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それぞれの恋物語

青い蝶

作者: 崎先 サキ

「あなたの背中」という短編の王太子妃のお話です。




王子様と結婚してお姫様はいつまでも仲良く暮らしました。

めでたしめでたし。


王子様とお姫様の出てくる物語はいつもハッピーエンド。


でも私の物語はそうではなかった…。





私には産まれた時から決められた婚約者がいた。

この国の第1王子だ。

私はそのことを知らずに寝る前に読んでもらう何冊もあった絵本の中で、お姫様が出てくる絵本を気に入って何度も何度も読んでもらっていた。

お姫様のセリフもそらで言えるぐらいになった頃お母様から


「アルベルタもお姫様になりたい?」


そう聞かれて


「なりたい!」


「そう、王子様と結婚すればアルベルタもお姫様になれるのよ。キチンと挨拶が出来るようになったら、お城に住んでる王子様に会えるの。だからマナーのお勉強頑張りましょうね」


それからは家庭教師が来る日が楽しみになった。

勉強を頑張れば王子様に会える。

お姫様になって王子様とずっと一緒に仲良く暮らせるのだ、あの絵本のお姫様のように。


早く会いたくて特にマナーの勉強は必死になって覚えた。


そして7歳の誕生日パーティの様子を見て、お母様がお城の王妃様のお茶会に連れて行ってくれることになった。


王子様に会える!!


普段は任せっきりのドレスも当日のドレスは自分で選んで、髪型もあれこれ色々アレンジをしてもらい一番可愛く見える髪型を決め、挨拶もお父様相手に何度も練習してワクワクしながらその日を待った。


そのお茶会から私はお城に定期的に行くことに決まった。

大人達の話し合いで婚約者候補になったからだ。


初めてローデリック様にお会いしてから絵本の王子様は本物の王子様になった。


お城でローデリック様と将来護衛騎士になるヒルデブランドも一緒にお勉強したり休憩にお茶をしたり、途中何人か増えたり減ったりしたが私達は常に3人で楽しく過ごしていた。






12歳になり1つ年上のローデリック様が王子教育を終えて王太子教育に切り替わったことで、私の王太子妃教育も本格的に始まった。


今までは候補だったが、他の候補者よりも家柄も成績も良くローデリック様との相性も悪くなかったので当初の予定通り正式に婚約者となったのだ。


婚約式も執り行われ国一番の厳かな協会で女神様に見守られながらローデリック様と誓いの言葉を交わす。

綺麗なドレス、王家に代々受け継がれている素敵なティアラを身に着け小さな頃に読んだお姫様に一歩近づいたと幸せな気分になった。


婚約式の後から準王族扱いになった私は登城する際に王家から護衛がつくことになり、馬車の中で知らない護衛と気詰まりな時間を過ごすのが嫌で、まだ見習い騎士のヒルデブランドを指名した。


もちろん成人の護衛騎士も何人かつくのだが、ヒルデブランドの家は王家の護衛騎士を務める家系だったこと、見習い期間が残り1年を切っていることで特例として認められた。


準王族になると、護衛騎士と連絡が取れるように蝶を使えるようになる。

蝶に名前と止まる場所を伝えて飛ばすと、その人の元へ飛んでいってくれるのだ。止まる場所でメッセージが解るようになっている。


私の蝶は青色で肩なら『すぐ来て』右手なら『危険な状態』などのサインになる、居場所は蝶が案内するのでどこにいても護衛騎士が駆けつけてくれる。


普通は常に誰かが着いてくれているのであまり使うことが無いものなのだが、私にはとても必要なものになった。


何故ならローデリック様が王太子教育、そして行く行くは王になるための教育が始まって、私は王太子妃教育と会える時間が減ったこと。


その王太子妃教育が今までの教育以上に厳しくなり側室についてなど考えたくない項目も増えて、幼い頃から一緒で自分を作らなくて黙って愚痴を聞いてくれるヒルデブランドを呼ぶ為に必要だったからだ。


王太子妃教育の中で私が一番不満に思うのが側室制度についてだった。この国は一夫一妻制だが王族だけは違う。


王族の男性は妻に子供がいるいない関係なく、結婚から2年経つと必ず側室を持たなくてはならないのだ。

たった13歳、1年前の婚約式で絵本のお姫様に近づけたと思っていた私に突き付けられた現実は余りにも残酷だった。


側室制度はローデリック様のことが好きではなかったのなら、耐えられたのかも知れない。

でも初めて会った7歳から6年間過ごしてきて、私にとっての王子様はローデリック様。


難しい問題に困っていたら優しく教えてくれて、勉強が辛くてこっそり泣いていた私に大好きな焼き菓子を持ってきてくれて慰めてくれるどの物語の王子様よりも素敵なローデリック様。


