1-7 魔法攻撃の習得
全員がポータルで入り口まで戻ったのを確認してハリスさんが口を開く。
「突然だが俺たちはこのまま森を抜けてまた冒険に出る」
「ちぇー、やっぱりそうかよ」
「そんな気してたよねー」
「もっと前もって教えて欲しかったよ、そしたらちゃんとチヨちゃんに伝えられたのに」
「チヨちゃん…お別れ?」
子供達には教えてないって言ってたけど皆んな察していた様子だ。
ただ1つ、私との別れを除いて。
「えー!?チヨちゃん一緒に来ないのお!?やだよー!!」
「サディ、チヨちゃんにも家族が居るんだから無理言っちゃ駄目だよ」
「あのねお父さん、チヨちゃん1人なんだよ!?」
「家族は関係ない…私達もお母さんと離れる」
「サディ、デルラ、2人とも知っているだろう。ハリスパーティは誰も連れて行かない」
「そうだけどぉー」
2人が駄々こねるのは珍しいのだろう。
大人達がどうしたもんかと困った顔をしている。
「サディちゃん、デルラちゃん、私もっと強くなって冒険に出るから、その時はまた一緒にダンジョン入ってくれる?」
「うぅー、分かった。わがまま言ってごめんなさい」
「僕もサディの気持ち分かるな、もっとチヨちゃんと居たかったもん。事前に出発日教えられなくてごめんね」
「ううん、ジョン君もエイダン君も皆んなありがとうねぇ。また今度会えるのを楽しみにしてるね」
「それじゃあチヨちゃん、僕と一緒に皆んなを森の入り口まで見送りに行こうか」
特殊ダンジョンから少し歩いた所がもう森の入り口でそこには女性が3人待機していた。
エイダン君のお母さんとデルラちゃんとサディちゃんのお母さん、そして護衛としてギルド職員が1人。
「皆んな行ってらっしゃい」
「またいつでも帰っておいでね」
「いつも待たせてばかりで悪いな、コイツらの事は任せてくれ」
ハリスさんがそう言うと子供達も「大丈夫!」と笑顔で別れを告げる。
「行ってくるぜ!」
「メールするからねー!」
「お土産も…送る!」
この世界に来て初めての友達、毎日の様に一緒に過ごした子供達との別れは正直寂しいわ。
だけど皆んなの更なる成長と活躍を願って私も笑顔で送り出さなくちゃねぇ。
「みんな、ご武運を」
「「チヨちゃんもね!またねー!!」」
ばいばーいと手を振り皆んなの背中を見送る。
途中何度も振り返ってくれて、また大きく手を振って、姿が見えなくなるまで見送ってから私たちも街に戻る。
コーダさんはまだこれから仕事があるそうで、街に着いて早々に解散となった。
「チヨちゃん大丈夫?寂しくなったらいつでもおいでね」
「ふふ、大丈夫よ。ありがとうねぇ」
わずか2〜3ヶ月程だが子供達と過ごした時間はとても楽しくて幸せで、充実した日々を送らさせてもらった。
吟遊詩人のレベルも上がり冒険者としても沢山のヒントを貰い今後に活かしたいと思う。
・・・ふぅ、でも今日くらいは特殊ダンジョンも行ったしお休みにして、また明日から頑張ろうかしらね。
こうしてハリスパーティを見送り、また1人で鍛錬に励む日々が戻ってきた。
スコットさんに教えてもらった森の入り口でのレベル上げは油断すると怪我をするくらい緊張感のある場所で毎日時間があっという間に過ぎていく。
薬草やポーションの使い方も身をもって理解する事ができた。
「んんー、皆んな元気にしてるかしらねぇ」
疲れた体を伸ばしながらふとポシェットに目をやると中で冒険者カードがピカピカと点滅しているのに気が付いた。
はて、何かしら。
カードを取り出してみてみるとメールが1通届いてる様だ。
[チヨちゃーん!元気にしてる?サディ達はずっと歩きっぱなしで疲れたよー!今日やっとアレールって街に到着して今は宿でゆっくりしてるんだ。すっごい綺麗な街だからチヨちゃんにも見せたげるね!!]
メールには美しい街の風景写真が添えられていた。
ふふ、ほんと綺麗な街ねぇ。
ちょうど想っていた相手からの連絡に嬉しくなる。
さっそく返事を書かなくちゃ!
