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1-1 はじまりの街

 ずずず・・・はぁー、お茶が美味しいねぇ。


 転職クエストに低級モンスターの討伐があった為、はじまりの街【アコールスター】の教会にいたのだが、そこには冒険者レベルをMAXまで上げたプレイヤーに贈られるマイホームがある。

マイホームは全員同じ場所で各々自分の家しか目視出来ないが、パーティを組むかフレンド登録をしていると誰の家に入るか選択出来る仕様だった。

そんな感じなので教会を出てすぐに自宅があるかどうか確認をしに来たのだ。



 はぁぁ、家は有ったし外観も内装も私がアレンジしたそのままよ。

こりゃあ嬉しくて溜息が出ちゃうわねぇ。


 姿見には見慣れた女の子。

前世では子を授かれず孫なんて夢のまた夢だった。

そんな思いからキャラクターを作れると知り身長は1番低く90センチにした。


身に付けているレザーポシェットは所謂"冒険者かばん"と言うやつで、見た目は空っぽだが手を入れれば脳裏に中身が見える不思議なアイテムだ。


 ふむふむ、こんな風になってるのねぇ。

どれ、急須と湯呑み、お茶っ葉を取り出して今世の自宅で一息つこうか。



 そんなこんなで冒頭に戻りのんびりとしていた所だ。


 さて、先程姿見をみて思った事がある。

なんと今の私は肌着姿なのだ。

真っ白なパンツに真っ白なインナーワンピース。

いくら子供の姿とはいえコレで教会から自宅まで歩いていたのかと思うと少し恥ずかしい。

そこでポシェットから衣服を取り出して着ようとするも何故か上手に着る事が出来ず服はまたポシェットにしまわれてしまった。


 おやまぁ、おかしいわねぇ。

洋服くらい1人で着れるはずなのに…。

うーん、困ったわ。


 数着試してみたがどれも失敗に終わり他に何か無いかとポシェットの中身をひたすら眺めてみる。

すると冒険者カードが光っているじゃないの!

あらあら何事かしら。と、取り出して見てみると


チヨ・ハナサキ 5歳

職業 吟遊詩人 レベル1

[レベルに満たない装備は着用する事が出来ません]

体力30 物攻5 物防5

魔力20 魔攻10 魔防8

素早さ5 器用さ0 幸運5

…▽


 まあ!ふふ、そういう事だったのね。

カードの文字を見て思わず笑ってしまう。

そして服が着れない事に納得する。


 ポシェットに入ってる服はどれもこれも高レベル用の物ばかりだ。

レベル1でも着れる物としたらイベントで得たネタ装備と総称されるやつか、ゲーム開始直後にギルドから貰える冒険者用初期装備。


 あ!あったわ、これよこれ!最初に貰ったやつ!

自宅のクローゼットから冒険者用初期装備を取り出してジッと見てみる。

するとポシェットのアイテムみたく脳裏には手にした装備の説明が見える。


ギルド印の布の服(上・下)

条件:全職レベル1〜

ステータス:物防8

追加ステータス

物攻+15 物防+15


ふふふ、懐かしいわ。

技工士職で加工した追加ステータスもそのまま付いているのね。


どれどれ、早速着てみると問題なく1人で服を着る事が出来た!

転職なんて久し振りすぎて装備のレベル条件を忘れていたわ。

この後はどうしようかしらねぇ。

本来なら転職後すぐにレベルを上げたい。まずギルドで依頼を受けて、レベルを上げながら新しい職がどんなスキルを覚えるのか楽しくゲームに没頭していただろう。

しかし今の私にとっては楽しくゲームとはいかない。

ここはもうゲームの世界ではなく現実世界なのだ。

レベルを上げると言うことはモンスターと戦わなければいけない。

もちろんそのモンスターだって生き物なわけでそれを殺生すると言うことだ。


 うーん、うぅーん。

まぁ考えていたって仕方がないわね。

実際にモンスターを目の前にしてみないと戦えるか戦えないか分からないわ。

この街の周辺なら低級モンスターしか居ないと思うし先ずは実践!