ローデリック様の隣には私がいて、その側には護衛のヒルデブランドがいる小さな頃の様に3人仲良しの幸せな未来があると思っていた。


それでも公式な場所ではローデリック様の隣には私しか並ばない。

そう聞いてヒルデブランドに不満を沢山ぶつけて聞いてもらい納得していた。


ある日帰りの馬車で好奇心から王族以外の婚約者達はどう過ごすのかと、ヒルデブランドの婚約者の話を聞いてみた。


ヒルデブランドは宝箱から大切なおもちゃをそっと取り出すようにいつもの無表情を少し崩し優しい目と柔らかな声で、婚約者の話をし始めた。


お気に入りのデートは遠出で、湖の近くでピクニックをすること。今は婚約者は馬車に乗ってだがお互いもう少し大きくなるとヒルデブランドの愛馬に乗せて2人で行きたいのだと話しだした。


その顔を見て物語でしか知らなかった『愛しい』が形になってわかった。


その日からまるで気分転換に読んでいる恋愛小説のような、ヒルデブランドと婚約者の話を聞くのが楽しみになった。

非番の次の日などはソワソワ落ち着きが無くなってしまうぐらいだった。

つい待ちきれずもう帰り道かと蝶を飛ばして、当日に話を聞くのが習慣になるほど。






婚約式から2年経ちローデリック様とお話出来る時間は私よりも教育項目が多いローデリック様の隙間の時間に散歩やお茶をするぐらいになっていた。


でもヒルデブランドから聞いた遠出の話を私が羨ましいと言ったことで少し時間に余裕がある時は城の中にある森に馬に乗ってピクニックへ行けるようになった。大好きな焼き菓子をたっぷり持って。


会える時間は幼い頃に比べて少なくなっていたけど幸せに過ごしていたのだがある時ふと気づいてしまったのだ。


ローデリック様の目に、私と話していてもヒルデブランドが婚約者の話をするような熱が無いことを。


「どうしたのアルベルタ」


「なんでもないわ、ローデリック様」


ショックで固まっていた私を心配して声をかけてくれる。


「教師がアルベルタを誉めていたよ。もう周辺諸国の言葉をすべて覚えたと聞いた。凄いね私も負けないようにしないとね」


「嬉しい、でも発音が難しいものも沢山あるの。もっと褒めてもらえるように頑張るわ」


動揺を悟られないように言葉を続ける。

そう、いつもと違うことに気づいてもらえるぐらいには思われてる。


例えそこに私が求める愛が無くても違う形の愛が在るはずなのだ、私だけがローデリック様の唯一の妃になれるのだから。


そこからはいつものようにヒルデブランドと婚約者の話。

美味しかった最近流行りの外国から入ってきたお菓子。

流通経路が整備されて辺境から珍しいフルーツが入ってきた話など女の子のお茶会で話される流行の話題などを話して、ローデリック様の休憩時間が終わったので帰りの馬車へと向かう。


ローデリック様の目に気づいたことはヒルデブランドにも話せなかった。


婚約者の様に愛されていない自分を認めるのが嫌だったのかローデリック様が私に愛情を持っていないことを肯定されるのが嫌だったのか、自分でもわからない感情を押し込めて蓋を閉じた。


15歳になり来年結婚式の準備や同年代の交流のためのお茶会。


実際は派閥の調整や領地、親の主義思想などを探るための社交に忙しくなり同時に側室候補の選定もしなければならなかったので、他の不満がありすぎて大切にされているのだからと気にかけないようにした。


