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1-2 初スキル習得

 おはようございます。

昨日はこの世界に来て戸惑いやワクワクした気持ちで疲れてしまったのか、家に帰るついて着替えたらすぐに眠ってしまった。


ちと寝過ぎたかねぇ。

朝ごはんを作りながら今日は何をしようかと考える。

街を歩いてお散歩も良いわ。

この世界はどこを見ても綺麗で、そこにいるだけで心が躍る。

旅行なんて30年以上行ってない。

それに年老いてからは家の中を歩くのが精一杯で、外に出て長く歩くなんて出来なかった。

だけど今はそんな心配がない。


子供の体ってこんなに軽いのね、ジャンプだって出来ちゃうわ。ふふ、と第二の人生にワクワクして笑みがこぼれる。


 朝食を終え身支度を整える。

今日もギルド印の布の服だ。



 昨日家に帰ってきて早速ポシェットからお気に入りのワンピースを取り出して着てみたら普通に着る事が出来た。

[ミーティアのローブ レベル80〜]

見た目が好みだったため1人で大魔法使いの森というダンジョンへ取りに行った思い出の防具だ。

だけど昨日のギルド職員さんの言葉を思い出して外着にするのはやめておく事にした。レアリティの高い物は悪い人が追い剥ぎに来るとかなんとか。身の丈にあったものを装備するのが良いと言っていたので今日も布の服にした。


このワンピースは寝間着にしよう。

寝心地も良かった。


 食器を片付け、花に水をやり、軽くお掃除をしたら散歩へ出発。

ゲームでは自宅とギルドくらいしか利用していなかった。

装備品はレアドロップやダンジョンの宝箱から得られたし、技工士スキルで加工すれば高難易度エリアでも十分使えた。回復薬や身体強化薬などは錬金術スキルで自作していたから街の商店へ行く事は滅多に無かったのだ。



 まずはレベル2でも扱い易い武器が欲しいわねぇ。

そう思い武器屋に行く事にした。


「へいらっしゃい!嬢ちゃん何をお求めだい?」

「レベル上げをしたいんだけど、何か良い武器はありますかねぇ」

「職業とレベルを教えてくれるかい」

「えぇもちろんですとも。吟遊詩人のレベル2なのだけど、どうかしら?」

「おお!吟遊詩人とは珍しい!可愛い嬢ちゃんにピッタリな物があるぜ!」


そう言って店主が持ってきたのは先の折れた不思議な弦楽器だった。


「これはリュートと言って吟遊詩人の得意武器だ」


どうだ?気に入ったか?と店主の視線が語る。


「はて、楽器でモンスターを殴るのかね?」

「ガッハッハ!!まさか嬢ちゃん吟遊詩人がどういう職なのか知らずに就いてるのかい!?」


全く武器らしさのない、普通の楽器を渡されて素朴な疑問を口にしたら大笑いされてしまった。


「いいかい、吟遊詩人って言うのはな、楽器の音色に魔力を乗せて仲間の強化を行ったり敵の退化を行う。それで戦闘を有利に進めるようにする大事な役割を果たすんだ。まあ楽器で殴ってる吟遊詩人もいるけどな!」


と、今も笑いが止まらないのか涙目になりながら教えてくれた。

なるほどねぇ、楽器が武器とは楽しそうねぇ。


「吟遊詩人はソロでは戦闘に不向きでレベル上げも大変だ。だから滅多に見かけない。しかしパーティに1人居るとかなり喜ばれるぜ!だから嬢ちゃんもこのリュートを持って頑張れよな!」

「パーティ…」



 実は5年もゲームをしていたが1度もパーティを組んだ事が無かった。

興味はあったがチャットという会話の仕方が分からなかったのだ。だからパーティダンジョンなど1人では挑めない場所には行けなかった。

でも今なら会話の心配はない。

これは吟遊詩人職を育てていつかパーティを組んでみたいわねぇ。


「じゃあ店主さん、そのリュートと言う楽器の武器をくださいな」

「はいよ!毎度あり!」



 武器屋を出て防具屋やアクセサリー屋、素材屋やアイテム屋など色んな店を見て回った。

単に武器屋防具屋と言っても街に1店舗だけではなく各々数店舗あった。

食品スーパーや防具効果を持たないお洒落服店なんかもあって街を見て歩くだけでも時間はあっという間に経っていく。



 3時間くらい歩いたかねぇ。

さすがに疲れてきたので何か軽食でも買って外で食べるとしよう。

昨日の感じだと平野フィールドといっても街に近い所ならゆっくりピクニックが出来そうだった。

近くのサンドウィッチ屋で野菜たっぷりフレッシュサンドを買いフラッと街の外へ出る。


 急にこの世界へ来てしまったが、不思議と恐怖感や不安感は無かった。

それどころか最初は有ったはずの戸惑いなんかも薄れてきて、まるでこの世界の日常が少しずつ心と体に染み込んでくるようだ。



 まぁ!このサンドウィッチとっても美味しいわ。

こんなに美味しい物は久し振りねぇ。

人間どんな事があっても美味しいものを食べるだけで元気が出てくるものだ。


よし、頑張ろう。


腰を上げてリュートを持ちバッタに戦闘を挑む。

昨日の感覚を忘れる前にレベル上げだ。



 こうして毎日お昼時から夕暮れまで低級モンスターとの戦闘が日課になり早1ヶ月が経とうとしていた。



 おやおや、3日ぶりにレベルが上がったねぇ。

毎日リュートで敵を殴り倒していたがレベル8を超えた辺りからレベルが上がり難くなっていた。


冒険者カードを取り出して確認してみると…


チヨ・ハナサキ 5歳

職業 吟遊詩人 レベル12

[新しいスキルを習得しました]

