金髪碧眼の女子バレー部のエースに告白したらフラれたけど、俺が作った弁当だけは毎日食べたいと懇願された話。愛情を込めた弁当で愛を育んでいきたいと思います。
ご覧頂き、ありがとうございます。
ラブコメの短編を書いてみました。
最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
「初めて会った時から好きでした! 俺と付き合って下さい!」
ある五月の昼休み。
学校の屋上から見上げる空には雲一つない。
その青空に飛行機雲が一筋伸びていた。
四月までは時折吹いていた寒さを帯びた風は吹かなくなり、大型連休を終えた今では夏を匂わせる日差しが降り注いでいる。
しかしながらまだ暑さは感じず、突き抜ける青空も相まって心地よい。
グラウンドには早々に昼食を終えた男子生徒数名がバレーボールを持ちだし遊んでいた。
彼らの声を遠くに聞きながら彼――碧英太は九〇度に腰を折り曲げ、自身のつま先を見つめていた。
右手を突き出し、答えを待つ。
言った。とうとう言ってしまった。
心の中で何回も反芻した告白の言葉。昨日の夜は自分の部屋でこっそり練習した。
だから、上手く言えた。……はずなのに。
英太の口から紡がれた言葉は間違いなく彼女に届いているはずなのに、その彼女からの返事は無い。
永遠とも思える時間、それは数瞬の沈黙。
ほんの一瞬のはずなのに英太には、時が止まったままになってしまったかの様な感覚にすら陥るほど長く感じられた。
しかし、時間は無常にも動きだす。
「……ごめん、付き合えない」
その凛とした、しかし憂いを帯びた声に英太は目を見開き、顔を上げる。受け入れられなかった右手を力無く握り、引っ込めた。
正直、覚悟はしていた。この告白に勝算があったわけではない。上手くいかないかも知れないと。そう思った。
しかし言わずには居られなかった。
それほどに英太の胸は彼女でいっぱいになっていた。
彼女と付き合ったら何をしようか。一緒に昼ごはんを食べよう。毎日俺が弁当を作ってこようか。彼女の部活が終わるのを待って一緒に帰ろう。考えるだけでワクワクする。
いつか、手を繋ぎたい。いつか、キスを……してみたい。
昨日までは楽しい妄想ばかりできた。
けれど、彼女の声でそれは泡となって、消えた。
顔を上げた英太の瞳に彼女が映る。
一八〇cmの長身の美人。
快活なショートカットに切り揃えられた金色の髪。後ろ髪に比べて前髪が長く、7:3で分けられた髪を片方だけ形の良い耳にかけている。
垂れた前髪から覗くシャープな眉毛。大きなやや端の上がったサファイア色の瞳。桜色の艶やかな唇。
白雪の様に透き通る白い肌は健康的な赤みを帯びており、細く、しかし鍛えられた手足は彼女がバレー部のエースということもあり、非常に引き締まっていた。
彼女は、小清水凛子は少し居心地が悪そうに頭をかいて英太にそう告げた。
「どうして」
そう聞かずには居られなかった。けれど言ってから気がついた。
フラれる理由は次々と浮かんでくるのに、オーケーを貰える理由なんてひとつも浮かんでこなかった。
凛子の形の良い唇がゆっくりと開く。
「部活に集中したいから。私、高校では誰とも付き合うつもりないんだ」
英太から目を逸らし、やはり居心地が悪そうに長い足を組んだ。
凛子はこの何の変哲もない普通の高校に入学してきた超高校級のバレーボーラーだ。
特別待遇の彼女は授業料と寮費が免除されている。
自分だけ特別扱いされているのに、色気に走って部活が中途半端になる事だけは避けたかった。
男にフラフラするような自分は想像するだけで許せなかった。
凛子は英太に限らず、誰とも付き合うつもりは無かった。
それに、遠い日に交わした約束が心の片隅に残っていたから。
「そう、か」
「でも、どうして私なんか? ガサツだし、結構男っぽいと思うけど」
肩を落とした英太に、凛子はそんな風に話しかけた。
事実、北欧の血を引き、日本人離れした美少女の凛子は、その派手なルックスもあり男子に人気がある。