私は元気に過ごしてる事と近状を書いて返信する。
それからと言うものサディちゃんとはよく他愛のない事でも連絡のやりとりをするようになった。
ハリスパーティはギルドや個人からの直接的な依頼をこなしたり、余暇があればダンジョン攻略をしてレアドロップ品を集めているらしい。
サディちゃんの話を聞いてると私も色んなところに行って美味しいものを食べたり美しい風景を見て歩きたくなってくるわ。
んー、よし!思ったらなんでも即行動よ!!
1人で森を抜けられるようになったら隣町へ行ってみましょう。
それからの事はそのあと考えるとして、今はまずステータスアップを目指して森のモンスターが群れできても対応出来る様にならなくちゃね。
その為には日差しの丘ダンジョンでボスからのドロップ品、糸を集めてリュートの強化。
さらにその為には魔法の特訓に入る必要がある。
あそこのボスの弱点は魔法で、私のステータスも物攻より魔攻の方が少し上回っているのだ。
以前魔法を使用してみた時はコントロールが難しく、遠距離攻撃するなら弓の方がまだ手に合っていた。
そしてこれはゲームをしていた時の知識なのだが狩人のスキルに弓矢と魔法を組み合わせたスキルがあったはず。
それを真似して矢に魔法を纏えばなんちゃって魔法攻撃が出来るんじゃないかしら。
私はフィールドへ出ると弓を構えて久しぶりの魔法に意識を向ける。
矢に炎を纏うイメージで・・・集中集中
ほんのり手が温かくなってきた。
今だ!!
パシッと矢を放つと瞬間に矢は炎に燃えて無くなってしまった。
あ、あれまぁ。
木製の矢じゃダメだったかしら。
それなら今度は水魔法でチャレンジよ!
べチャン
ありゃー、水もダメなのね。
それなら風!次は雷!土!聖!闇!
これは思ったより難関だわ。
水は飛ばずに地面へ墜落、風はコントロール出来ずに飛んでいった、雷は焦げて無くなり、土は矢に大きな泥団子が付いて墜落、聖は光って眩しくてコントロール不可、闇は何も変化がなく分からない。
うっ、お手上げかしら。
「これはまた凄いね」
「あら、お恥ずかしい所を見られちゃったわ」
うふふと笑うとコーダさんはなんだか困ったような表情をしている。
「魔法の反応があったから来てみたら・・・ふぅ、僕で良かったよ」
「もしかして魔法はダメでしたかしらねぇ?」
「あはは、そんな事ないよ。だけど1人でやるのは大変でしょ?チヨちゃんのやりたい事を教えてくれたら僕も何か手伝えるんじゃ無いかなって」
「まぁ!コーダさんがお手伝いくださるなら百人力です!!」
自己流で魔法をやってみたものの上手くいかなかった。
彼が教えてくれるなら安心だし助かるわねぇ。
私は糸を集める為に魔法攻撃を身につけたい事を説明した。
「なるほど。今必要な魔法を教えるのは出来るけど、その前にチヨちゃんにお話があります」
「なんでしょう?」
吟遊詩人で弓やら魔法やらはお門違いなのかしら。
コーダさんの雰囲気をみるに真剣な話みたいね。
「チヨちゃんは今5歳だよね?」
「はい、そうですよ」
「5歳で転職はかなり早いけど居なくはない。だけど確かチヨちゃんは採取職の資格も持ってて吟遊詩人をやっている。弓の威力から弓士も持っているだろう。そして今の魔法をみるに魔道士、占星術士の両方も持っているね?」
「は、はい。そうですねぇ」
そうか、吟遊詩人だけなら普通私のレベルで魔法は使わないのかもしれない。
しかも火水風土の魔道士、聖闇の占星術士、どれも一次職とは言えおかしいのかもしれないわ。
私は元々この世界の住人じゃない。
5年間ゲームとしてこの世界を遊んでいた人間だ。
言わば0歳からモンスターを倒して、早送りでレベル上げをしていたも同然。
ゲームなら皆んな色んな職をレベルMAXまで上げていたが、現実は違った。
この世界の人たちは1つの職を鍛え上げるのが普通だと知ったのだ。
魔法職なら一次職の魔道士と占星術士、そして二次職の隠者。
寄り道で修道士の資格を取る事があってもレベル上げをする余裕もない。
そんな事をしてたら働き盛りの歳に隠者のレベルもスキルも中途半端で強くなれないらしい。