体力48 物攻19 物防15

魔力41 魔攻20 魔防12

素早さ19 器用さ23 幸運10

…▽



レベルが上がった瞬間は体感で分かるようになった。だけど今回はいつもと違う感じがしたのだ。

冒険者カードを見るとどうやらスキルを覚えたらしい。


初めてスキルを覚えたわ。一体どんなスキルかしらねぇ。


物攻強化(消費魔力8)

効果:自身と仲間の物理攻撃力を短時間小アップ


なるほどなるほど。

武器屋の店主が吟遊詩人は強化や退化スキルを音に乗せて発動させると言っていた。

リュートで演奏なんて出来ないが物は試しだ。

さっそくスキルを使用してみよう。


いつも物理攻撃に使っていたリュートを本来の形で手に取る。

そして覚えたばかりのスキルに意識を向けると弦楽器の心地よい音色が広がる。


スキルの力ってすごい。

独学で練習してみたものの全く弾けなかったのに今は指がスラスラ動きしっかりと演奏出来ている。



「チヨちゃん…?」

「えっ?」


不意に後ろから声が聞こえて手が止まる。


「あらコーダさん、こんにちは」

「あっ!こんにちは、チヨちゃん!ビックリしたよー、スキル覚えたんだね。おめでとう!」


声の主はギルド職員のコーダさんだった。

いま街では「毎日楽器でモンスターを殴ってる子供がいる」とちょっとした話題になっていて、通り行く人は「頑張れよ」など声をかけてくれる人も多い。中でも彼はこうしてよく様子を見に来てくれるのだ。


「今日もお仕事ですか?」

「まあね。明日1組のパーティが近くのダンジョンに挑む事になってね、下見も兼ねて先に様子を見ておこうかなと」


コーダさんは見習い冒険者の付添い以外にもエリア調査の仕事なんかもやっているらしい。


「そしたら綺麗な音が聞こえたもんだから本当に驚いたよ!いつも楽器でバッコバコ敵を叩きつけてたチヨちゃんがまさか演奏しているだなんて」

「ふふ、お恥ずかしい限りねぇ。今覚えたばかりなのよ」

「上手に出来てたよ、また聴かせてね!じゃあ僕は仕事してくるから」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」


ここから近くのダンジョンって事は日差しの丘だろうか。確か適正レベルは20〜だった気がする。

私ももう少しレベルが上がったら挑んでみようかしらね。


まだ時間は早いがスキルを覚えた祝いとして今夜はご馳走にしよう。

思ったら即行動。スーパーへ行きお赤飯用の小豆や鯛を購入して自宅で下準備に取り掛かる。



 炊飯器はタイマーをいれて、こっちは火にかければ完成ね。

先に出来上がったサラダや金平、ひじきと豆の煮物をテーブルに並べる。


ちょっと買いすぎちゃったわねぇ。

こういうとき誰か一緒に食べてくれる人が居たら嬉しいのだけど…。

そうだ、コーダさんでも誘ってみようかしら。

この街にも慣れてきて声を交わす人は居るけれど、まだ友達と呼べる様な人は居らず。

でもコーダさんなら今日スキルを覚えた事も知っているし居場所も分かるから誘いやすいわね。


この時間ならまだ仕事中だろう。

コンロの火が付いていないことを確認してギルドへ向かう。



 ギギギィと相変わらず重たいドアを引いて掲示板も見ずにカウンターのお姉さんに尋ねる。

どうやら彼はダンジョンの視察から戻ってきているようですぐに呼びに行ってくれた。


「やあチヨちゃん、どうしたの?」

「コーダさん!もし良ければ今夜一緒にお夕飯食べてくれませんか?」


初スキルのお祝いに作り過ぎてしまったと成り行きを伝えるとコーダさんは快く頷いてくれた。


「もちろんだよ!仕事が終わったらすぐにお家に行くね」

「良かったわぁ。楽しみに待ってます」


仕事の邪魔をするのも悪いので、家の場所を伝えて退出する。



 それからしばらくして仕事を終えたコーダさんが「お待たせー」と来てくれた。

そこからはただひたすらに楽しい時間が続いた。

彼はまず私が1人暮らしな事に驚き、それでも冒険者には色んな事情があると1人納得して、今度はスキルのお祝いにと可愛い髪飾りをプレゼントしてくれたり。


会話も尽きずコーダさんの話や外の色んな街やダンジョンの話など、他愛のないものから興味深い話まで長くお喋りをしていた。

食事を出すと和食が多い事にこれまた驚いたのか、美味しい美味しいと綺麗に食べてくれた。

そして夜も更けてきた時にコーダさんからこんな提案があった。


「もしチヨちゃんが良ければなんだけど、明日のダンジョン攻略に参加してみないかい?」


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