の頭上から祝福の光が降り注ぐ。

教会で吟遊詩人へ転職した時に浴びたものと同じ光だ。


再度冒険者カードを見てみるとそこには[神官 レベル120]と記されている。

レベルMAXは100だが戦闘職だけ上限解放クエストが有り、それをクリアすると120まで上げる事ができるのだ。

神官になりステータスも上がっているがどうやら体力と魔力は吟遊詩人のまま回復はしていない。

神官のスキルは魔力45で発動出来るものは少ないが単体小回復なら出来るだろう。

魔力回復薬を使う手もあるが今日はお試しなのでこのままロッドを取り出しスキルを発動する。



心の中でスキルへ意識を向けるとみるみる体力が回復していく。

すごい。全回復には程遠いがそれでも瀕死から立ち上がれるくらいには回復するだろう。


 転職とスキルの成功を確認して今度は技工士を選択する。

本職ならばリュートの修復も手早く出来るかもしれない。そう思ってリュートを手に取ると傷や脆くなっている所がよく分かる。手探りで修復した時と違い、どこに何をどのくらいやれば良いのかはっきりと分かる。

これなら短時間で修復完了しそうねぇ。


迷いの無い手つきでリュートを修復したら今度は補強が出来ないかとジッと見てみる。

補強が出来れば追加ステータスを付与する事が出来、初級武器でも多少の威力アップになるのだ。

ただまぁ追加ステータスと言っても初級武器防具に付与できる数値なんて気持ち程度の物だが、それでも無いより良いだろう。


うぅーん、駄目そうねぇ。

武器には種類によって必要な補強素材が異なってくる。楽器系は初めて持つから専用の補強素材を持っていないわ。


補強は諦めて散らかったアイテムを片付けはじめる。

きりが良い所で今日はもう寝ましょうかねぇ。

教会へは明日の朝行こうかしら。


こうして長い1日に終わりを告げる。



 はじめてのダンジョン攻略から早数日。

すっかり子供達とは仲良くなってまた一緒にダンジョンへ挑んだり、子供達が来ない日はいつもの日課になった平野フィールドでバッタやネズミを討伐するという日々を過ごしている。

ダンジョンはボスの攻撃パターンも分かり対策もしっかり話し合ったため初戦のようなピンチも無く良いレベル上げ場所となっている。

お陰様で私は2つ目のスキルも覚える事が出来たのだ。


魔攻強化(消費魔力8)

効果:自身と仲間の魔法攻撃力を短時間小アップ



このスキルによって強化されたデルラちゃんの魔法攻撃は今まで以上にボスへダメージを与え討伐時間も短縮された。


私はと言うと遠距離武器も試してみたがコントロールが難しく結局リュートで叩く事に落ち着いている。

弓は1人でバッタ相手に練習して慣れていこう。



 どれどれ、今日も1日頑張りますかねぇ。

美味しいサンドウィッチを食べ終えたら日課の鍛錬開始だ。

まずは準備運動して、スキルを使い物攻アップしてからひたすら討伐していく。

近くのモンスターを倒し終えたら今度は弓を取り出し矢を放つ。これが何度やっても1発で当たらない。

練習あるのみ。はじめから上手くいく事なんて無いのよ、続けていかなくちゃねぇ。



 しばらく矢を打ち続けていると流石に集中力も切れてくる。

ちょっと休憩にしましょうかね。

「どっこいしょっと」と腰を下ろすと近くに人影がある事に気が付いた。


「おやまぁサディちゃんじゃないの」

「あはは、チヨちゃん『どっこいしょ』ってお婆ちゃんみたい」

「あらあら、恥ずかしいわ」


子供達がここに来る時はいつも4人揃って来ていたので誰か1人だけが来るのは初めてのことだ。

彼女は元気のない笑顔を張り付けて隣に腰を下ろした。


「チヨちゃんは毎日頑張ってて偉いね」

「ふふ、ありがとう。サディちゃんだって毎日頑張っててとっても偉いねぇ」

「んーん、サディは何もしてないよ。本当はサディが1番だめだから頑張らなくちゃいけないのに、こうやってチヨちゃんの邪魔までして、全然偉くない」

「サディちゃん…どうしたの?」



何かあったのは明らかだ。

彼女が毎日欠かさず鍛錬しているのは知っている。

4人だったり、双子のデルラちゃんと2人だったり、いつも誰かと一緒に真剣に頑張っているのを何度も見かけた。

ましてや誰かが休憩中でも彼女が休んでいる姿を見たことはなかった。それほど人一倍頑張っているのだ。


「へへ、ごめんね急に。サディ街に戻るね!」

「じゃあ私も戻ろうかな」

「えっ…」


何があったのか分からないし彼女も口をギュッと紡んでいてこれ以上喋らせるのは酷だろう。

きっと悩みがあるけどソレをどう消化したら良いのか本人も分かっていないのだ。


しっかりしているように見えてもまだ10歳の子供だ。

その心の中には計り知れない程のいろんな思いを抱えているのだろう。

彼女が話してくれない事には何もしてあげられないけれど、それでも私の所へ来たという事は家族や他の子供たちより相談しやすいかもと思ってくれたのだ。

それが意図してじゃなくてもせめて気分転換くらいさせてあげたい。


「ねぇサディちゃん、ちょっとお散歩しようか」


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