ダメならその時考えましょうかねぇ。


昔から「考えても分からなければやってみよ」な精神で生きてきたため今回も思うままに従ってギルドへ行く事にする。



 ギギギィと重たいドアを引いて中に入れば数名の冒険者達が各々依頼を選んだり受付窓口で会話をしている様子が広がる。


 どれどれ、レベル1でも無理なく出来るものはあるかねぇ。

まずは掲示板で何か目星いものがあるか確認をし、無ければ窓口で相談が出来るはずだ。

掲示板のスペースは限られており、新しい依頼や急ぎの依頼、その土地に見合った依頼が優先で貼られている。

いきなり討伐依頼を受けて「出来ませんでした」じゃあ悪いから採取系か納品系で外へ出てみようかしら。

1番簡単そうな薬草採取に目をつけて空いてる受付へ行く。


「すみません、薬草採取の依頼を受けたいのですが」

「こんにちは!薬草でしたらまだまだ募集中ですよ。ギルドカードと冒険者カードはお持ちでしょうか?」

「ギルドカードと冒険者カード…あぁ、あったあった。はいこれで大丈夫かねぇ」


ポシェットからカードを2枚出してカウンターに出す。


「ありがとうございます!ギルドカード確認させて頂きます。それから冒険者カードはなるべく自分以外の人には見せないようお気を付け下さいませ」


そう言ってお姉さんはギルドカードを取り、冒険者カードは裏返してこちらへ戻してきた。

あらまぁ、有るか聞かれたから出したのに他者へ見せてはだめなのねぇ。


「冒険者カードには自分のステータスが載っています。人間同士の争いはご法度ですが、それでも自分のステータスを晒すと言うのは時に危険行為です。もしどこかで冒険者カードの確認をされそうになってもギルドカードをお渡しくださいね」


どうやらお姉さんの話を聞くにこういう事らしい。

ギルドカードを所持している者なら漏れ無く全員冒険者カードも持っている。

ギルドで初めて見る冒険者、特に子供の場合はその事を知っているのか確認のため冒険者カードについて聞く事がある。

どこへ行ってもギルドカードだけを提示すれば良い。

冒険者カードを出して来た人へは注意を促す。


などなど。親切丁寧に教えてくれた。

それからここは子供冒険者用の受付窓口らしく、周りを見れば確かに他よりカウンターが低く、私でも余裕でお姉さんの顔を見て会話ができるようになっている。


「差し支えなければ貴方のお名前と職業、レベルをお教えくださいませ」

「えぇえぇもちろんですよ。チヨと申します。吟遊詩人のレベル1でございます」

「ありがとうございます。ではチヨさん、吟遊詩人と言う事は冒険者レベルは10以上の事と思います。ですが転職によりステータスも下がり薬草採取でもモンスターと対峙する場合があり危険を伴います。当ギルドでは職員が付添いする事も出来ますがいかがなさいますか?」


なんとまぁ!職員さんが来てくれるとなると心強いわね。

ぜひお願いします。と伝えて付添い職員さんが来るまでの間に依頼の内容を簡単に説明してもらう。


「なにか分からない事や聞きたい事はありませんか?」

「いえいえ、分かり易い説明をありがとうね」

「道中疑問がありましたらコチラの職員へ何でもお聞きくださいませ」


では行ってらっしゃいませ!