けれどその容姿と相反して、少々……多少ガサツなところがあった。
彼女の妖精じみた容姿に引き寄せられる男どもも、休み時間、自分の机に胡座をかいて座り、ダイナミックにくしゃみをして「あー、ちきしょー」とか言っている姿を遠目にみて離れていった。
入学当時は相当男子を惹きつけていたが、徐々に露見した凛子のそんな部分が同級生の一年生に伝わり切った頃だった。
だから不思議だった。こんな自分を好きだと言ってくる男子が、英太が不思議だった。
そんな凛子の気持ちを知ってか知らずか。英太は訥々と語り始めた。その声色にはやはり覇気はない。
「美人だなって、そう思ったから」
その答えに凛子は「ああ、やっぱりな」とそう思った。
どうやら自分の容姿は男受けするらしかった。
その事はありがたいのだが、外見と内面のギャップが大きい彼女はそのギャップで損をする事が多々あった。
だから美人だと言われる事自体は嬉しいが、外見に惚れたと断言されると自分の本質を見ていないんだなと少し残念になった。
彼女の内面を見ずに、容姿に惹かれてくる男子は確かに多い。けれど凛子の中身を知るとやがて離れて行く。そうで無くても友人。同性のように接してくる男子ばかり。
それは嫌じゃない。おかげで友達は多い方だ。
英太の返事を聞いてガッカリはしなかった。ただ、英太も他の人と同じなんだな。そう思った。
しかし英太は「だけど」と続けた。
「小清水が俺の作った弁当を美味いって言ってくれて。その時の笑顔が忘れられなくて」
ある日の昼休み。財布を忘れてきてしまい、購買で昼食を買うことが出来ず、屋上で腹を空かせていた。
そこに自作の弁当を食べようとやってきたのが英太だった。
英太は適当な所に腰を据えると巾着袋から弁当を取り出し、蓋を開けた。
中身はだし巻き卵、えんどうの胡麻和え、鳥の唐揚げ、そぼろご飯。
料理が得意な英太にとっては何でもない弁当。
しかし腹を空かせた運動少女に取っては宝箱に入った宝石の様に輝いて見えた。
つい「一口ちょうだい」と口を突いてしまった。
英太は驚きながらも唐揚げを一つ差し出す。
一口食べた凛子は目を輝かせて一言。
「……美味しい!」
と言った。
嬉しかった。単純に気をよくした英太は弁当を差し出した。
それを遠慮したものの、あまりの美味しさにそのまま受け取ってしまったのだ。
その時の美味しそうに食べる凛子の笑顔に、英太は一目惚れをした。
同時に思った。こんなに美味しそうに食べてくれる人は初めてだと。
その後たまに昼休みの屋上で出会うとオカズをいくつか分けている内に2人は仲良くなっていった。
それはたった一ヶ月足らず。けれど、英太の心がいっぱいになる期間にしては十分だった。
好きな人に自分の作ったものを食べてもらうのがこんなに嬉しいのか。
そして料理を食べて「美味しい」と花が咲いたように笑顔を向けてくるのならさらに心が踊った。
好きな人の好きな料理を聞き、頑張って作る。
好きな人を笑顔にさせる事が出来る。その事がどうしようもなく嬉しかった。
そんな会話をして行くうちに、英太はもっと彼女の事を知りたいと思っていった。
……でも。
「もう、おしまいだな」
「……え?」
「だって気まずいだろ? フった男の作った弁当なんて食べれないだろ?」
「あ、い、いや、その……」
そうかも知れない。そうかも知れないが……。
凛子の思考が加速する。
フッたのは英太が嫌いだからじゃない。むしろ英太はいい奴だ、優しいし気が利く。容姿も悪くない。というか髪など整えたらそこそこイケメンの分類に入るのでは。
何より、英太の作る料理はどうしようもなく美味しい。
凛子が「こんなのが好き」「あの時食べたアレが美味しかった」そんな事を言うと、次の日にはそれを見事に再現してくるのだ。
そしてそれら全ては凛子の想像の上を行く。
凛子は確実に英太に胃袋を掴まれていたのだ。
英太の料理が食べられない。
毎日だった訳じゃない。頻繁ではなかった。
けれどそれが逆に英太の料理に対する飢えとなり、渇望してしまっていた自分に気付いた。
……こ、これがもう遅いってやつ!?