それなのに私はゲームとしてやってきたステータスがあるからと、吟遊詩人なのにも関わらず魔法を使おうとしていたのだ。
やってはいけない事だったのかもしれない。
「ごめんなさい」
考えたらサーと血の気が引いて申し訳ない気持ちが出てきてしまった。
「あっごめんね!違う違う、大丈夫だよ。別に責めてるわけじゃないんだ、本当に。大丈夫だからね」
ぎゅうっと手を握られるとコーダさんの体温と一緒に困惑が伝わってくる。
「チヨちゃんが色んな職の資格を持っている事に驚いただけなんだ。そしてそれは凄く良い選択だと思う。ただ同時に心配でもある」
「心配、ですか?」
「今まで職は1つに絞ってレベルを上げていくのが一般的だったんだけど、チヨちゃんには以前話したの覚えてる?他の職の資格があれば微力ながらも恩恵があるって」
「はい。吟遊詩人の私が簡単に薬草採取出来るのも採取職の資格があるからで、さっき魔法が使えたのも魔法職の恩恵のおかげで」
「そう!その微力の恩恵が今見直しされてるんだ。色んな職を経験していればメイン職のステータスも出来る事も大幅にアップされる。これからはきっと1つの職を極める為にあえてサブ職も育てる時代になるだろうってね」
「でもそうしたら自分が本当にやりたい職業を極める事が難しいんじゃないのかしら」
他の職業に就いているとメイン職のレベルは上がらない。
だから皆んな1つの職に絞っているはずだ。
「本気で強くなりたい人が他の職をやるのは意外と可能なもんなんだよ。実際僕も他の戦闘職はそれなりにやってるしね」
「そうなんですねぇ」
「だけどチヨちゃんの年齢で色々出来ちゃうのは危険だからね!」
「確かに子供が魔法を扱うのは・・・」
「いや、それは問題ないよ!危険なのは悪い冒険者に利用されかねないって事。今後チヨちゃんが旅に出て、何かの依頼でパーティを組む事が出てくるかもしれない。その時にチヨちゃんが色々出来るからって変な奴に利用でもされたら大変だ!」
そっか、旅に出たらまたどこかでパーティ参加する事があるかもしれないのね。
1人旅だからと言って常にソロなわけじゃ無い。
「利用されない様にするにはどうしたら良いのかしら」
「弓で魔法攻撃をしたいんだよね、そうしたらまず矢は魔法で作り出そうか」
「矢を魔法で・・・?」
「うん、無属性だから魔法の矢は物理攻撃になるんだけど、それなら魔法を纏う時に耐久のある矢が出来るからね」
「なるほどねぇ、やってみますね!」
私は弓だけを持って魔法の矢をイメージして手を引いてみる。
しかし何も起こらない。
「もう一度構えて、矢を引く手は握り切らずに、そう、本当に矢がある様に少し隙間を作って」
コーダさんの言葉に意識を向けると手に僅かな感触が出てくる。
このまま矢を思い浮かべて・・・!!
キィン
で、できた!白くて金属みたいな矢が確かに手の中にあるわ!
パシュッと放つとそれは普段の弓矢と変わりなく飛んでいった。
「はは、チヨちゃんは才能の塊だな。これに魔法を纏うんだけど、ここで1つ約束をしようか」
「なんでしょうか?」
「チヨちゃんがもっと強くなって自分の身を守れる様になるまでは使う魔法は火と土だけにして」
「火と土。分かりました!」
「ありがとう。なんでも出来る事を知られないように、そうしたら少しは変な奴から目を付けられないはずだからね」
「なるほどねぇ」
それから私はコーダさんに火魔法と土魔法の使い方を教えてもらいまた1人で鍛錬を続けていく。
彼は仕事中にも関わらず私の魔法を感知して駆けつけて来てくれたらしく、ひと段落したのちに仕事に戻っていった。
火魔法は最初に試したように炎を纏うイメージで大丈夫。ただ火力だけ要調整だ。
森を燃やすわけにはいかないからね。
そして土魔法は泥団子じゃなくて石つぶてを矢の周りにいくつも添えていくイメージ。
それらが散らないようにして放つのはなかなか大変だ。
初めて魔法を使った時は吟遊詩人のレベルが低くて魔法の威力も弱かったが今なら日差しの丘程度のボス戦では使えそうだ。
これからしばらくは毎日魔法の特訓ねぇ。
魔力の消耗もあるから魔力回復薬の準備もして頑張らなくっちゃ。