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1-9 ハリス視点

初めはサディの精神状況を案じての帰省のつもりだった。

ついでにエイダンとデルラにも母親と合わせてやりたかったのもあるが、それは年内にいずれと思っていた程度だ。

そして事情を知るコーダに連絡すると意外な返信が来たもんだ。


「吟遊詩人の女の子も一緒にダンジョンへ連れて行って欲しい」と。


俺達は大人数パーティだが他人は受け入れていない。

旅の道中何回も「うちの子も連れて行ってくれ」と言われてきたが断り続けている。

それはいざと言う時に確実に守ってやれる保証が無いからだ。


元々高レベル帯の依頼を受けていた俺達だが結婚を機に一度解散し子供達が3歳になる頃に再結成した。しかし解散中も全く依頼を受けていない訳ではなかった。

断り難いもの、面白そうなもの、国からや世話になったギルドからの指名依頼なんかは受けていた。

そしてそれは子供達をパーティに加えた今でも続いている。


もちろん危険度の高い場所には俺とオーモンの2人で行くか勇士のスコットを連れて3人で行くかで、わざわざ子供達を連れて行く事は無い。


子供達にも強くなってもらいたいが危険な目に遭わせたい訳では無いからな。


だがそれでも目的地までの道のりで避けられない所は出てきてしまう。

そうした時は全力で守って来たが、そこに他人の子を預かる余裕など無い訳で。

大人だって同じ事だ。たまにパーティに入りたいという奴も居るが足を引っ張られたらたまったもんじゃない。


だから俺達は絶対にパーティの受け入れはしていない。

コーダもそれを知らない訳では無いはず。

知っていて尚、そう言ってきたのだ。


本来なら断る所だが俺はそれを受け入れた。

アコールスターである事、子供達のパーティでありハリスパーティとしてでは無い事、そして子供達に新しい環境を与えて気分転換になればと思ったから。


そして実際に会った吟遊詩人の女の子、チヨちゃんは普通の女の子だった。

性格も良く、子供達とも仲良くしてくれている。

何よりサディの悩みを聞き出してくれた事には感謝もしている。

ただどう見ても少し言葉遣いが丁寧な普通の子だ。

なぜコーダがこんな事を頼んできたのか分からなかった。


しかしその疑問は接しているうちに段々と分かった気がした。


初めは薬草採取しているのを見かけた時。

まあ親の手伝いとかで採取職を齧っている奴は多い。

サディが貰った服もここら辺じゃ手に入らないダンジョン品だし、チヨちゃんのポーションは高品質らしいから親が優秀な冒険者なのだろう。

しかし子供達から聞いたところ親は居らず一人暮らしだと言う。


次に弓の扱いを見た時。

子供達とダンジョンに行ってから弓を始めたと耳にしたが、それにしては上手すぎる。

いや、上手いのとは少し違うか。

弓を扱うだけなら誰でもできる。それこそ彼女は初心者らしく拙い扱いだ。

ただ弓での威力をきちんと引き出していた。

これは弓士系の職をある程度経験している人の出せる威力だ。

本来なら自分の職業が得意としてる武器以外は威力を引き出すのが難しい。

出来ない事は無いけど初めからこの威力は出せないだろう。


そして特殊ダンジョンでの出来事。

前方から襲って来たママラを倒し終えた時に後方から隙をついて飛び出て来た敵に反応していた。

恐ろしく勘が良いのか、はたまたこれも弓士のスキル、気配察知で感じ取ったのか。

気配察知は他の職でも得られるスキルだがチヨちゃんに恩恵として効果が出るのは弓士なので、弓の扱いから見ても弓士職は経験しているのだろう。


他にも気になる事はあるが、確かに普通の女の子とはもう思えない。

冒険者としては理解できるが5歳の割に精神面がしっかりし過ぎているんだ。

5歳なんてワガママだしよく泣くし言う事なんか聞きやしない。

だけどチヨちゃんは周りに頼る事なく自立した生活を送り、喋ってみりゃあ聞き分けも良い。

きっと身近でチヨちゃんを見ていたコーダにはもっと大きな違和感があったのだろう。



だがまあやっぱり俺にとっては普通の女の子だ。

5歳で冒険者、採取、弓士を齧ってから吟遊詩人だって不思議な事は無い。

実際エイダンも冒険者から戦士になり、今の剣士になっている。

3歳で俺と同じ騎士になりたいと言うから剣士と戦士両方の経験を積ませる必要があった。

7年間ずっと鍛錬している訳でも無いが戦士としてはかなり成長した。

だから今は剣士に転職してまたレベル1からやっている。


ふ、アコールスターに来た時はエイダン達も2度目の転職でまだ20レベル程度だったのに。

すっかり逞しくなってきたもんだぜ。


それにしてもチヨちゃんか。

あのコーダが気にかけるくらいだ。

きっとまだ何かあるんだろうな。

でもまだ5歳だ。

アコールスターに居たらどこかのパーティに入るのも難しいだろうし、かと言って1人で旅に出る事もないだろう。

再会するのは俺達の帰省の際だろうな。

あそこに居れば危険は少ないから大丈夫だろ。



「あー!チヨちゃんからメール来た!!チヨちゃん1人旅に出たんだってー!!」

「んげふっごふっ!サ、サディそれマジか!?」

「ほんとだよー!また会えると良いなあ」


吟遊詩人が5歳で1人旅、マジか。

本当に普通の女の子か?

コーダはアコールスターから離れられないし旅に出るならソロになるのは分かるが・・・。


いや、マジか。

いや、いや、隣街くらいは余裕で行けるだろう。

あの活気あるギルドで気後れでもして寂しくて帰る事だってある。

今は様子を見るしかないな。


子供達の友達だ、何かあったら助けにくらいなってやりたい。

でも今はとにかく俺達は俺達の依頼達成を目指すか。


「サディ、またチヨちゃんから連絡来たら教えてくれて」


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