フラれた英太も相当凹んでいるはずなのに、何故かフッた側の凛子も凹み始めてしまっていた。
「……それは、イヤ」
「え……?」
「それはイヤ!」
「え、でも俺のこと好きじゃないって……」
「好きじゃないなんて言ってないでしょ! むしろ好きよ……「え、ホント?」英太の作る料理はね」
「そこで倒置法使うなよ……」
最悪の緩急に半目になる英太。
「ふふっ、悪気は無いわ。英太の間が悪いのよ」
けど、凛子は好きだと言った。英太が作る料理を。
「英太とは付き合えない。でも、英太のごはんは食べたいの。毎日!」
「ま、毎日!?」
「もちろんお金は払うわ。1食ワンコイン!」
「いや、素人の弁当に500円は高すぎ――」
「100円!」
なるほど、100円も確かにワンコインだ。
「えぇ……いや、良いけど……」
「やったぁ!」
「てかお金は要らない。どうせ俺の分は作るんだし。一個も二個も一緒だから」
「い、いいの!? やったぁ!」
さっきまでの絶望感はたったその一言で消え去り、幸福感で胸が満たされて行く。
単純な自分に笑えてくる。
英太の笑顔を見て、凛子も笑顔になる。
凛子の金色の前髪が五月の乾いた風に揺れた。
ハラリと垂れた前髪を耳にかけるとさりげなく飾られたピアスが光った。
「なんだよそれ……でも、これからも今まで通り作って来ていいのか?」
「それは、うん。けどそれだと私にとって都合良すぎない?」
「そんな事ないぞ。小清水は弁当がタダで食える。俺は小清水と一緒に居られる。ウィンウィンってやつだ」
「うっ……よくもそんな恥ずかしい事言えるわね」
英太の真っ直ぐな台詞に凛子の心臓が一瞬跳ねる。
彼の事は嫌いじゃない。むしろ英太が作る料理は大好きだ。
ただ、バレーの特待生だから色恋は無しだと決めているから。
「ははっ、フラれたてホヤホヤだからな。怖いものはねぇ」
「失恋者、恐るべし!」
やがて昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り、二人は一緒に屋上を後にした。
階段を降りながら、明日の弁当は何がいいだの、寮のご飯は味が濃すぎるなどと話しながら。
フラれた少年と、フッた少女。
それは二人の始まり。
彼が作った料理が、彼女を創っていく。
そんな物語。
お読みいただき、ありがとうございました。
作者は【ブクマ】や【評価】をして頂くのが大好きです。
その為に書いていると言ってもいいくらいです。
生き甲斐、といっても過言ではないでしょう。
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くだけで大喜びする単純人間です。
まだの方いらっしゃったら、下部の☆を塗りつぶして貰えると嬉しいなぁ(切実)
レビューなんか超絶嬉しいです、感想ももちろん。
もし好評を頂けるのであれば、連載も考えています。
続きが気になったり、少しでも二人のお話の続きを読んでみたいと思って頂けましたら、★★★★★の評価とブックマーク登録をよろしくお願いしますm(_ _)m
応援、よろしくお願いします。
2021.11.25追記
【連載します!!】
鋭意執筆中、近日中に続きを公開いたします。
その際は近況報告でお伝えしますので、よろしければお気に入り登録をよろしくお願いします(´∀`)
頑張るぞぉー٩( 'ω' )و
2021.11.28追記、修正
なんと【日間ジャンル別2位】にランクイン。
念願だった表紙入りをする事が出来ました!!
これもひとえに読者さまのおかげです。
本当に嬉しいです。ありがとうございます。
これからも頑張って行きたいと思います。