明るく見送る声を聞いてギルドから外へと進む。



 隣を歩くこの人が付添いの職員さんだろう。

まだ20〜30代くらいの若いお兄さんだがギルドで見かけた冒険者達に負けず劣らずガッシリした身体つきだ。


「はじめまして、ギルド職員のコーダです。今日は宜しくね、チヨちゃん」

「こちらこそ宜しく頼みます、コーダさん」


 ギルドを出て真っ直ぐ街の外、平野フィールドへと来た。

ここから薬草を3つ以上採取すれば報告・納品が出来るらしい。


「えぇーと、薬草薬草、うぅーん」


まぁ困ったわぁ。辺り一面草はあるけど、どれが薬草なのか分からないわ。

そんな私に気が付いたのかコーダさんがすぐに手助けをしてくれた。


「これが薬草で、同じ物を見つけたら採ってね。薬草はフィールドだったら基本的にどこでも生えてるから討伐依頼の時なんかも見かけたら採っておくと良いよ」

「なるほどなるほど。ありがとうねぇ」


薬草の葉の形は分かったが探すのは一苦労かな。

夫は草花に詳しくてよく山菜とか採ってきたものだわ。それも散歩中にパッと見つけては手際良く採っていた。

あの人だったら得意そうね。ふふ、と思わず笑みが浮かぶ。


気を取り直して薬草を探すべく辺り一面を見渡してみる。

すると彼方此方に僅かな光の主張が見えた。

近付いて見てみると薬草だ。

あれもこれも僅かに光っている物は全て薬草で、あっという間に15個も集まった。


「チヨちゃん凄いね!よく見つけたね!」

「なんだかねぇ、コーダさんが薬草を教えてくれたら少しだけ光ったのよ。コーダさんのおかげだわ」

「あれ?チヨちゃんもしかして採取職も資格持ってるのかな?」

「前に取りましたねぇ」

「それですぐに見つける事が出来たんだね。薬草を知らなかったのは珍しいけど納得だ」


はて、どう言う事だろうかと思いコーダさんを見上げると説明してくれた。


今自分が就いているメイン職の他に、今までの経験職の恩恵が微力ながら付いてくるそうだ。


採取職を持っていれば探す素材が見つけやすくなる。

戦闘職を持っていれば、武器の扱いやスキルの使用ができるようになる。

他の職も然り、何かしらの恩恵があるとの事。

だがそれらはあくまでも微力で、さらにメイン職のレベルにも関係してくるらしい。


吟遊詩人レベル1の私だと近くにある薬草をごく僅かな光で見つけられたが、きっと他の物では光らないだろうと。

試しに麻痺直し草を見せてもらって探したが光らなかった。


「それにしてもチヨちゃん、フィールドでの経験も有りそうだし薬草は集まったけどモンスター討伐もやって行くかい?」

「良いんですか?コーダさんが一緒なら心強いわ」


少しでもレベルを上げたい気持ちもあり彼に習いながら低級モンスターと戦う事にした。



 この平野には大きなネズミやバッタのモンスターがいる。

バッタは近寄ってもこちらから攻撃しない限りは滅多に襲ってこないため戦闘の練習に適しているらしい。


「チヨちゃん武器は持ってる?」

「そうねぇ何か使えそうな物は有るかしら」


ポシェットに手を入れてうぅーんとこれまた唸り出してしまう。

レベル1で扱える武器は無さそうだわ。


「武器は無いみたいですねぇ」

「そっかそっか!良ければコレ使ってみて。素手より良いはずだから」

「あらまぁ、お借りします」


コーダさんに木の棒を借りていざバッタモンスターの近くに!


 そして私は初めて本物のモンスターを目の前にして、やはり攻撃だなんて出来そうも無い事を思い知る。

ただただ無害に移動しては草を食べているだけのモンスター。自分のレベルを上げたいがために殺すと言うのは人としていかがなものだろうか。


「チヨちゃん大丈夫?怖いかな?」

「怖くは無いんだけどね、こうも無害だと木の棒で叩くのはちょっと…」


立ち尽くしてしまった私にコーダさんが心配の声をかけてくれた。

確かにとっても大きなバッタだ。人間の赤ちゃんくらいはある。しかしこうも無害だと戦う気も起きない。

コーダさんは何か考え出したようで少しの間が空いた。


「チヨちゃんは優しいね。でもね無害なモンスターなんて居ないんだよ」


バッタは毎日草を食べている。それは薬草などアイテムとして使える草も関係無く食べてしまう。

放って置くとバッタの数も増え一切の採取も出来なくなる。それに見習い冒険者や非冒険者が万が一戦闘になれば大怪我だってする。

ネズミの方は気が荒いものが多く近寄るだけで攻撃をしてくる。それこそ毎年怪我の被害報告が後を絶たない。

低級モンスターと言えど放っておけば人間が亡くなるんだ。

と、コーダさんはモンスターとは何なのかを簡単に、分かりやすく教えてくれた。


「それにね、フィールドからモンスターを1匹残らず根絶やしにしても必ずまた現れるんだ。だから冒険者は必要だし、依頼も無くならない」


ちょっと難しかったかな?と、眉を下げ控えめな笑顔を見せている。

いえいえ、十分理解しましたよ。


 そういえばまだ腰も痛くない頃、育てていた植木や作物に虫がついた時は追い払ったり潰したりしていた。そうしなければ花もトマトも守れなかったのだ。


この世界では虫を放置しただけで人命に関わる。

そして私には冒険者としてできる事がある。

吟遊詩人はレベル1だが他の職は全てレベルMAX。上限突破もしている。

きっと少しくらい役に立てる事もあるだろう。

それにこの世界を楽しむと決めたから。

だったら世界のルールに則って、モンスター討伐やってみましょう!