ヒルデブランドの婚約者との話は当たり前の話題になってしまっていた為その後もずっと続いていた。

ただ今までは帰りの時間を気にして飛ばしていた蝶を非番の日でも気にせず飛ばす様になっていた。


聞いてほしい愚痴は沢山あったし、城の行き帰りよりも非番の日の方が時間がある。

ヒルデブランドの婚約者は愛されているのだから呼び出してもいいだろうと、少し意地悪な気持ちで私的なことに使うべきでは無い蝶を飛ばしてしまっていた。






ヒルデブランドの非番の日に蝶を飛ばすのが当たり前になってきた頃、王都から離れた地方に視察に行く公務が入った。


いつもの視察のようにローデリック様も一緒と思っていたら運の悪いことに今回は別の公務があり王都を離れられないので、私だけが行くことになってしまった。


結婚式も近くなりそれと同時にローデリック様は王太子になる。

私も婚約者から王太子妃に、そうなるとこれからもっと別れて行動することも増えて行くんだなと寂しくなった。


現地に着いてこれから3日間色んな場所へ視察に周る。

泊まるところはこの地方の領主の館だった。


晩餐までの時間つぶしに庭を散策してると、護衛を外れてたヒルデブランドを見かけた。

警備の話をしているのかな?となんとなく聞いているとこの地方で流行っているお菓子や小物などの情報を聞いていた。


晩餐の後でヒルデブランドに聞くと、手紙を出してもらえる場所を聞くついでに婚約者のお土産の参考に聞いていたといつもの優しい口調で話しだした。


「手紙?」


なにか緊急に連絡しないといけないことがあったのかと聞くと。


「あぁ王都を離れたときは着いたら必ずシャロンに手紙を書いてるんだ」


と言われて驚いた。


今までローデリック様が隣国や地方に行ったときに貰ったこともなかったし、私も送ったことがなかったからだ。


本当に思い合ってる恋人同士を見せつけられた気がして、堅く蓋を閉じたはずのものが少し緩んだ。


結婚式の準備の進行具合と同じ速度で私は少しずつヒルデブランドへ送る蝶の時間を早めていった。


後数ヶ月で式という頃にある噂を耳にした。

ヒルデブランドが私のことを幼なじみ以上に思っている。


見習い期間にも拘わらず護衛騎士になったのはヒルデブランドが恋心を隠して私を護りたいと思っているからだ。

馬鹿らしい、すぐ無くなるだろうと思っていたが私が知った頃には同年代の令嬢達が面白がって拡めていたのだ。


そこには『王太子妃と護衛騎士の禁断の恋』という物語の様な設定に対する憧れや、ヒルデブランドの婚約者がまだデビュタントもしていない子供で、自分こそがという下心も隠されていたのだろう。


何処から否定の噂を撒いていこうかと悩んでいる時にお茶会で『噂のせいで王太子殿下に嫉妬されませんでした?』と聞いてきた令嬢がいたのだ。


その時は言葉は特に返さず微笑むだけにとどめたのだが、ローデリック様が『嫉妬』してくれるかも!それこそ物語のように…。

噂を聞いてもしかしたら本当は私のことを愛していることに気づいてくれるかも。


一度そう思ったらどんどん想像が膨らんできて、ローデリック様からなにか言ってもらえるまで噂を放置しようと決めた。

事実ではないからすぐ下火になるだろうし、大した問題ではないと思ったのだ。






ローデリック様との結婚式は国をあげての式典になった。


婚約式と同じ協会で女神様に誓い、王都をパレードして国中が私達をお祝いしてくれた。


絵本の王子様より素敵なローデリック様の隣にいれる事がただ嬉しかった。小さな頃に憧れたお姫様になれたのだ。


結婚して王太子妃になってもローデリック様との距離感は変わらなかった。

大切にされているのはわかっているのだが式の誓いの時、初夜の時ですらローデリック様の目に私の求める熱が籠もることは無かった。


でも今まで二人っきりになれることなど無かったので、同じ部屋にローデリック様が居てくれるだけで幸せだった。

でもローデリック様との幸せな時間は長く続かなかった。


王太子妃としての執務に慣れてきた頃、とうとう側室選びをしなくては行けない時期が来たからだ。


側室候補たちの調査を進め、候補の令嬢達とのお茶会を開く。

すり寄ってくる人、侮る人、色んな反応をする令嬢達。


もしかしたらローデリック様の愛情を向けられるのは私ではなく彼女達の誰かになるのかと思うと不安と不満が積もり、非番のヒルデブランドに蝶を飛ばす時間はどんどん早くなっていく。