郷に入っては郷に従えってね。


あとやっぱり新しい職のスキルとか見てみたいじゃない?

その為にはレベル上げが必要よねぇ。


「コーダさん沢山教えてくれてありがとう。私レベルを上げてスキルも覚えたいし、色んなお洋服も着てみたいから頑張るわ」


そう伝えて目の前のバッタに勢いよく木の棒で叩きつける。

すると敵対関係になりバッタもこちらへ向かってタックルをしてくる。

なんとか回避しながら叩く事数回、バッタは倒れて動かなくなった。


「おめでとうチヨちゃん!やったね!モンスターを倒したら欲しい素材は早めに取るんだよ。じゃないと」


コーダさんが言い終わる前にバッタはサラサラと空気の中に揮発したように消えていった。


「あらまぁ!消えちゃうのねぇ」

「そうなんだよ。モンスターによって消滅までの時間にバラつきは有るものの消える前に素材として取った物は無くならないから欲しいものがある時は早めにね」


需要のある素材リストがギルドにあるとのことで帰ったらすぐに確認してみようと思う。



「ねえ、チヨちゃんさっきレベル上げて洋服を着たいって言ってた?」

「えぇ、せっかく可愛らしいお洋服が沢山あるんだもの。なのに条件レベルのせいで着れないなんて悲しいわ」

「あはは!やっぱりそう言うことか。冒険者カードの下の方を見てごらん。そこに装備条件のオンオフが有るからオフにすると良いよ」


あらあら、そんな機能が有ったのねぇ。

すぐに冒険者カードを取り出して下まで見てみる。


ーーー

チヨ・ハナサキ 5歳

職業 吟遊詩人 レベル1

体力30 物攻5 物防5

魔力20 魔攻10 魔防8

素早さ5 器用さ0 幸運5


簡易転職(選択▽)

装備条件(ON▽)

ーーー


流石にバッタ1匹倒したくらいじゃあレベルは上がらないわね。

簡易転職はきっとレベルMAXになると教会へ行かずとも転職できる機能で、その下の装備条件ってやつが洋服が着れなかった原因かな。

思えばゲームでも装備とは別にアバター装備なんて機能が有った気がする。あれは装備の上に着る物だったし、ほとんど使用した事が無かったから忘れてたわ。


装備条件をオフにしてカードを仕舞いこむ。



「レベルを1つくらいあげたらギルドに薬草を届けようと思います。その後自宅で着替えてみるね」

「良いね、今のモンスターをあと2匹倒せばレベル2になるはずだよ。頑張って!」


コーダさんに応援してもらいながらバッタを2匹倒して難無くレベルアップした。

ステータスは然程変わらなかったしスキルも覚えなかったが1度ギルドへ戻ろう。



 帰路で彼は装備について教えてくれた。

装備条件とは、例えば「鉄の鎧なんかはレベル1で身に付けるには重たいですよ、レベル10程あれば楽に着れると思いますよ。」と、目安みたいなもの。

着れるなら着ても構わない。

ただし条件に満ちていない装備はその効果も減少してしまう。鉄の鎧の基本効果が物防+30だとしたらレベル1で装備しても物防は+10程度しか得られないらしい。


「あとは万が一レアリティの高い武器や防具を持っていたら悪い奴に狙われる事もあるから、だからまあ慣れるまでは身の丈にあったものを装備するのがお勧めかな」

「そうなのねぇ。何から何まで教えてくれて本当にありがとう。そうだわ、今日のお礼によければ貰ってちょうだい」


採取依頼だったのに長く付き合わせてしまった。

また、モンスターや装備・アクセサリーについてや他職の恩恵など沢山の事を教えてくれたお礼にとポシェットから黒糖まんじゅうを渡してギルドへ戻ってきた。



 カウンターで薬草を渡し、個数分の硬貨を受け取る。これで依頼は達成だ。

これがゲームだったらレベル2にして1日が終わるなんて事は無かっただろう。しかし今日は初めての事だらけで気疲れしてしまった。

コントローラーでは無く、自身の手で薬草を採りモンスターと戦った。


今日はもう家で休むとしますかねぇ。


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