そして噂も消えず、この頃には皆が知ってる様になってしまっていた。


やっと側室も内々で決定し煩わしいお茶会も終わり、今年のデビュタントまで後1ヶ月という頃にヒルデブランドから休暇の申請を受けた。


「シャロンがやっと今年デビューなんだ」


「少し考えさせて、他の護衛との兼ね合いもあるから」


嬉しそうに書類を出すヒルデブランドに反射的に保留の返事をしてしまった。

側室の輿入れがデビュタントの日だったからだ。


その日は側室の部屋にローデリック様が行く、だからいつものようにヒルデブランドに愚痴を聞いてもらい気を紛らわそうと思っていたのだ。


結局デビュタントの1週間前に休暇は許可出来ないと返事をした。

ヒルデブランドの婚約者は愛されているのだから。


結婚すれば独り占め出来るのだから良いじゃないかと自分勝手なことを思ってしまった。


デビュタントの日、私の護衛をしているヒルデブランドを見てローデリック様が驚いた顔で言った。


「エスコートはどうした?今日はシャロン嬢のデビュタントだろう?アルベルタ休暇をあげなかったのか?」


「他の護衛騎士との兼ね合いでどうしても外せなかったのです」


ローデリック様は私の答えに初めて苛立ちを見せた。


「ヒルデブランド、今からエスコートは無理でもファーストダンスだけでも踊れるように手配するよ」


「いえ殿下、シャロンの御父上が楽しみにしてらしたので今日は護衛に専念します」


「そうか、ではよろしく頼む」


ローデリック様とヒルデブランドの会話が続くが何も入ってこない。

私はしてはいけない失敗をしてしまったのだ。

ローデリック様の顔を見るのが怖い。


結局その日夜会が終わってからヒルデブランドを呼ぶこともせず、震えながら一睡も出来ず次の日を迎えた。






ローデリック様が奪われるかもという不安の中、執務を熟す日々。


幸い厳選して選んだだけあり、側室との諍いなど無く表面上は穏やかに過ぎていった。


ある日執務が終わる頃ローデリック様から少し話がしたいので部屋に行くと言われ、デビュタント以来二人っきりの時間が取れていなかったので楽しみに準備して待っていた。


久しぶりの二人っきりなのにローデリック様の表情は堅く


「アルベルタ、君とヒルデブランドの噂は知ってるかい?」


「ええ、聞いたことがあるわ」


「知っているなら何故キチンと対処しない。婚約者のデビュタントに休暇を認めないなど、噂を後押しするような行為が出来るんだ!」


「え…」


「大体君がヒルデブランドの非番の日に、蝶を飛ばしている事が知られたから噂が立ち始めたんだよ。キチンと情報収集して対処していると思っていたが、何もしていない様だね。クリスティーナから君が対処していないと聞いたよ」


楽しい話が出来ると思っていたのに突然の話題、そして側室の名前が出てきて何も返事が出来なかった。


「今後ヒルデブランドの非番に蝶は飛ばさないようにしてくれ。今更遅いかも知れないが、噂の対処もしっかりするように」


そう言って部屋を出て行ってしまった。


涙と震えが止まらない。

ローデリック様の表情と部屋を出ていく背中だけが目に焼き付いていつものように蝶を飛ばしてしまった。


それがまさかあんなことになるなんて…。





その日私が飛ばした蝶がヒルデブランドと婚約者の将来を奪ってしまった。


ヒルデブランドは護衛騎士の職と婚約者を、婚約者はヒルデブランドとの未来と女としての幸せを無くしてしまった。


私はローデリック様に呆れられ公務と決められた房事の日以外で会うことはなくなった。


そうなってしまってから今までローデリック様に愛されていたのだと気づいた。

私はわかっていなかったのだ愛情の示し方、形は一人ひとり違うことを…。


私の物語の最後の言葉はこう締めくくられるだろう。


自分勝手な愛を求め続けた馬鹿なお姫様は、王子様の愛情に気づかず愛されない独りぼっちのお姫様になってしまいました。


おしまい。

最後まで読んでもらえて嬉しいです、ありがとうございます。


評価、感想、ブックマークありがとうございます。


本当にありがとうございました。

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[気になる点] 貴族にとって噂は恐ろしい魔物。王族なら何よりどうにかしないといけない重要な仕事。それに対処もできない妃が仕事は優秀というのはちょっと理解できないです。 [一言] 無神経な騎士も不誠実で…
[良い点] 王太子妃は夫の愛を感じられない事からいろんな事を拗らせたのでしょうね。 その中でも、護衛騎士の惚気話が1番癪に触ったのでしょう。だから、何かにつけて「護衛騎士と婚約者は深い愛情で繋がって…
[一言] もやもやしました。 最後まで自分本位な人だなぁと。 こんなに周り引っ掻き回したんだから不幸になって当たり前なのに。
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